41.合流してきた、ある星系の艦隊

 ゼキリス親父が、交戦したという謎の艦隊。

 親父はそれを退けきるまで、僕を動かすことはしなかった。

 戦闘に完全に片が付いてから。


「変な奴らに襲われたぞ」


 というだけだったんだ。


   * * *


「ははは。ゼキリス提督。今の宇宙で、肥料になる宇宙悪霊にそこまでの価値を認める星系など、まずないよ。先見の明がある、我が星系ぐらいかな? 貴君の所属するユヴェンハザカンパニーの呼びかけに応えるのは」


 未確認艦隊との戦闘から、二か月ほどたった時。

 ゼキリスは、ある宙域で合流したとある星系からの援軍を率いてきた男にそう言われたのだが。


「ふん。どこの星系の連中も。自分が食ってるもんを成り立たせている物に、力を注ぐことを惜しむ奴らばかりか」


 苦虫をかみつぶしたような顔でゼキリスがそう言うと、会話の相手の男は答える。


「どの星系も。産み出されたものだけが大事で、産み出される工程やその為の素材なんかに。興味はないってことだろうよ。我がアルアテラギ星系政府は、飢餓で苦しんだことが過去に何度もあるので、土や星が痩せる理屈がわかっている。人や政府は、飢えたことが無ければ、そう言ったことには興味を持たないものさ」

「アルアテラギ星系宇宙機動艦隊指揮官、ジヴァンシ大将。ともあれ、多くの艦艇を率いての合流をしてくれたこと、感謝する」


 ゼキリスがそう言い、名を呼ばれたアルアテラギ星系宇宙軍の制服の白コートを着た将官は頷いた。


「ところで、ジヴァンシ大将。貴殿の部下に、エザラードという少将はいるか?」


 ゼキリスがそう聞くと、ジヴァンシは首を横に振る。


「エザラードは使える男だが。それだけに星系防衛艦隊のマクリアス大将の奴が手放さん。私もあの男を欲しいと思うことはあるのだがね。エザラードを知っているのか? ゼキリス提督?」


 ジヴァンシにそう聞かれたゼキリスは、何か少し恥ずかしそうな顔で言った。


「いや、な。貴星系のエザラード少将には、うちの息子が世話になったことがあるという話で。礼ぐらいは言っておきたいと思ったのだが」

「はは。ならば、私がアルアテラギに帰還したときにそう伝えておくよ」

「む。頼んでおく、ジヴァンシ大将」

「承った。ところで……。私の率いている宇宙機動艦隊は、構成艦艇数は凡そ1000隻。これで、奪い取り切れるかな? そのアビスゲートとやらの宙域ポイントは?」


 ジヴァンシがそう聞くと。ゼキリスはにまっと笑ってジヴァンシの背中を叩いた。


「あははははは!! 1000隻か。まず無理だな!!」


 大丈夫だといいそうな表情で、まず無理だというゼキリスに。

 不満そうにジヴァンシは答える。


「無理だと? ではどの程度の軍容が整えばいけるというのだ?」

「10000隻。それだけ揃えば、確実にいける」

「10000隻だと⁈ 星系間大戦でも、そこまでの宇宙艦艇が動くことは少ないぞ⁈」

「そう言うレベルの敵だってことだ。だが、まあ。十分の一はあることになった。あとは、アビスゲートまでの道程で、追々加わってくれると良いんだがな」

「随分成り行き任せなのだな?」


 ジヴァンシはゼキリスのいい加減とも取れる態度に眉をしかめる。


「まずは根回しと、軍隊出動の確約を各星系に付けて。そののちに行動を始めるべきではなかったのか? ゼキリス提督よ」


 そのジヴァンシの言葉に、ゼキリスは首を横に振る。


「実際の所。出立前に俺の親父のトイロニがしらべたところ。肥料になる思念粘土を欲しがる星系はまぁまぁな数、あったそうだ。だが、ね。どこも、勝てる確約を欲しがる。勝てるのならば、力を貸す。そう言うんだ。バカだよな、力を貸すから、勝てるようになるのによ。ってわけで、俺は、アビスゲートまでの道程で、力を示しまくって進むことにした。俺達の持つ戦力が、宇宙悪霊や宇宙海賊、またはなぜかアビスゲートに進むことを妨害する勢力。そう言ったものを粉砕していくことによって、こちらの力を認めさせて日和見をしている星系の軍事力をこちらに引き込む。これは、踏まなきゃならない工程だ。まあ、そう思っているんだよ」


 ゼキリスがそう言うと、ジヴァンシは面白げに顔をゆがませた。


「なるほど。早々と出てきてしまった私たちは。いわば損をする形になるのかな?」


 皮肉気にそう言うジヴァンシだが、ゼキリスはカラッと笑っている。


「そうはならねえ。そんな馬鹿な結果にしちゃいけねえからな。実は、トイロニ親父は。アビスゲート近辺宙域の宇宙悪霊の狩猟権を宇宙公法上で既に取得していてな。このアビスゲート奪取行動が成功した際には、協力してくれた星系に、参入が早いことや向けてくれた戦力が大きいかどうかで。狩猟許可量や、狩猟優先権に差をつける。そう公言しているはずだぜ」

「む……?」


 手元のタブレットに目を落とし、今回の軍隊出動の依頼契約の詳細を読んで。ジヴァンシは唸った。


「……確かに。そのような記述はあるな。ならば、我らは1000隻という星系間レベルで見ればあまり多くない兵力での参加でとはいえ……」

「そうだ、一番最初に参入してくれたことによって、大きな権限が与えられる」

「ふむ……。それを聞いて、安心した。では、せいぜい励むこととしよう!!」


 ジヴァンシはそう言うと、連絡用小型宇宙艇に乗って。ゼキリスと話していた、マイワ・ガルナ号を出て自分の船に戻って行った。


   * * *


「うっま」


 焼き豚。というか、金串に刺した、豚肉の塊。

 一口サイズに切られた、豚バラ肉のブロックを、七輪で炭火焼にしたもの。

 ニンニク生姜醤油味と、岩塩&粗挽き黒胡椒味の二種類があって。


 僕らは、最近は保存宇宙食に飽きてきたので。久しぶりにアトミックフードメーカーを使って、豚肉を作って。そんな料理を食べていた。


「おにぎりと一緒に食べると~。お~いし~ぃ~♪」


 ルーニンさんの呑気な声が聴こえる。


「余った肉の小間切れで作った、この豚汁も旨いな……」


 レウペウさんが、お椀で豚汁を啜って言う。


「お酒……。お肉に合うのよね……」


 盃で清酒を呑むシオンさん。


「ユハナス様? もうお食べにならないのですか?」


 可愛く串焼き肉を横齧りにして。タレでちょっと口の周りが汚れたイデスちゃんが聞いてくる。


「……うん。まあ、今は。色々考えても仕方がない。僕にももう一本頂戴、イデスちゃん」


 そういうと、イデスちゃんは僕に串焼き肉を渡してくる。


「……イデスちゃん。独自理性が芽生えたっていうからさ、聞くけど。ユハナス君の事、好きなの?」


 そんな問いをする、マティアさんだったが。イデスちゃんは、否定も肯定も言葉で言わずに、にこりと笑うのだった。

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