61.炎の都の宴

「ハハハハハ!! おら、食え食え!! テメェら、肉はともかく! アーヴァナが持ってきてくれた岩塩とスパイスがたんまりあるぞ?! ウチの領地の肉に、アーヴァナの地の領地の岩塩とスパイスかけりゃあ! それだけで絶品の肉料理だぁ!!」


 ヴィハ・ムは。宮殿の前の広場に、数百人の部下を集めて。盛大な宴を開き始めた!


「な? 何事です?! この大騒ぎは!!」


 僕は、思わずヴィハ・ムに問いただした。


「ああ? テメェ何言ってんだ? テメェが俺の友達になったことの祝いの宴だろ? おらおら、肉ガンガン食って、酒のめ、ユハナス!!」


 えー? 何言ってんのこの人?!


「と。友達って?」

「ああ? 俺は祝うべきだと思うんだよな。俺の部下どもは頭悪くてよ。輸送にも不器用っぷりを披露しちまって。ひでぇやつは輸送の日程が捗らないと、輸送物資に手を出して食っちまうんだ。ユハナス、お前はそんなことはしない。そう、俺の前で啖呵切ったよな? だから、俺はそれが気に入った。そこまで言い切れるほどの輸送の腕と、信義を守れる奴。だったら、気性的には俺と相容れる。だから、オメーはもう俺の友人だ。断らねえよな? 俺が友人になりてぇって言ったら?」


 あああ。もう、ヴィハ・ムは。

 強烈な眼光を僕に向けて、獰猛な笑いを浮かべながら。

 僕に友誼を結ぶことを、「強制」してくる!!


「や、止めた方がいいですって!! 僕はこの通り軟弱者ですし!!」

「んー? 確かに体つきは軟弱だがな。俺に対して啖呵切った時のあの気品と凛然さ。ありゃ、相当なもんだぞ? お前、戦場潜ったことあるだろ?」

「……似たようなことはありますが……」

「まあ、そういうこった。頼りにしてるぜ、ユハナス。俺は、大戦を構えるとき。お前を呼んで依頼して、輸送全般の取り仕切りを任せることにした!!」


 うわあ!! 無茶苦茶言っているよこの人!!


「こらぁ!! ヴィハ・ム!! ユハナス君とは、私が先に友人になったのだぞ!!」


 ヴィハ・ムのごり押し論法に僕が押されていると、アーヴァナさんが助けに入ってくれた!! 助かったぁ!!


「あん? アーヴァナ? 何言ってんだ? お前、ユハナスを正式に部下として召し抱えたのかよ? どうもそうじゃねぇよなぁ? その辺は匂いと態度でわかるぞ? 俺にはな!! ハッハッハッハ!!」

「くっ……!! こんなことになるなら、何としてでもユハナス君を口説き落として。部下として召し抱えて置くのだった……!!」


 あ、アーヴァナさん……。貴女もヴィハ・ムと同じ思考してるんですか……。と、僕は少し、このマイテルガルドの重鎮たちの、友誼や人情には篤いが、多少単純な脳みそに恐怖を覚えた。


「まあよ、ユハナス。今は特に大戦は構える気はねえよ、俺にはな。だが、いざとなったら。オメェがどこに居ようが探し当てて。わが軍の補給体系を整えさせて、実地で補給の総括を任せる」

「何言ってるんですか?! 僕と知り合ったのはまだ今日でしょうに? ヴィハ・ム様!! 僕の能力も、人柄の信頼性も。全くもって未知数でしょうに、貴方にとっては!!」


 遁辞をかましまくる僕だが、肉に食いついた猛獣のように、ヴィハ・ムは視線を僕から離さない。


「バカにすんなよ、ユハナス? 俺がどれだけの部下を使って来て、どれだけの人材を見てきていると思う? 外さねぇんだよ、上に立つ者って言うのはな。そこのところはよ。そういう目を持っているから、人の上に居られるんだ。この血の体系で支配されている、魔導世界マイテルガルドでも。実務能力や人徳魅力。そう言ったものがないものは、たとえどれだけ尊貴な血の産まれのものでも没落する。その中で生き抜いている、俺の経験による勘が言っている。テメェは使える奴だ!!」


 ……どうしたもんかこりゃ。断るか。


「ヴィハ・ム様。お言葉ですが。僕はそのような重責にはとても耐えられません」


 僕がそう断ると。ヴィハ・ムは暫くつまらなそうな顔をしていたが……。


「おい、警吏。アーヴァナを残したそいつらを。檻にぶち込め」


 !! とか、とんでもない命令を出した!!

 それを聞いたアーヴァナさんが、目をむいて怒鳴りつけるように。ヴィハ・ムに向かって言葉をたたきつける!!


「貴様!! ヴィハ・ム!! 我が友に何をするつもりかっ!!」

「ああ? アーヴァナ? わかんねえのか? コイツは、ユハナスは。俺との友誼を結ぶことを断りやがった。だとしたら、だ。俺にはこいつらを生かしておく理由は塵ほどにもねぇ。気持ちが変わるまで、檻の中でよく考えてもらおうと思ってな」

「何と言う事を……!!」

「オメーとの友誼は大切にするぜ、アーヴァナ。旨い地の産物は、オメーの管理下にあるからな。俺は野菜の類も好物なんだ。地の眷属との友誼は切らん」

「……ここで、私が。ユハナス君たちを守るために、地魔導術を使って大暴れをしたとしたら? どうするつもりだ?」

「はっは!! オメェをひっ捕らえて、人質にして。地の領域に攻め込んで。領地を全部頂く。人ん家の領域で暴れるってのは、そう言う事に値する無礼だ」


 うっわ。やっばいぞ、このヴィハ・ムって男。我儘がすさまじいし、それを実行するに対して躊躇がないし。何よりその力があるのが満々と見える。


「ヴィハ・ム様」


 こりゃ拙いと思ったので、僕は口を開いた。


「あん? 何だよヘタレ」

「アーヴァナ様から伺っていますが。ヴィハ・ム様は強きものを愛でるとか」

「ああ。俺は強い奴が大好きだが? お前みたいなヘタレと違う奴がな」

「実は、僕の部下に。とても強い者がいます。その者が、ヴィハ・ム様。貴方の選んだ者と戦って、勝ったとしたら。僕らに自由を返してくれますか?」


 僕がそう言うと。ヴィハ・ムは肩をすくめた後、大笑いをして言葉を放った。


「面白れぇじゃねえか!! この炎の都の大闘技場で。最高の賭けが始まるってか?!」


 そう言うと、僕らを捕えて檻に放り込もうとしていた警吏を止めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る