62.戦士の誇り

「そう言う事か……。ならば、やろうではないか!!」


 僕が、ヴィハ・ムに申し入れた決闘の一戦。

 無論、僕には戦士としての戦闘力など絶無である……ので。

 基本はアームドアーマー乗りだが、腕っぷしが滅法強く、また武技全般を修めているレウペウさんに僕らを代表して戦ってもらうことにしたんだ。


「すいません。他に言い抜けようがなかったもので……」


 僕は、他から見れば僕の部下と言う事になるであろうレウペウさんに頭を下げる。

 周りから見てどうであれ、レウペウさんは僕の部下ではなく、僕の友人だからだ。


「フッ……。いいではないか、ユハナス。俺は滾るぞ? 見たところ、この炎の都にいる炎の魔導種族とやらは、随分腕っぷしがいい。それに戦い慣れてもいそうだ。その中の選りすぐられた戦士と戦うとなれば! 俺がお前と共に行動をするようになって以来の、最大の腕の見せ所かも知れん!」


 そう言って、自分の腕を擦るレウペウさん。この人……、生粋の武人気質だなぁ……。


「イデスちゃんにも。上空で待機してもらっていた方がいいのじゃない? ユハナス君? いざ場合と状況が拙いことになったら、救助してもらって一気に逃走しちゃいましょうよ」


 あ。そういう次善策も用意しておくことは必要か……な?

 あの正々堂々たるヴィハ・ムに比べて。やや汚いような気がしなくはないが、シオンさんのその助言に僕は頷けるところがあった。


「そうですね、イデスちゃんに連絡をしておきます」


 僕はそう言うと、携帯端末(都市近くに停泊しているリジョリア・イデス号がアンテナになってるから使えるんだ)をつかって、イデスちゃんに連絡を入れた。


「……うん、そう。上空から見て、大きな円形の闘技場っぽい建物。いや、闘技場なんだけど。そこの高空に、下から窺えないように雲の擬態をして待機していて」


 電話の向こう側から了解の答えが来る。流石にイデスちゃんは状況の呑み込みが早い。まあ、実はイデスちゃんは、トイロニおじいちゃんより年上だしな……。物事に対するケースバイケースの対応にも、状況転換の発想力にも富んでいるから。


   * * *


「オウ。レウペウとやら。大した度胸だな? 我ら炎の眷属の選り抜きの戦士と戦う覚悟があるってのは。その胆の具合は気に入るもんだぜ、俺も。多少の腕さえあれば、度胸と胆力で俺の部下になれる男だ、お前は」


 円形の建物。炎の都の闘技場。その武舞台に立ったレウペウさんに、傲然とそう言うヴィハ・ムの前で。レウペウさんはニヤリと笑うと答えを返した。


「生憎。俺はプライドが高いのだ、ヴィハ・ム殿。俺が今の所心酔しているのは、世界幾つあれども、ユハナス・ユヴェンハザただ一人だ。残念ながら、貴殿は俺を召し抱えることはできん」


 その答えを聞くと。ヴィハ・ムは妙な顔を一瞬したが、大笑いを放った。


「あっはっは!! お前らの頭のユハナスは考え方が随分柔軟だが。オメーは頭かてぇな? レウペウとやら! だが、その硬質の思考こそが戦士の強さになる。まあ、オメエの戦いっぷり、上座でじっくりと見させてもらうぜ。健闘しな!!」


 そう言って、衣を払って階上の観覧席まで階段を登っていくヴィハ・ム。

 が、突然振り向いて、こんな言葉を落とした。


「ああ、言い忘れていた。オメエの相手は、あの向こうの入り口から入ってくるが……。ユハナスは『俺の選んだ最強の戦士』をお前にぶつけろと言った。だからな、俺はよくよく選んだ。楽しみにしとけよ? レウペウとやら」


 そして、もう余計なことは言わず、階上まで登り切ると。観覧席に腰を下ろすのだった。


「レウペウさん、危ない目に遭わせることになる事。本当にすいません」


 僕は、レウペウさんにそう言って頭を下げるしかなかった。でも。


「何を言っているんだユハナス。これも、俺の役目の内だ。こういう機会でもなければ、俺はお前の下にいる意味を失う。安心して見ていろ。シャルシーダ星系の王家の武技、存分に披露してやるわ!!」


 ヴィハ・ムから借り受けた長槍をしごいて、ぶんぶん振り回し。戦意旺盛なレウペウさん。まあ、この人に勝てる敵ってのは……。そうはいないか。

 なんとなくだけど、レウペウさんが負けるところが想像できない僕は、この人なら大丈夫だという信頼と共に、口を開いた。


「お願いします、レウペウさん。僕らの運命、今は貴方の双肩にかかっていますので!!」

「フフフ……! 滾るじゃないか! 父王陛下に連れられて、初陣を踏んだ時のことを思い出すぞ!」


 うん。後は余計な事を言わずに。


 任せよう。


   * * *


「……!! なにあれっ!! 化物じゃないのっ!!」


 マティアさんが叫ぶ! 僕らも呆れた口が塞がらない! レウペウさんの敵として出てきたのは、人間ではなかった!!

 赤い体毛のもじゃもじゃ生えた、丸太みたいな棍棒持った! 全長4メートル近い巨人。いや、巨人ってより……!


「はっは!! ははっは! 炎の闘鬼、ファイアオーガだ! ユハナス、オメーは俺に、『人間の戦士を出せ』とは言わなかったよな? 最強の戦士を出せとは言ったが。だから、選んだぜ? こと単純戦闘力では、俺の部下の中でも最強のバケモンを! まぁ少々、おつむは足りんが。戦闘に対する直感と、腕力はトンデモねぇぜ? さて、ユハナス! オメェの秘蔵の部下、レウペウが俺のファイアオーガに勝てるか否か?! 楽しんで見るとしようじゃねーか!!」


 馬鹿笑いしやがるヴィハ・ムの奴!! こんにゃろー!! 結構言葉尻を捕まえて、せこい解釈で自分の都合のいい条件を整えてくる。

 だけど、僕は商人だ。言葉を約束の形に出した以上は、それは契約と同等の重みをもつ。それを違えるわけには行かない。


「レウペウさん!! すいません、裏かかれました!! 勝てそうになかったら、降伏してもいいです! 後のことは僕が何とかしますからっ!!」


 僕がそう観覧席から叫ぶと。


「どうにもならん状況だから、俺が戦うのだろうが! 勝ってやるから落ち着いて見ていろっ!!」


 と。武舞台で槍を旋回させているレウペウさんに怒鳴りつけられた!


 マジで勝つ気かレウペウさん。あのファイアオーガとか言う、炎の闘鬼に?!

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