32.おじいちゃん、戻りました
カルハマス星系、第四惑星。惑星アーナムの、ユヴェンハザカンパニー所有の宇宙港。
そこに降りて行く、僕らの乗っているリジョリア・イデス号。
……と。
なぜか、この前鉢合わせした、僕がどうしても好きになれない実の親父、ゼキリス・ユヴェンハザの武装商船団。
僕はブリッジで。惑星アーナムに降下中、通信回路を開いて。親父と話をする。
「親父……。どの面下げて、おじいちゃんの宇宙港に帰ってきたんだよ。15年も消息を絶っていたくせに……」
僕が、ヴィジョンスクリーンの向こう側にいるひげ面の親父に聞くと。
親父は、にまっと笑って答えるのだった。
『お前よ、ユハナス。この俺が、トイロニ親父の許可もなく。娯楽に日々を15年も費やしていたと思っているのか?』
とか、謎のような事を言っている。
「違うのかよ?」
僕の問いに、物を弁えた表情で答える親父。
『違うね。俺も、ちゃんと目的を持って、自分の15年を使った。そういうことだ』
「説明しろよ? どういう事なんだ?」
『……お前は、俺の上司か? オーナーか? なんで俺が俺の仕事の事をお前に話さなきゃならん? 俺は、お前の仕事に口を出した試しはないはずだがな?』
「口を出すも何も! 僕がアンタに会うのは、僕が仕事を始めてからはこれが初めてだろ!」
『わはははは! そうだな。ともあれ、俺もお前ももう、宇宙で仕事をする宇宙の男だ。連携している場合でもなけりゃ、お互いの仕事に口は出しっこなしだぜ』
「……ふん。それはいいけどさ。もう母さんを泣かすなよ?」
『はっ! それも俺達夫婦の話だ。お前は将来できる、自分の嫁に優しくしてやりゃあいい。俺とニメリアは、確かにお前の父と母だが。それ以上に俺という男と、ニメリアという女なんだ。男女の関係に、当事者以外が口を挿むな』
「……あんたは……!」
『腹を立てても仕方ねぇぜ? 俺は自分の種で産まれた息子如きに、どうこう変えられるほどの情けない男じゃないからな』
「……」
僕は、本当にこの男が好きになれない。言いぶりを聞いていると、反省をして母さんに優しくするつもりもなければ、息子の僕の事を完全に見下していて、意見の一つも聞くつもりはないみたいだ。
もう口もききたくない。僕はイデスちゃんに頼んで、また通信を切ってもらった。
* * *
「おじいちゃん、もどりました。ユハナスです」
僕がそう言うと、僕の横にいるゼキリス親父も、あごひげを掻きながらボソッと言った。
「帰ったぜ、トイロニ親父」
それを受けたおじいちゃんは、大いに驚いた顔をした。
「おお。ユハナス、戻ったか。それに、何故かはわからんが……。なぜゼキリスも一緒なのか?」
ユヴェンハザカンパニーの宇宙港。そこの、会長室。
僕が出立する前に、実家から来て初めて入った、宇宙港の部屋。
おじいちゃんがそこの大きな机の向こう側の会長の椅子に腰かけて聞いてくる。
「ユハナス様、お帰りなさいませ」
そういって、あの時と同じおじいちゃんの秘書が。あのころに比べれば幾分歳を重ねて、洗練された挙措でソファーを薦め、コーヒーを出してくれた。
「親父、俺もいつ戻るかわからないとは言っていたが、決して無能ではない。ケリ付けて来たぜ。あの、この宇宙の宿題にな」
「……! 本当か、ゼキリス!!」
ゼキリス親父がそう言うと、トイロニおじいちゃんは、少し身を乗り出す。一体何の話をしてるのか。
「おじいちゃん、それに、父さん。僕は席をはずそうか?」
僕がそう言うと、おじいちゃんも親父も頷く。
「わかったよ。ドックの方に行けば、キリアンさんがいるでしょ?」
「ああ、キリアンは昇進させたが。相変わらずドックに勤務している。会ってくるといい、ユハナス」
おじいちゃんはそう言って、僕にドックの方に入れるカードキーを渡すように女性秘書さんに言うのだった。
* * *
「キリアンさん! お久しぶりです!!」
僕は、今は整備部門統括から整備部門取締役のポストに就いているという、キリアンさんと再会した。
「ふむ、ユハナス君。随分見違えた。いい経験をしてきたね? 身体も逞しくなったし、挙措も大人になった。何よりも、印象に『強さ』が身についている」
「キリアンさんは、少し太ったといっては失礼ですが。貫禄が付きましたね?」
「ははは。デスクワークが増えたからな」
キリアンさんは、恰幅が良くなっていて。スーツも三つ揃えの物になっている。スーツの色はダークブラウンで、趣味が結構いい感じだ。
「どうだったかね? リジョリア・イデス号は。もう7年間になるのか。故障を起こしたことは? まあ、なかったとは思うがね」
自信に満ちてそう言う、キリアンさん。
「お察しの通り。一度たりとも深刻なエラーやクラッシュは起こしていません。初期設定と初期整備が、限りなく完璧に近かったことは。今の僕にはわかります」
「ふむ。それから、船のAIナビゲーションドール。イデスと言ったか。具合はどうかね?」
「イデスちゃんですか。彼女は、サポート役としてはこの上ないです。僕は何度助けられたか。数えきれないほどです」
「ふむ……。実はな。君が戻って来てから、リジョリア・イデス号を簡易スキャンしたんだが……」
「え? 何かおかしかったですか?」
「ああ。おかしい。何というか、理力の力場、ウィル・フォース・フィールドというのだが。言ってしまえば、理性を持つものが、他からの干渉を阻むための力場なんだが……。リジョリア・イデス号のメインAIが、それを帯び始めている」
え? どういう事だろう? それって?
「それって、どういう事……ですか?」
「つまり、だ。何があったかはわからんが。リジョリア・イデス号はすでに、一船舶や一情報処理機械の域を脱してしまって。疑似的だか本物だかはわからんが、理性を持つもの、という存在になりつつある。そう言う事だよ」
えっと……?
どういう事なんだ、それって。
今後は、リジョリア・イデス号で。
イデスちゃんと一緒に行動することに、支障が出ると言う事なのか?
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