26.えぐいやり方されている!!

 あれから。そう、メゲルトが名刺を置いて行って。


「売るつもりになったら連絡をくださいね。ヒッヒ、まあ、そのつもりにはなるようにこちらも手を打ちますから」


 とかなんとか。言外に圧力を示すような発言をして行ってから半年。

 えげつない。

 ものすごくえげつないことをやってきた!!

 僕らが店を出している宇宙街道沿いに、何と追加で三店舗もの店を出してきたんだ!


 いくら僕らの店を潰しても。これじゃ割に合わないだろうと思っていたら、シオンさんがこう言うのだった。


「向こうの示威行動かと、思うのよね。あんな大企業がこっちに買収をかけて来て。こちらが断って、もしそれで通常営業を続けることができてしまったら。向こうの沽券にも係る事。我らの企業に逆らうとひどい目に遭う、という刷り込みは、もう星系レベルで広めて置かないとならないんでしょうよ、あちらさんはね」


 く~……。なんというか、シオンさんの見立ては多分正しい。僕らが少し渋っていたら、メゲルトはこの店の買い取り額を大きくして提示してきた。

 そう、あの後もアイツはたびたび僕らの店に来て。


「今が売り時ですよ!! 機会を外したら価値は下がります!!」


 とか言っていたけど、僕らが売る気がないうちは、店の値段はつり上がっていくだけだった。


「そうですね……。ユハナス船長。この小惑星の水資源と塩資源。それに、窒素資源。その上に私たちが思念粘土で豊かにした土と農園。これらの質は、買う時に厳選しただけあって大変いい物です。そこで、このイデスから提案がありますわ、ユハナス様」


 宇宙船のテーブルルームで。僕らに食事を給仕しながら、イデスちゃんがそんな事を言った。


「提案? この劣勢を覆せる案でもあるの?」


 僕がそう言うと、イデスちゃんは、料理をテーブルの上に置き。

 椅子に座っている僕の頭をこつんと、叩いた。


「ユハナス様。貴方は、料理人になりたかったのですか?」


 ん? なんの事だろうか?


「ユヴェンハザカンパニー総帥、トイロニ会長の孫に産まれ。この小惑星にこだわって、将来の繁栄を願わないつもりですか?」


 んん? なになに? イデスちゃんは何を言っているのだろうか?


「わからないようですから、言って差し上げます。この小惑星は、売り時ですわ」


 イデスちゃんがそう言うと、僕とレウペウさんとルーニンさんがテーブルの前の椅子から立ち上がって。

 流石に頭に来たような感じで、イデスちゃんに問いただした。


「イデス殿! ここまで客もつき、料理の腕もこなれて、畑もいい具合になってきたと言うのに!! この小惑星と店を売れというのか!?」


 レウペウさんは、真っ直ぐな直情型なだけに、随分とイデスちゃんの提案に頭に来たようだ。


「イデスさん~! 畑作るのって~!! らくじゃないことしってるでしょ~⁈」


 珍しく怒りの感情を露わにしている、ルーニンさん。畑命だもんな、この人。


「イデスちゃん。どういうことだい? まさか、僕らが心を込めて育ててきたこの店を手放せなんて。勧めてくるとは思わなかったよ」


 僕も、流石に失望してしまった。イデスちゃんは所詮はAIで、人の気持ちを理解できないタダの人形なのかと。そんなことも思ってしまった。


「ユハナス様、レウペウ様、ルーニン様。それに残りのお二方も。よく聞いてください。今この店についている値段は、買い入れたときの十倍以上が提示されています。この店の顧客の付き方や、小惑星表面の農園の発達。その上に、この宇宙街道沿いに飲食店があるという情報的な周知の価値。それらを鑑みれば十倍でも安いのですが、買収をかけてきているコー・ラルヴィ社はこれ以上の価格提示はしないと思われます」

「だからさ! イデスちゃん、売ったら損するだろう?」


 僕はちょっとイライラしてそう叫んでしまった。


「いえ。得になります。何故ならば、今までは独占状態で上げていた利益が、周囲の競合店四店舗に囲まれることで拡散してしまっています。この状態で営業を続けても伸びるとは思われません」

「ならばどうしろと言うのか? 卑劣な手をしかけてきた敵に屈しろと言うのか? イデス殿⁈」


 レウペウさんが激昂しかけている。


「ですから! 目を付けられているこの店舗を売るのです! 冷静になってください、ユハナス様にレウペウ様。私たちはこの五年間で。本当に多くのものを得ているのですよ!!」


 イデスちゃんのその言葉を聞くと。


「……そっか~。土地は変わっても、畑は作れる~……。そういうこと~? イデスさん~?」


 なぜか、僕らの中で普段は一番機転が利かないルーニンさんが。何かに気が付いたように言った。


「御名答です、ルーニン様。私たちがこの五年間で学んだこと。それは、『開発の手法』というものです。これからは、この手法を用いて。初動資金さえあれば、このFLSt小惑星のような半農半商業の資源惑星の運営を複数同時に行えるようになると言う事です。無論、その際に運営する人材を見定める目は必要となりますが」


 イデスちゃんがそこまで言うと、マティアさんが感心したようにイデスちゃんに賛辞を贈った。


「流石に、AIちゃん。計算が成り立っているじゃないの。そうね、ここまで開発したからこそ、この小惑星は高く売れる。そして、小惑星をここまで発展させた手法は、私たちの中に確かにある。だとしたら次のステップは、ね?」


 マティアさんは、僕にウインクをして次を話せと促す。


「……なるほど。頭の整理ができてきた。こういった感じの小惑星を複数持つのか……。そして、その為の予算は。このFLStをコー・ラルヴィ社に今の言い値で売ることで、獲得できる。外食店を開くことが最終的な夢ならば、この手は取らないけど、僕らの夢はそれだけじゃないもんね」


 僕がそう言うと、先程までイデスちゃんに対して怒っていたレウペウさんも頭の整理ができたようだ。


「そうか。これ以上のものが望めるならば。今までを捨てることでこれ以上が望めるなら。そこは臆するべきではないのかもしれない。済まない、イデス殿。俺が冷静ではなかったかもしれん」


 頭を下げて、イデスちゃんに謝るレウペウさん。

 でも、イデスちゃんはにっこりと笑って、あまり気にしていないようだった。

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