3章 クロス・ザ・スペースボーダー
31.鉢合わせた、武装商船団
「前方に……。武装商船多数確認……、です」
イデスちゃんの冷静な声の報告が、ブリッジに響く。
さてと、僕らは僕が最初に旅立ちを始めた星系、カルハマス星系に戻ろうとしばらく移動をしたところで。戦艦と商船の両方の機能を持っている、武装商船の集団と鉢合わせた。
「……随分、いい船を揃えた武装商船団だな……。どこの所属だろうか? イデスちゃん、ちょっと通信してみて」
「了解です、ユハナス様」
僕の指示に従って、武装商船団に向かって通信チャンネルを開くイデスちゃん。そして、通信マイクを握って、僕があいさつをする。
「こちら、ユヴェンハザ・カンパニーの下部組織、ユハナス商団のリジョリア・イデス号。貴船団は、どこの所属か? 宜しければうかがいたい」
僕がそう言うと。向こうから応えがある様子。
『ユヴェンハザの、ユハナスだと⁈ しかも、あのリジョリア・イデス号が宇宙に出ているのか……⁉』
ん? なんだろうか? 返ってきた答えを聞くに、向こうはこっちの事を知っていそうな感じだ。
「如何にも。我が船はリジョリア・イデス号であり、僕はユハナス・ユヴェンハザという者だ」
僕がそう答えると、向こうでバカでかい声の笑いが起こっていた。
『そーか、そーか!! オメエも宇宙に出たか、ユハナス!!』
ん? この声。腹の底から、イヤーな感じのするこの声は!!
「と……? 考えたくないけど……。まさか父さんか⁈」
『いかにもだ!! この柔弱息子!! お前も宇宙に出るとはな! お前、歳今年で幾つだ? 宇宙標準時でよ?』
うわっ!! 通信のヴィジョンスクリーンに、細身ひげ面の男の顔が映り。それから流れてくる音声の、この口調。一応宇宙商人だけど、半分は海賊みたいな稼業をやっていた、僕の父親。僕がどうしても好きになれなかった、実の父親のゼキリス・ユヴェンハザに間違いない!!
「ゼキリス父さん!! アンタなぁ!! 僕が7歳の時から!! 一回も家に帰ってきてなかっただろ⁈ 僕はもう22歳だ!! 15年間も家空けてて!! 何やってたんだっ!!」
僕は咄嗟に。本当に咄嗟だった。そのひげ面に向かって怒鳴っていた!
そうだ、母さんは、なんだか知んないけど。この半分海賊みたいだけど、半分は優美なユヴェンハザ家の雰囲気を纏ったこの父親に。ベタ惚れしていて、今日も帰ってこない、今日も戻らない、と。指折り数えて、いつも泣きそうだったのに!! でも、そんな母さんの気持ちも知らずに、最低な言葉を吐くこの親父だった!!
『オメエなあ? 男が仕事で家を空けるのは当たり前だろ? ニメリアも、そこは承知で俺と結婚したんだぞ?』
あーもう!! この男性至上主義者め!! 僕は、ニメリア母さんがこの男に強く女性の権利を主張しなかったのをいいことに、この男が自由気ままな人生を送っていたことを知っている。
「だからって!! メッセージを送ることくらい出来たろうに!! 僕も母さんも、アンタがひょっとしたら宇宙の藻屑になっているかも知れないとか!! そこまで覚悟を決めていたんだぞ!!」
僕が、ニメリア母さんの分までの怒りを込めるような勢いで、ゼキリスの野郎にそう言うと……。なんとこのバカ野郎は大笑いを始めた!!
『はっはっはっは!! イヤーすまん、俺、筆不精でよ。手紙やメッセージなんて、ロクに書けねえんだよ。いや、はっはっは!!』
「わらってー!! ごまかすなぁ――――――――!!」
『わっはっはっは、マジすまんな、ユハナス!!』
「あんたは!! 一体今まで何やってたんだぁ―――――――!!」
僕が、そう叫ぶと。
ゼキリス親父の奴は、急に冷静な声で答えた。
『いや、ここ15年の宇宙の旅の成果が。ようやく上がってな。トイロニ親父に報告に戻ってきたんだ。そこでお前と鉢合わせるとは……。これも、親子の縁だな!!』
うっぜー!! 普段放っておいているくせに。この男、家にいるときはやたらと僕のこと可愛がっていたからなぁ……。僕は、母さんが嘆いている数年間で、コイツの事を嫌いになったんだけど、昔はコイツが好きだったんだ。
「はぁ……。もういいよ。アンタに何言っても、アンタは変わらないんだろ? 僕が幼児の時から、見て来たよ……」
『いかにもだ! はっはっはっは!!』
バカめー!! もう、僕はもう。この男とまともに話すのが嫌になって、通信回路をイデスちゃんに閉じてもらった。
「……ゼキリス様とは、ああいうお方でしたか……。トイロニ様が言っておりました。家督を継がない代わりに、好き勝手やってる儂の三男坊、と」
イデスちゃんが、何やら。とてもバカなものを見て呆れたというような表情で言った。
「あー。あれは、男の色気があってカッコいいけど。悪い男の顔ねー……」
マティアさんも、そんな事を言う。
「私は、ああいうの好みだけどね。でも、遊びでしか付き合わないかなぁ……」
シオンさんも思案顔。ゼキリス親父は、人畜無害とは縁遠い存在だし。
「……ユハナス君と~、あんまりにてないね~。でも~、わたしのおとうさんを~殴った時の~、ユハナス君に似てる~」
え? ルーニンさんが妙な事を言った。ルーニンさんの父親を殴った時の僕は、怒りの余り、キレていたんだけど……。似た雰囲気になるのか……、やだなー。
「おい。ユハナス。あの顔は、武人の顔だぞ? 君の父親は軍人なのか?」
レウペウさんが、そんなことを聞いてくる。
「違うけど……。海賊退治や、星系国家に雇われての、雇われ私掠船団みたいな仕事してたって。母さんから聞いてるよ」
「……何というか、商人の家系に生まれたにしては、随分と気性が激しそうな男だな……」
「落ち着きが無いっていうんだ、ああいうのは!!」
僕は、そこまで言ってため息を大きくついた。
イデスちゃんが船を動かし始め、リジョリア・イデス号はカルハマス星系へと向かう。
なぜか、親父の武装商船団が。
僕らの船を守るように、周囲を囲みながら、一緒に移動を始めるのだった。
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