27.展開開始! レストラン&プラント小惑星パッケージ商法!
「まずは、良さげな資源小惑星を探すところから……と」
僕がそう言うと、事務員の服を着て。リジョリア・イデス号の中を歩いているイデスちゃんが珈琲を淹れて持ってきてくれた。
「ユハナス様? 船のコンピュータを使って、買ってきた小惑星データから適したものをソートにかけてピックアップいたしましょうか?」
「うん、それ頼むよ、イデスちゃん」
僕はそう言って、薄めのブラックコーヒーの入ったマグカップに口を付けた。
* * *
さて、話は外食店小惑星をコー・ラルヴィ社に売り払ったところまで遡るんだけど……。
「ほう! 素晴らしい決断です、店長さん! この店を私共に売ってくださる! ああ、これは巨利を産みます。本当に感謝ですよ!!」
そう、コー・ラルヴィ社のメゲルトの奴に。小惑星FLStを売ると言った途端に、奴は手のひらを返して、ほくほく顔になって。
僕らに、媚びることはしないまでも、今までのような慇懃無礼な態度は取らなくなった。
「本当に……。苦渋の決断なんだから。出来れば、色付けてよね? 買取価格にさ」
僕たちは、既にイデスちゃんの発案による次の計画に移る心構えができていたので、別段もう、小惑星FLStを売ることに痛痒は覚えなかったが。心理面には、初めて開発した小惑星であるFLStに対しては思い入れがあったので。
そんな事を言ってみると、メゲルトの奴は少々唸って。
「ま、いいでしょうね。大サービスとして、1割増しの価格で買い取ることにいたします。この小惑星の設備があれば、その程度の稼ぎはすぐに作れますから」
「……そっか。そりゃ有り難いけどさ。僕らがここまで育てた、この小惑星。大切に使ってくれよ、メゲルト氏」
「何をおっしゃいます! この小惑星は、既にわが社の所有物です。自社の所有物を粗末に扱うほどに、私どもは愚かではないですよ。では、この電子書類にサインをなさってくださいますか? それが済めば、代金は自動的にこのカードもしくは紐づけされた指定口座に即座に振り込まれます!」
大きな仕事を捕まえ、モノにした興奮に襲われているメゲルトの様子は、見ていてちょっとすごかった。
目を見開き、息は荒く。辛うじて体裁と礼儀は守っている。そんな感じだったんだ。とにかく、僕らは。小惑星FLStを売り、それと共に膨大な資金を得ることになった。
* * *
「資金は十分あるし。今回のオーダーをしてきた、店舗オーナーになる方からは準備金を先払いもできると言われている。いいところをピックアップしてよ、イデスちゃん」
なんというか、リジョリア・イデス号内の一部屋に。僕らは仕事用の事務室を作って、事務作業をしているんだ。
「わかりましたわ、ユハナス様。少々お待ちください」
事務机に座って、船内無線通信チャンネルとリンクしているノート型端末を叩くイデスちゃん。
僕らが今受けている仕事は、まあ、売る前のFLSt小惑星に来たお客さんからのオーダーなんだけど。
僕らがもう売ってしまったあの店に来店した際、自分もああいった店が欲しいと言っていたお客さんが。僕らが店と小惑星を売った資金で、あの形のレストラン&プラント小惑星パッケージを作る仕事に職替えしたと聞いて、それに対する依頼をくれたものだったりする。
初動の小惑星買い付け、そこでの生活用環境構築、農地開発、水資源採掘用工事、諸々のシステム作り。ここまでが第一段階。
続いて、レストランの営業ノウハウ教育。まあ、これは何らかの外食店経営の経験者にはわかっていることであるので、教える必要がない顧客もいる。
そして、レストラン&プラント小惑星パッケージが完成し、営業メンバーのトレーニングも終わったら、周辺宙域の管理役所に営業許可をもらったのちに、近隣の宇宙街道沿いまでパッケージ小惑星を曳航していって。晴れて一店舗の準備が整って、僕らの仕事は完遂することになる。
まあ、僕らはそういうお仕事を始めたわけなんだ。
「今の所、オーダーは二件ね。まあそう手が余ってるわけでもないし、資金もまだまだたっぷりあるし。ゆっくりいきましょう、ユハナス商団長」
マティアさんが、自分の机で固定端末を弄ってオーナーが制服案を用意していなかった際に提示する、店員の制服のデザインをしている。
「あ~。のうえんをたがやしたいよう~」
ルーニンさんは、事務室の壁沿いにある棚のプランターに、ちっちゃな如雨露で水をやりながらブツブツ言ってる。
「ルーニンさん、お仕事してるの?」
シオンさんが、机の固定端末で店の建物のサンプルデザインを作る建築用ソフトを弄りながら、そんな声をルーニンさんにかける。
「わたし~。コンピュータわからない~」
そう、ルーニンさんには、種子の選択や、栽培法をレポートにしてまとめて置いて欲しいといったのだが。全くやっていないようだ。まあ、ルーニンさんは、農耕機ぐらいならなんとか扱えるが、込み入った機械操作は酷く苦手なんだからしょうがないか。
「おい、ニール君。君はコンピュータを弄れるのか?」
レウペウさんは、自分の机のノート型端末で料理のレパートリーと、試食に行くためのデータを集めていたところで。
となりのルーニンさんの席のノート型端末を弄っているニール君に目を止めた。
「……少しは……」
「……少しは? これは、アームドアーマーのプログラムを組む時のアセンブラ言語と同じものじゃないか? 熟練していないと……」
ニール君は、そこまでレウペウさんに言われると、端末の電源を切って。
ルーニンさんの所に駆け寄って、プランターに一緒に水をやり始めた。
「おい、ユハナス商団長。冗談か何かのようだ。あの十歳にもならない子供が……。アセンブラ言語で何かを組んでいたぞ?」
レウペウさんが、冷や水を掛けられたような表情で言うけど。
「ニール君がプログラムできるなら。心強いじゃないか、レウペウさん。イデスちゃんに教育してもらって、船内のSEをやってもらってもいいじゃないか、ゆくゆくは」
僕はあんまり深く考えずに、こう言っていた。
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