43.決戦、アビスゲート

 船舶総数、15000隻。

 惑星アーナムを出立してから1年と少しが経っている。親父と僕らと、各星系からの援軍を合わせたアビスゲート奪取船団は、そこまでの規模まで膨れ上がって。

 アビスゲートの宇宙座標に辿り着いた。

 各星系の艦隊司令官と、親父と僕は。

 親父の座乗船、マイワ・ガルナに集まって、決戦前の最後の作戦会議に移っている。


「さてと、やるぞ。アビスゲートを奪い取る。最初は、まず宇宙悪霊が吹き出してくることになるが……。諸兄は、宇宙悪霊程度にやられるようなやわな武人ではないと、俺は思っている。問題は、宇宙悪霊を退けたのちに出てくる、白い巨大構造体。まあ、いわば向こうの宇宙要塞なんだが。アレの撃破の方法だ」


 各星系軍の司令官たちは、少しひそひそと話し合いながらも、そこまでの不安な表情ではない。こちらの頼む戦力が大きいためだろうな。


「ゼキリス総提督。攻略法のようなものはあるのか?」


 司令官の一人が聞いてくる。それに対して、親父は答えるのだった。


「あの要塞は、コアブロックの白色岩石構造体に、幾つかの軍事要塞惑星を組み合わせたような代物なんだ。全体が連携して攻撃を仕掛けてくると、まあ死角が無くなって厄介なんだが……。そこで打つ手としては、コアブロックと複数の要塞惑星の連結部になっている部分を粉砕する。惑星主砲などの凶悪な兵器を、連携して放つことができないようにな。巧い事コアから要塞惑星一個一個を分断できれば、今のこちらの戦力があれば。各個撃破をすることで十分に破壊できるという訳だ」


 親父のその言葉に、各星系司令官たちは異論はないみたいだ。なんにしても、こちらの戦力のデカさが皆に安心感を与えている。


「よくわかった、総提督。われらは自らの星系軍の艦隊を率いて、総提督の作戦案を踏襲するような行動をすることにしよう」


 また、別の司令官がそう言って。

 マイワ・ガルナの船員が決戦前の縁起担ぎに出したグラス一杯のワインを、皆で飲み干し、グラスを床にたたきつけて割って景気をつけると。

 司令官たちは、自分達の旗艦に帰って行った。


「おい、ユハナス。多分、しばらくは会えなくなるから言っておくが」


 僕もリジョリア・イデス号に帰ろうとしたところで、親父が僕を呼び止めて話しかけてきた。


「まあ、実はな。俺がアビスゲートを探し始めたきっかけ。家にいるお前とニメリアを放っておいてまで、アビスゲートを探していた理由なんだが……」

「? なんだそりゃ? アンタは、親父。娯楽で宇宙の秘密を追い求めていたんじゃなかったのか?」

「はは……。そう言うな、ユハナス。理由はちゃんとあるんだ」

「……言えよ。聞くからさ。たとえ言い訳でもさ」

「ああ、話すぞ。俺は、実は。『向こう』からの亡命者にある話を聞いたんだ」

「亡命者? 例の、外側の宇宙からのかい?」

「そうなる。あちらでは、魔法や魔導という力が、こちらで言う物理科学技術のように高度に発展しているといっていた。ただ、その魔導の力、という物が。先天性遺伝で手に入るだけであり、後天的な努力では如何とも得られない。その為に、向こうの世界では血統による貴族制の国家形態が取られているそうだ」

「貴族制……ね。こっちの宇宙でも、そう言う星系国家はあるじゃないか」

「まあ、あるが。それらの発想の源は、『向こう』と思考チャンネルが繋がっているものが行うという話だ」

「ふーん……。で、何が言いたいんだよ、親父?」

「ユハナス、お前は。この戦いが終わった時には、向こう側に行くことになる。心構えとして、向こうは、基本いけ好かない貴族連中が治めている世界だぞと言っておこうと思ってな」

「そりゃ、ありがとうな。で、なんでアビスゲートを探そうと思ったのか。それをまだ聞いてないよ? 親父」

「……まあ、な。向こうの貴族思考の奴らは、常々こちらの宇宙も手に入れようとしている、とその亡命者から聞いたんでな。個人の尊厳が守られ、個人の意思が曲がりなりにも尊重されるこの世界を、貴族流の横暴な制度に組み込もうと言う事らしいんだ。そりゃ、許せないなと思ったんだよ。人間は、個人の尊厳が守られているからこそ、輝くと俺は思っているんでね。だから、向こうとこっちの行き来を司るアビスゲートを探して、管理下に置きたいと思ったんだ」


 親父は、そう言うとひげ面をニッと笑わせた。


「まあ、語りすぎたか。ユハナス、お前は向こうに行きたいといった。俺は、お前の親父だ。だから、送り出してやる。今まで放っておいたんだ、これくらいは父親の甲斐性としてやってやるよ」

「……そっか。ありがとな、親父」


 うん。大っ嫌いだった親父だけど。こんな所もあるのか。

 そう思うと、僕は。

 まあ、少しは、許せるかな。

 親父の事を、そう思い始めた。


   * * *


「オラァ――――――――ッ!! 出てきたぞ、まずは宇宙悪霊だっ!! 叩きのめしてやるぜっ!!」


 ゼキリスは。宇宙の深淵、アビスゲートに船団を進め。ある一定距離まで近づいたときに、そこから噴き出してきた宇宙悪霊を各星系の艦隊と協力して、撃ち減らしていく。


「結構な勢いで。敵宇宙悪霊、撃破できています。が、宇宙悪霊第二波! 発生を始めています!!」


 マイワ・ガルナのブリッジで、AIナビドール、ガルナがゼキリスに告げる。


「前線に出て、疲労を訴えている艦船はいったん後ろに下げて疲労回復だ。だが、その間も攻撃の手を休めるな! 疲労回復している部隊に代わって、待機していて英気を整えている部隊が前に出ろ!」


 ゼキリスの船団指揮は、別にこれと言って奇策が用いられているわけでもないが、基本に忠実、時に応用をはさむ、という堅実なものである。ゼキリスは奇策を持たないわけではないのだが、今は各星系の集合船団であるためにそのような基本的な指揮法を執っていたのだ。

 だが、そのような戦術戦法の方が、自分の頼む戦力がある規模を超えている場合には、確実な成果を齎すものだと言う事らしい。


 宇宙悪霊の第二波を撃破して、アビスゲートに近づいていくゼキリス船団。さらに続いて、発生して襲い掛かってきた第三波の宇宙悪霊も難なく退けた……が。


「アビスゲートに変異が見られます!! 出ました、例の、『顔』です!!」


 ガルナにそう告げられて、ゼキリスは目を輝かせた。


「という事は、出てくるな!! あの敵宇宙要塞が!! 今度こそ粉砕して! アビスゲートをこちらの管理下に取り込んでやる!!」


 そう叫ぶゼキリスの視界に。

 アビスゲートから徐々に姿を現わし覗かせる、白色の魔導宇宙要塞が。


 映るのだった!!

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