52.一工夫二工夫三工夫
「穴の空いた、水桶? よねこれ? こんなものを使っていたら、水が漏れるじゃないの? それともこれも、なにかの工夫なのかね?」
イデスちゃん作の。外側には普通の水桶、その内側には一回り小さな、底に小さな穴が沢山開いた水桶。それを見たニュルングが、もう恒例の怪訝な顔をする。
「ああ。これはこうやって使うんだ」
イデスちゃんから説明を聞いてきたレウペウさんが、使い方の見本を見せる。
水を注いだ水桶の中に、穴の空いた水桶を沈める。すると、底の穴からどんどんと穴の開いた水桶に水が入ってくる。
小さな水桶に満タンになったら、外側の桶を落として、内側の桶を持つと。
畑の土の上に、小さな穴から噴き出してくる水が拡がってかかって、均等に無駄なく水をやることができる。これはそう言う道具らしい。
「……柄杓で撒くよりも。手数が少なくていいわねコレ……」
横で見ていながら、ニュルングは何やら納得する。
「じゃあ、ニュルング。これは10組あるから。皆に畑に水を撒かせるんだ」
「わかったわよ」
レウペウさんに促されて、ニュルングは部下の農民にその桶のセットを配って渡して、水を汲みに行かせる。
「それから、次はこれかな?」
僕は、自分が持っている柄のないフォークのような形をした、木製の大きな器具をニュルングに示した。
「これ、本当は牛に牽かせて使うんだけど。今はまだ牛がいないから、人が二人掛かりで引っ張る形で使おう」
「……? 意味わからない形ね? これ何よ?」
「まあ、見ててよ。農民を二人ばかり借りるよ」
僕は、シオンさんの神聖術で会話が通じるようになった、二人の農民に。
この木製の土掻きフォークを縄で引っ張ってくれるように頼んだ。
そして、僕は後ろからこのフォークを角度をつけて畑の土に差し込み、合図を出して農民に引っ張ってもらうと。前に進むごとに、もこりもこりと土が持ち上がって耕されていく。
「……ほおー。面白いわね、それ。鍬みたいに、いちいち振り上げて振り下ろさなくても。後ろで押さえて、前から引っ張って進むだけで土が耕せてる。よく思いつくわね、あなた達。私は感心するよ」
そう、ニュルングの言う通り。この器具は、後ろで掘る深さを調整しつつ、前から引っ張ることでどんどん土を耕せる農耕具なんだ。
「最後は~。これだよ~」
ルーニンさんだ呼ぶ声がする。僕とニュルングがそちらを見ると、野良着を着たルーニンさんが、木の板の上で作物の苗を大量に抱えながら、うつ伏せになって寝っ転がっている。
「?」
「みてて~、ニュルングさん~」
よく見ると、そのルーニンさんが寝ている板には、足側の方の角二つに穴が開いていて、そこから縄が繋がっている。
「それじゃ~、ひっぱって~」
ルーニンさんが呼びかけると、農民二人がその板をルーニンさんの頭とは逆側に引っ張る。つまり、ルーニンさんは畑の土の上を足の方向に向かって滑っていくことになる。
「おりゃ~! おりゃりゃ~!!」
そう、この変な器具。ルーニンさんが知っていたもので、板の上で寝ているので身体が地面に近い上に、両腕がフルに使える。つまり。
ルーニンさんは、自由な両腕で。板の上の苗籠から次々と苗を取り出し、植えて行けて。後ろに板が引っ張り続けられているので、板に乗っている彼女もうしろ向きに移動する手間が省ける、優れモノなんだ。
「う~む。あれねぇ、みんな頑張ってるわねぇ」
シオンさんが、麦の粉を水で溶いて焼いた穀物パンをモグモグやりながら。
「ま、私がニレディアの黄金期を支えた、優れた麦の育成肥料バランスを覚えていたし。焼き畑でも、焼いた場所で畑を耕すのではなくて。刈ってきた草を狙った場所に積み重ねて焼くことで、肥料の成分濃度調整ができる。これは、おかしな自然現象が来なければ、まず相当に実るに間違いないわ」
そんな事を言っている。
* * *
「ほーらー!! みんなお昼だよー!!」
マティアさんがお昼になったのでみんなに声をかけると。
土まみれになった僕らや、農民たち。直射日光を浴びての監督指導を続けていたので、汗まみれのニュルング。その全員が、マティアさんが敷いてくれた麦藁の筵の上に腰を下ろして、お湯を飲んで一休み。
「はいはい。私が作った、水溶き麦粉の蒸しパンと。イデスちゃんが特別に作ってくれた、アトミックフードメーカー製の鶏肉の唐揚げだよ!! パンは一人二個、唐揚げは、一人三個。味わって食べなさいよ?」
そういって、なんていうのか。普通の娼婦だったら嫌がりそうな、土で汚れまくった農民たちの間を回って、愛想のいい笑顔で御飯を配るマティアさんだった。
「……うめぇ」
マティアさん作の蒸しパンをかじり、イデスちゃん作の唐揚げを食べた農民が一人、涙を流している。
「お代わりはないから、味わって食べなさいよー? よく噛んでほら、栄養取り込み、栄養取り込みよ!」
そんな様子を見たマティアさんは、ニコニコ笑いながらその農民の頭を軽く小突いた、
なんだろうか。
この妙な、僕らと農民のみんなとの一体感。
僕は、レウペウさんに自分の気持ちがみんなと混ざりつつあることを告げると。
レウペウさんは妙に爽やかな労働の汗をかいた後の笑顔で。
「同じ釜の飯を食うっていうのは、そう言うもんだ。ユハナス」
そういって、僕の背中を力いっぱいぶっ叩くのだった。
だから痛いんだってば!
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