25.競合店あらわる。でも様子が……?
さて、僕らは小惑星を宇宙街道沿いに曳航してきて、そこで外食店を営業しているんだけど。
この形を、見事に踏襲してきた店が、本当に肉眼で見て見えるほどの近距離で営業を開始した。
僕らがフードFLStを開いて、1年後の事だった。
「おい、ユハナス商団長」
折角雇った、厨房の住み込みアルバイトも、ホールの住み込みパートさんも。
その競合店が現れてからは、何というかこの店自体が暇になってきたので、なんだか手持ち無沙汰な様子。そんななんだか憂鬱な店内でレウペウさんが話しかけてきた。
「なんですか? レウペウさん」
「ああ。食材の仕入れだが、少し控えたほうがいいな。量を絞った方がいい。タイムシーリングで腐ることはないとはいえ、在庫処理が面倒なことになるかもしれん」
「……そんなに、在庫が余っているんですか?」
「ああ、残念ながら……。隣と言っていいほどに近い所で営業を始めた、あの競合店に客を随分持っていかれている」
「コー・ラルヴィ・ホールディングスの系列店なんですよね……。あの競合店は」
「む。そうらしいな。近隣宇宙最大の食品&外食企業団体……か」
「えげつないことされましたよ、まったく。この前、マティアさんとシオンさんに、あちらの店の味を見て来てもらったんですが……」
「旨かったんだろうな。だとしたら俺達が押されるのも当然だ」
「いえ。それならかえって僕は許せました。しかし違った。僕らがこの宇宙街道で開発した、安価で食べられる割烹定食、っていう路線をパクっていながら。品質は遥かにうちの店より低いんです」
「……それで、なぜあっちに客が流れた?」
「圧倒的な安さ。それですよ」
僕はため息をついた。真っ当な商売でぶつかり合って敗れるのならば、それは納得がいく。
でも、あの競合店はそうじゃなかったんだ。
落ち込む僕を見て、レウペウさんが息を吐きながらこう言った。
「……客も。バカではなかろう。安くて健康に悪い食事を摂るよりは、ウチの店に来た方がいいことくらい、わかるはずだ」
「レウペウさん。そう言った選択ができる客は、宇宙にはあまり出ないで惑星上に住んでいるんです」
「……」
「宇宙空間に出ている人々は、苦しいやりくりの中で、毎日の生活を組み立てている。そのことを考えれば、ウチの店に似たような食事をウチの店の半額で提供してくれるような競合店は。魅力的に映って当然だと言う事は僕はわかっているんです」
「しかし、ウチの店でも、原価率は相当高いんだぞ? 一食当たりの利益は相当に薄いんだ。あの競合店は、どうやって利益を出しているというんだ?」
疑問に思っているという顔のレウペウさん。
でも、実は僕はわかっている。これは、大規模量販店が店を出してくるときの手法で、まずはしれっとした顔で店舗を出してきて、そのあとに。
安値競争に周りの店を巻き込み、利益を得られないようにしておいて、自分達だけは大資本の母体企業からの補充で営業を続け、周りの店を潰し切ったところで。
自分達の店しか選択権が無くなったお客さんに、高い値段で商売を吹っ掛ける。
これは、いわゆる地域乗っ取りの手法として、商人の間では基本的なやり口と言えるものなんだ。
ただ、商道徳に照らし合わせた際には余り褒められたものではないという、いわば下法と言われているやり方とも言われている。
そんなこんなで、僕らの店の客が相当に減り。
それでも、経営が苦しくなるというほどではなかったので、普通にゆるゆると営業をしていたら。
『そいつ』は来た。僕らの店に。
* * *
「いやぁあああ―――っ、はっは!! 何というか!! お大変ですねぇ、店長さぁあん!! うっふっふっふ?」
顎のとんがった、真っ白な顔に。異常に紅い色の唇。目の下には黒々とした隈が刻まれていて、はっきり言って気持ちが悪い顔をした奴。
「一頃の勢いはどこへやら? うっふっふっふ? まあ、我らコー・ラルヴィ社に目を着けられるほどに稼いでいたあなた方が悪いのです」
コイツは、メゲルトと名乗った男で。コー・ラルヴィ社からの使いだった。
「如何致します? それは貴方も商人ならばご存じでしょうに? この小惑星ごとの店を素直に譲れば。今であれば、相当な得をさせてあげられますよ? うっふっふっふ。渋れば、それだけ利益は失われます。そこのところを考えてくださいね?」
ようするに、コイツは。僕らの店という果実が実るのをじっと待っていて、いざ実ったと見たら刈り取りに来た奴らの手先だったんだ。
そして、正面からぶつかったら弾き飛ばすほどの力を持っていた、僕らの勢いを弱らせるために。
僕らの店の近隣に、あの競合店を作ったと言う事らしい。
「いや、いや。見事ですよ。それは認めているのです、我ら、コー・ラルヴィ社も。小惑星に農園を作って、そこからメインの食材を補充して、取り寄せるのは足りないものだけ。確かに鮮度も旨味も栄養素も。この上ないものが客に提供できる。人気は出ますなぁ!!」
こいつ……。
「メゲルト氏。その割には、貴方の企業の系列店。僕らの店を弱らせた、あの近隣店の事ですが。随分いい加減な品物をお出しになられているようで?」
僕は皮肉で、競合店が出している料理の質の低さを口に出した。
「あっはっは! 何を言っておられるか。こんな宇宙街道沿いの、いわば惑星に住めない貧民が通るような場所で営業をする店に大切なのは! 成形! 着色料! 化学調味料! 化学香料!! そう言ったものでしかありません! 貧民どもには、味などわからないのですから!! そして何より大切なのは!! ただひたすらに安いコト!!」
こいつっ……!!
「だったら。僕らの店を買い取ってどうしようというんです? 僕らの店は、そうはただただ安いものを提供するようには出来ていませんよ?」
「ご心配には及びませんよ。この店を買い取ったのちの用い方は決まっています。豊かな惑星の近くまで曳航していって、今のこの店よりも高級な食材を使った、超高級店に模様替えをしての営業をする。ただ、この小惑星の見事な農園はそのまま用いさせていただきますがね」
「僕らはっ!! みんなが、そんなに極度に豊かじゃないお客さんでも! ちょっとした贅沢気分で、いい物を食べられる環境を大事にしてきたんだ!!」
僕が憤りの限界で。そう怒鳴ってしまうと。
「そんな事を言っているから、この店は持たなくなるんですよ……。うっくっくっくっく……」
うす暗い笑みを漏らして。
メゲルトは、一回は帰っていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます