55.空飛ぶ船への招待
「では、ユハナス君。マイテルガルドで確立している農法を教えよう」
む。僕らが地の都の宮殿に泊まり込んで幾日目か。
アーヴァナさんがそんな事を言い始めた。いよいよ、僕らとアーヴァナさんの持っている、農法のすり合わせになるらしい。
「マイテルガルドでは、植物の種を地に植え、地のエネルギーを種子に吸収させ。水の力で生命力を注ぎ込み、遥か高空にある光星の浄化の光を浴びさせることで地の不浄を外殻に、水の力で生命力を与え、光の浄化力を核に持った新しき種子を多く実らせて、それを収穫して収穫物と為す。君たちの世界のものとは違うかね?」
理屈を聞けば、僕らの世界でも。植物を地に植え、土の栄養やミネラルを水をやることによって生命力を活性化させた種子に吸収させて。芽が出たところに、光の力を吸わせて、大きく育てる。実りは必ず植えたものより多くなり、それが故に農業は成り立つし、多分一番労働対価の優れた収入を得られる仕事である。
「地の不浄を外殻に、というのが気になります。植物は清らかな物ではないのですか?」
僕はアーヴァナさんにそう聞いてみた。
すると、アーヴァナさんはちょっと色気を湛えた視線でこちらを見た。
「ユハナス君。正確には、『不浄を吸う構造を持った外殻』だ。植物というものは、常々土の状態、水の状態を測ってそれを改良するように働く機能を持っている。つまり、土の不浄を吸って、水で循環させ、光を当てることによって浄化する形。ここで言う不浄とは、浄められることにより汚れる前より豊かになる栄養の事だよ。不浄を浄する過程で、様々なデータが発生する。そのデータの量によって、植物の生命力は決まる」
ぬ! むつかしいぞ!!
つまり、あれだろう。僕らの世界の悪霊粘土。アレが土地を富ませるように、このマイテルガルドの植物は、不浄を外側に集める形の種子形態をもつ種を作る。不浄をまとい、内側に浄化能力を秘めた種子は、エネルギーとミネラルに富む。
つまりつまり。こういう事かな?
「不浄は、毒ともなりえますが。転じて薬ともなりえる刺激物。その理解でいいでしょうか?」
僕はアーヴァナさんにそう聞いてみた。
「ふふふ。そう言う事だ。我らの世界には、栄養水、という衰弱したものに与えるエネルギーの純度の高い水があるが、それを飲ませて衰弱から脱した後の人間には、少しづつ不浄という毒を含んだ食事を与え始める。いわば、肉体に負荷をかけることにより、かえって肉体がストレスを感じて活性化する。そう言う事だよ」
そう言い切ったアーヴァナさんの前で、大きな杖を持ったシオンさんが頷く。
「生命体とはそもそも、不浄を浄するために命の力というものを持つものですし。浄め切られた世界には、人は魅力を感じず、またそう言った世界では物も実り難い。生き物として為すべき事があるところに、生命というものは育ちますからね」
ふむふむなるほど。向こうの世界の、極度に浄化されてしまった惑星ニレディア出身のシオンさんは、そういう思考法であるらしい。
「土地を汚し腐らせ。その毒素多い世界で繁茂する植物こそが、強きミネラルとエネルギーを含む。マイテルガルドの不文律だ」
シオンさんの話を聞いた、アーヴァナさんはそう言うのだった。
* * *
「なんと? この私を、君たちが乗ってきた空飛ぶ船に乗せてくれると?」
一通りの会議が終わった後、僕の提言にアーヴァナさんは少し喜色を瞳に浮かべてそう言った。
「はい。ただ、交換条件があるのですが……」
「ふむ。云うてみろ、ユハナス君」
「ここ近隣の、出来ればもっと広域の。地図が欲しいのです。僕らの船はそこそこの大きさがある為、こちらの街や村にある転移装置を用いることができません。その為に、空を飛んで移動する際の、移動の指針になる地図が必要と。いう訳です」
「なるほど……。確かに空を飛ぶなら、地図は重要であるな。良かろう、与えよう。それで、その空飛ぶ船は今どこにあるのだ?」
「はい、エソムの里の隣町。この地の都に跳ぶための転移魔法陣がある街の上空に停泊しています」
「よろしい。地図は与える。早々とそこに向かう事にしよう」
アーヴァナさんは、何かすごく楽しそうに。
従事の女性たちに自分の衣装替えと出立の準備をさせ始めた。
* * *
「ふむ……。これは大したもの」
地の都から転移魔法陣を使い。エソムの里の隣町の上空で浮遊状態で待機していたリジョリア・イデス号の下まで来た。それが広場に下降してくる様を見て、アーヴァナさんは随分感心したみたいだ。
「中に、入ってもいいのか?」
「どうぞ。入口まで、タラップが続いていますから」
「この階段の事だな。よし、入ろう。少々物怖じはするが」
という訳で、久しぶりに船に帰ってきた僕ら。
「お帰りなさいませ、ユハナス様。それに、連絡にあったお客人様。ようこそです」
イデスちゃんが、慣れた様子でアーヴァナさんの応接に移る。
「麦茶と、焼きおにぎりになります。どうぞお召し上がれ」
応接ルームで、アーヴァナさんだけでなく僕ら全員分の麦茶と焼きおにぎりを出してきたイデスちゃん。自分の分もちゃんと用意するところは、客に気を遣わせないという点でも良く出来ているなぁと感心する。
「……これは、とても上品な味がする。野趣や味わいには乏しいモノの、これはこれで身体に良さそうだな」
アーヴァナさんはそういって、焼きおにぎりを5個も食べた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます