44.境界を越える刹那

「うおおおおおおおお!!」


 マイワ・ガルナ号のブリッジで吼えるゼキリス。


「シアンシーナ星系軍宇宙艦隊!! ダメージ4割です!!」

「くっそ!! 通信で撤退しろと伝えろっ!!」

「了解、ゼキリス!!」


 AIナビドール、ガルナがブリッジクルーに命令を伝達。ダメージを受けた星系軍の宇宙艦隊に撤退勧告を出す。


「続いて、ルル・ハーザ星系軍宇宙艦隊、ダメージ5割!! 危険域を過ぎてまで、健闘しているようです!!」

「バカやるなと伝えろっ!! 全滅しちまったらどうにもならねーぞってな!!」

「了解した、ゼキリス!」


 件の、白色魔導宇宙要塞との戦闘で、ゼキリスの船団が受けるダメージは尋常ではなかった。魔導要塞の構成部である、惑星サイズの天体が放つ、主砲と言っていい極太の光線の破壊力は尋常ではなく、直撃を受ければ艦船が一撃で1000隻は蒸発するような代物である。

 しかしながら、ゼキリス船団もただやられてはおらず。白色魔導宇宙要塞を構成している、6つの惑星サイズの天体の内、3つまでを機能不全に追い込んでいる。だが、実はこの白色魔導宇宙要塞は、さらに厄介な武器を持っていた。


「ゼキリス、前と同じよ。惑星部を機能不全に追い込むと。あの中心の白色コアの部分が動き始める……! あの白色コアが放つ、シールド貫通ビームは非情に恐ろしい威力を誇っている……!!」


 ガルナがそう言うと、ゼキリスはこの状況でも不敵に笑った。


「あのシールド貫通ビームはな。放つときに、あの白色コアのシールドが消滅する。なんだかわからんが、そう言う事だったろう? ガルナ?」

「確かに。前回の戦闘データでもそうだという結果が残っています」

「ってわけで。回避を念頭に置いた、囮攻撃を仕掛ける。囮攻撃部隊は、遠隔攻撃を放ってシールド貫通ビームの発射態勢に敵が入ったら、即座に散開後退。敵の貫通ビーム攻撃を回避した後にできる、タイムラグの隙に総攻撃を叩き込む!! これのヒットアンドアウェイで行くぞ!!」


 ゼキリス、ガルナは。ブリッジのクルー、船団の構成員、更には。助力に入ってくれている各星系の艦隊と呼吸を合わせて、チャンスを狙い続けている……!


   * * *


 親父の船から、入る緊急通信!


『ユハナス!! 勝ってから、ゆっくり送り届けようかと思っていたが……。どうやら、そうはいかないようだ。今は、大きな被害を受けながらも、こちらが万事優位に押している。だが、こちらには補給というものを受けるためには、遠隔宙域から艦船を送ってもらう必要がある。次にもこの優勢が勝ち取れる保証はない。だから、今の優勢なうちに、敵白色魔導宇宙要塞を沈黙させるから。すり抜けて、アビスゲートに飛び込め!』


 うわー……。そんなに危ない事しないといけない状況なのか……。僕は、ちょっとこの状況に動揺した。


「ユハナス様。躊躇しているのですか?」


 僕が少し戸惑っている様子を見て。何か責めるような様子で口を開くイデスちゃん。


「ヘタレ童貞。なにビクついてんのよ!! 行くわよ!!」


 僕の動揺は、みんなに伝わったのか。マティアさんが、キャプテンシートに座っている僕の頭をパカッと殴る。


「ニール君、きっと~、まってるから~!!」


 なんだよ、動じそうだったルーニンさんまで、向こうに行くことを急かす。


「チャンスというものは。そう何度も訪れるものではない。決心と、勇気と。物事には、臆さぬことが大事だぞ。いくぞ、ユハナス。勇気が足りないのなら、俺が添えてやる!!」


 レウペウさんが、僕の頭にガシッと掌を置いて、ギリギリと頭を握る。痛い。


「ユハナス君、行きましょうよ。この船は、貴方の命令が無いと動かない。だって、この船の船長は貴方だからね、ユハナス君」


 シオンさんは、司祭服に杖を構えて。何やら、戦いに臨むような表情でそう言った。


「……うー……む!! よっし、行こう!! 考え込んでも、どうにもならないし。考えている時間もない。飛び込むよ、アビスゲートに!!」


 考えなしの僕ら。そもそも、向こうの宇宙の存在を忘れろと言っていた、ニール君を迎えに行くと言う事が。

 ひょっとしたら、ニール君には余計なお世話なのかもしれないけれど。

 でも、僕は。ニール君があの時に見せた哀しそうな表情も、なにか、大きな責務に押しつぶされそうな辛そうな泣き顔も。

 忘れる気はないし、あの子の助けになってやりたいと思ってしまった。


 不思議なことに、あの子の魅力というのだろうか?

 一度知り合ってしまった以上、あの子を助けたい、あの子の力になりたい。

 そんな理屈抜きの気持ちが、僕の中に発生して、止まない。


 あの子が、向こうの宇宙に連れ去られてからは、それは強くなる一方で。


 全く何故だかわからない衝動にかられつつも、僕はそれがおかしなものだとは全く感じない自分に気が付いていた。


「了解。リジョリア・イデス号、ペア・アニヒレーションドライブ・ブースト開始。通常速度の10倍で指定座標に突入します。同時に、トゥルー・スペース・エナジーフィールド展開!! 真空のエネルギーフィールド活性化装置を起動、アビスゲートの重力で押しつぶされているワームホールを押し拡げつつ、向こうに抜けます!!」


 イデスちゃんの応えと同時に、急加速をするリジョリア・イデス号。慣性の法則により、強烈な負荷がかかってくるところを、重力制御システムで慣性キャンセルをかけることにより、乗組員の僕らを守る。


 一直線、とはいかず。白色魔導宇宙要塞や、それとの戦闘の結果大量に散らばった、敵味方からのデブリ群。

 それを器用に避けながら、どんどん加速して、アビスゲートに肉薄していく僕らの船。


『行きな!! ユハナス! しかし、だ! 向こうで野垂れ死ぬなよ!! 絶対に帰ってこい!!』


 親父からの、最後の通信が入った。

 それに返信する間もなく、アビスゲート内に飛び込む、リジョリア・イデス号。

 周囲が圧力のある暗黒物質に満たされ、それが渦巻いているが……。

 親父から譲り受けた、トゥルー・スペース・エナジーフィールド発生装置の効果で、僕らの船は押しつぶされもせず、またブラックホール内で停止に近いくらいに遅くなるという、時間流の効果も弾き飛ばして。

 どんどんと潜っていく。


 やがて、なにか。

 とても暖かいイメージの光が、僕らの船を包んで……。


 僕らの船は、アビスゲートの向こう側に突き抜けた!!

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