42.雪だるま式。増える船団構成船舶

「また、敵だったみたいだな、親父」


 アビスゲートに向かい、惑星アーナムを出てから半年。

 親父が総提督を務めるアビスゲート奪取船団は、増加膨張の一途をたどっていた。


『まあな。だが、軽い軽い。こっちの勢力も、すでに4000隻を軽く超える。進んで敵を打ち破るごとに、旨い話に乗りたいと食いついてくる通過中の近隣星系の奴らが、軍を引っ提げて参加してきているからな』


 レーザー通信の向こう側で、親父はニヤニヤ笑っている。


「万事快調、なのか? 親父」

『ああ、言うまでもねぇ。半年で4000隻超えってのは、向こうに着くころには下手すりゃ20000隻を超えることもある増加のペースだ。こちらの強さと、さらに構成船舶の数の大きさ。それに伴う作戦達成率の上昇と、大船団に参加する安心感。そう言うものが膨らむと、どんどんと人間ってもんは動くもんだぜ』

「……親父も、おじいちゃんも。そこまで読んで。最初は僅か200隻程度の船団だったのに動き出したのかよ……?」

『はっは!! そう言うこった! ん? また、通信が入った。新規参入の艦隊が来たみてぇだ。話付けなくちゃならねぇからよ。親子の会話は、また今度だ、ユハナス』


 親父はそう言って、通信を切る。

 はっきり言って、驚きの連続だ。親父の直属の船舶は、もともと持っていた船団の200隻程度。なのに今は、構成船舶が増えに増えて、4000隻を超えている。しかも、その船団や艦隊の司令官に話をつけて、総指揮権を譲らないで自分の所に持っている親父というのは。何というか、頭おかしくなるんじゃないかってくらいに、怖ろしいことを平気でやっている。

 自分の指示によって、万一借り物の艦隊の一つに重大な被害を及ぼしたりしたら。多分だけど、親父はその艦隊を出している星系から酷く恨まれるし、言ってしまえば消されてもおかしくない。

 自分の命が惜しければ、まあ。自分から進んで受けるような役割じゃないことを、熟しているんだ。


「……シオンさん。聞いてましたか?」


 僕は、僕の船のクルーで。最も人間の心理に詳しいシオンさんに聞いてみた。


「聞いていたわよ。人間の欲を上手く煽って、それをうまく御している。ユハナス君のお父上も、おじいさまも。流石に大商人の家系ね。金や利益や時流による人の動かし方をよく知ってる。ちょっと感心するわ」

「親父は、欲望を叶えてくれる存在として。周りの協力者たちに持ち上げられている形ですね……」

「それはそうね。その形だわ。でもね、ユハナス君。人間は欲が無ければ動かないし、動く時は必ず欲がかなうからと考えているものなの。私を見なさいよ? そうでしょう?」


 シオンさんが、手首を返して自分の顔を自分の指で指し示す。


「お酒に、食べ物が大好きな欲望司祭よ、私。そもそも、覚えてる? 私がこの船に密航した動機」


 うーん? いや、そうだった、確か……。


「美味しいお酒と美味しいご飯が、ニレディアでは手に入らないから。そう言っていましたね……」

「うん、そうよ。人間は、欲が満たされるためにならば、行動的にもなるし知恵も出る。それに、その欲の満たされる可能性が高ければ。命だって張るの。だから、貴方のお父さんのやり方は、とても上手いと思うわ」

「危なくないかな……? やっていることが」

「物事って言うのは。効率性が高くなるほど、行うのが危険になるものよ」

「そうなんですか?」

「水を運ぶときに。バケツが大きいほど、多くの水を運べるけれど。こぼしたときの損害も大きいし、運ぶために力を要する。まあそんな感じかしら……」


 うーむ。うーむむ。

 危険な事をやっている親父。失敗しないように、やるんだろうけど。

 失敗したら、本当に消されちゃうぞこりゃ。


   * * *


「シャルシーダ星系国家の傘下にある、メズトール星系の宇宙軍中将、サトルワールだ。今回の貴方らの企画したアビスゲート奪取計画。非常に将来性のあるものだと思われる。ぜひ、我ら3000隻のメズトール星系宇宙機動艦隊も参加させていただきたい」


 ゼキリスの座乗船、マイワ・ガルナ号を今訪れている、メズトール星系の中将だという男はそう言った。


「んー? いや、はっは!! 有難いね、サトルワール中将! 是非ご協力を仰ぎたい。ただし、僭越ながら。この複合船団の総提督は、俺だと言う事になっている。それを承知のうえで参加いただきたい。ところで……。寡聞にして知らないのだが。貴星系を傘下に収めているシャルシーダ星系国。そこが賞金首にしている、先王の遺した王子と王女は。見つかったのかな?」


 ゼキリスは、実は知っているのだが。いま現在、その話題にあげた王子と王女が、自分の息子ユハナスの船のクルーになっていることを。

 知ったうえで、なぜそのような事を聞くのか。

 彼が妙にニヤニヤしながら聞き質すので、メズトール星系国のサトルワール中将は少々戸惑って聞いた。


「ゼキリス提督? もしや存じているのか? あの悪王の血を継いだ、抹消すべき王子と王女の行方を?」


 相も変わらずにニヤニヤ笑っているゼキリス。そして、口を開いた。


「知っているぜ。噂だけどな。はるか遠方の、辺境銀河に旅立ったという話だ。ここら辺の銀河に居ては命が危ないと思ったんだろうな」


 どうやらゼキリスは。これから船団に組み込むこのメズトール星系軍の口から、万が一にもシャルシーダ星系国にレウペウ王子とマティア王女の所在が伝わったりしないように、先に印象操作を行ったものとみえる。

 それから、この後ユハナスの船にも、シャルシーダ星系国の関係者が船団に参加したことを伝え、二人がその姿を晒さないように気を付けるようにと言うつもりだった。


「ま、なんにせよありがたい。サトルワール中将。3000隻となると、今のところ最大の規模数を誇る参入艦隊だ。アビスゲートを奪取した後の旨味の得られ方には、期待してくれていいぜ」


 そういう確約をすると、サトルワールは有難いといって自分の船に帰って行った。


 さて、アビスゲートまであと半年の日程。

 たどり着くまでに揃えるべき船団の船舶の数は10000隻が目標であり、道半ばであるのにその半数を超える、7000隻を集めることに成功した、ゼキリス船団。


 あと半年の後に待つ、アビスゲートでの決戦の。

 準備は着々と整って行っている。

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