46.大地に飼われている人々
「きさま、なぜ! あの男を殺したっ!!」
レウペウさんが。光を放った棒を持った男を締め上げて聞く。
「……神聖なる、大地母神に仕える……、儀式の最中に……。私語などをしようとしていた……からだ……」
その男はそう答える。シオンさんの術は効果はあったようだ。何を言っているかがわかる。
「神官様から……。命じられているのだ、私も……。逆らうことなど……、怖ろしくて出来ぬ……」
「神官、だと? そいつらが、この人々を虐げているのかっ!!」
「虐げてなど……! おらぬ! 神官様は、大地に飼われている我々が為すべきことを教えてくれる……素晴らしき方だ!!」
「ええい! まるで、無知なものが迷信に囚われているかのような事を言う!」
「はは……は! 迷信ではない!! 貴様には、死んだ土地に再び命を灯す方法がわかるというのか!! 我らが神官様は、それをご存じなのだ!!」
そこまで、話を聞くと。傍にいたルーニンさんがのんびりと口を開いた。
「この、黒こげの畑~。草を積んで、上で焼いて~。灰に含まれる窒素と炭素を土に補充したんでしょ~? わかるよ~、それくらい~」
その言葉を聞いた男は、目の色を変えた。
「風エレメントと、土エレメントの事を……? 言っているのか?」
「ん~? ここの空気の組成は、ほとんどが窒素で~。炭素は植物を火で燃やすとうまれるよ~?」
「そこの……。メガネ女!! 教えてみろ!! 水エレメントと、火エレメントはどうすれば産まれる⁈」
「めがね~⁈ まあいいけどさ~。たぶん、水素と酸素の事でしょ~? 水に、電極を二本差し込んで~、そこに電気を流せば~。陽極から水素、陰極から酸素が出るよ~」
「電極だと⁈ ヴォルツ技術のことまで知っているのか⁈ メガネ女!! 貴様は何者だ⁉ いずこかから来た、学者か何かか⁈」
「めがね~⁈ まあいいけどさ~。私はただの農業師だよ~」
「……貴様らは……。ただ者では無いようだ。私を殴ったことは無礼であり、この近隣を管理している神官様に申し出れば、貴様らは処分されて畑に埋められることになるのだが……。ついてこい、特例として神官様に会わせてやる。神官様は、この県の知事様ともつながりがある貴いお方だ。上手く気に入られれば、何かと旨味があるぞ」
それを聞いたマティアさんが眉をしかめた。
「ちょっと、ユハナス君。なに、コイツ。向こうの世界の君のお家よりも、粘質なこてこてコネクション思考じゃないの?」
「うーん……。そうなんだけど……。とりあえず、付いて行ってみようよ。なにか、状況や情報がわかるかもしれないから」
僕がそんな風に言うと、マティアさんは何やら不機嫌そうだけど。
みんなと一緒に、その男が先導する方に歩き始めた。
* * *
先程確認した、煙が上がっていた地点。そこにはやはり、人里があった。
「ザペラグ。もどったかね? ひゅふふふふ」
「はっ、もどりました、ニュルング神官様」
「……ひゅふ。して、そこにいる気品ただならぬ五人組は。いずこからの客を捕まえて来たのかね?」
「はい。ここまでの道々、聞くには。闇の凶星の向こう側から来たとのこと。この者たちは、アビスゲートと呼んでいましたが。突然現れ、突然消える闇の星と言えば、あの凶星のことでしょう」
「ひゅほっふぉ。まあ違いないわな」
人里の中の。回りに比べて豪華な家。そこの扉を男が叩き、出てきたニュルングというらしい、蛇面の人間。これがどうやら神官らしい。
「それで、ザペラグ。大地の僕たちの様子はどうだったかね?」
ニュルングが、ザペラグという名前らしい棒男に聞く。
「はい、ニュルング様。崇高なる大地の僕たるものが、儀式の最中に私語をなそうとしたので。このニュルング様から頂いたサンダーロッドで、処分をいたしました」
「ふむ。よろしいよろしい。大地の僕は、大いなる大地に飼われている。食や生きる場所を与えてくれる大地に仕えるのは当然の事。そして、大地母神の意を読み取る私に仕えるのも、また当然の事。であるな? ザペラグ?」
「はっ、その通りであります、ニュルング様!!」
そんなことを話している、ニュルングとザペラグ。僕は、まあ。あの死んだ農夫の事は可哀想だったけど、この世界のルールなのかと思って、少し話を聞いていたが……。
「そうだねえ、大地の僕たる、働き手が。働くことをおろそかにして儀式中に私語をしてたりしたら。効率が落ちて、地の魔導司祭様に捧げる作物の税が納めきれなくて。この私の旨味が無くなっちゃうからねぇ。この楽で美味しいものが食べられる神官職にずっといるためには。怠ける大地の僕は、見せしめでどんどん殺しちゃおう。地の魔導司祭様から課されている作物税は、人頭税だから。効率のいい働き方をするものだけを残した方が得をするのよ、私たちのこの里は」
とか、言っているのをきいて。流石に頭に血が上った。人は道具じゃない。そんな、『僕らの宇宙』側の常識が出てしまったんだ。
「おい! お前っ!!」
僕は、正義感という物に駆られて、そう叫んでしまっていた。
「? 何かね君は? 何を怒っているのかな?」
怒っている僕を、不思議そうな顔で見るニュルング。
「お前は、人間をただの労働するだけの道具だと思っているのかっ!!」
更に叫ぶ僕に、ますます不思議そうな顔をするニュルング。
「そうだよ? 何を怒っているのだね? 人間には、産まれついての上下がある。それは、どうあがいても越えられるものではないし、越えようと変な行動をすれば、身を亡ぼすことになる。そして、あの大地の僕どもは、大地に食べさせて貰っている代わりに、大地を耕すことで一生を終える者どもだ。私は、神官としてあの者共の管理をしている。そして、管理手腕が良ければ。あの者たちが地の魔導司祭様に納める税作物よりも多くの作物を産み出すことができた場合。それは、あの者たちの食い扶持になるが、その中から私に対する礼金を払ってもらわなければならない。もし、礼金を払えないなら、この私が納める里からは追放する。もしくは処分して土に埋める。それだけの事だよ」
う……。人を道具に使って当然と思っている人間に。
『人を道具として使っていいのか?』
という問いをぶつけても、当然のごとく。
『道具として使っていい』
という答えが返ってくることがわかってしまって。
僕は口ごもってしまった。
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