22.宇宙トラックの運ちゃんばっかり
「おっほ!! まさか宇宙でうな丼が食えるとはな!!」
僕が、厨房をレウペウさんに任せて。小惑星を宇宙街道沿いに曳航し、1か月前に営業を始めた外食店、フードFLSt(そう言う名前の店にしたんだ)のホールを回って接客をしていると。ガタイのいい宇宙船乗りたちが5人ぐらいでうな丼をがっつきながらそう言っていた。
「兄ちゃん、店長さん呼んでくれよ!! ウメエからよ、これ。タイムパッケージしてテイクアウトできるんなら、いっぱい買っていくぜ!!」
うむーむ。服装からして、明らかに宇宙貨物の運び人だ、このガタイがいいお客さんたちは。
「僕が店長ですよ、お客さん」
僕がそう言うと、お客さんたちはぽかんとした顔をして。
それからにやりと笑った。
「やるな、兄ちゃん。いや、店長さんか。あんた歳幾つだ?」
「もうそろそろ18歳です」
「ほおー。感心するぜ。僅か十八で自分の店持ってんのか。ウチのバカ息子にも見習ってほしいもんだなぁ」
「まあ、仲間に恵まれまして……」
「そっか、仕事において、仲間ってのは宝だからな。俺も同僚に恵まれてぼちぼち稼げてるし、なによりも仕事やってて楽しいからな」
モグモグガツガツとうな丼を食べまくる、ガタイのいいお客さんズ。
結局、うな丼を百人前近く注文されてしまった。
ホールをシオンさんとマティアさんに預けて、僕は大量にオーダーの入った厨房に向かう。
「ユハナス商団長? なんだこのうな丼90数人前ってのは⁈ 食材はあるが、作ったところで腐らないか?」
厨房でウナギをどんどん捌いていたレウペウさんがそんな事を言う。
「大丈夫だよ。タイムシーリングの小型簡易版のタイムパッケージをかけて、お持ち帰り保存用にすれば。そうしてくれってお客さんが居たんだ」
「ふむ。ならばテイクアウト用の容器に盛り付けるか。そう言えばユハナス商団長」
「ん? なに、レウペウさん」
「実際に、この一か月での売り上げはどうなんだ? 経営腕などは全くない俺には、そこら辺はわからん」
「まあ、結構儲かってるよ。オープン直後だってこともあるんだろうけどさ」
「うむ……、そうなのか」
「うん。食材は肉魚はイデスちゃんが近隣惑星から買い付けてくるんだけど、農作物がルーニンさんの畑のおかげでほぼタダだし。水も塩もこの小惑星ではとれるから、まあある意味条件的には相当いい感じなんだ」
「なるほどな。という事は俺は調理作業に没頭していればいいと言う事か」
「いざという事があったら、アームドアーマーで戦ってもらうけど。この治安が行き届いた宇宙街道沿いではそれはまずないだろうね」
「ふーむ……。いわゆる治安が取れている平和地帯というのは。商業行為にとても向くものなんだな」
「そうだね」
さて、あのキタシマ調理師が初めは筋が無いと見捨てていた僕だけど。
熟練とは不思議なもので、教えられたりレウペウさんと一緒に作業しているうちに、僕は一通りの調理を出来るようになっていた。
教えることを教えたら、あのキタシマは帰ってしまったけれど、実にいい教師役だったことは確かだ。
僕とレウペウさんは、ウナギに串を打ちながら肩をごきごき言わせた。
調理作業は肩がこるんだ。
* * *
「ちょっとー!! ユハナス商団長!!」
さて、外食店のオープンから半年が経った頃。
「なんか、きったない子が店に入ってきたわよ! どーするの?」
マティアさんの声で、厨房からホールに僕は呼び出された。
ホールに出てみると。レジ前でマティアさんがどう見ても10歳にもなっていない子供の手を取って、あやしている。
「……? マティアさん? その子どこから入って来たのさ?」
僕が聞くと、マティアさんはフードFLStの正面入り口を指さす。
「一人で入ってきたのよ。それから大声で泣くものだから、あやすのに手間取ったわー」
マティアさんの手を握って、ぐずっているおかっぱ頭の子供がいる。ちょっと臭うぐらいに、着衣も汚いしお風呂にも入っていない様子。
「シオンさーん」
僕は、声を上げてホール作業をしているシオンさんを呼んで。
「僕はこの子を連れて、イデスちゃんの船の方に行ってきます。その間、お店の方をよろしくお願いしますね」
そう頼むと、その子供を連れて宇宙船の方に向かった。
* * *
「捨て子ですね。断片的にですけれど、事情をこの子が話してくれましたわ。ちなみに男の子です」
イデスちゃんがその子供を宇宙船のお風呂に入れて、船内プラントで作った合成革でできた服を着せて。
ちゃんとした様子にして、ご飯を食べさせながら僕に言った。
「名前は? あるのその子?」
僕が聞くと、イデスちゃんが頷いた。
「ニール。ファミリーネームはわかりませんが、ファーストネームはそれで間違いないようです。自分の事を指してニールと言っていましたから」
「そっか。じゃ、ニール君。おにーさんと一緒に、宙域警察まで行こうか?」
僕が、そういって手を伸ばすと。
ガバッと腕で自分の頭を覆って、怯えた様子を見せる。
「……? 警察には、行きたくないの?」
僕がそう聞くと、ガクガク震えながら頷くニール君。
この子に一体、なにがあったっていうんだろうか?
今までの生育の中でさ。
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