18.小惑星でも僕らの星

「なんにもないね」


 僕は、宇宙不動産業者から買い取って。晴れて僕らの物になった小惑星に、宇宙服を着て降り立ってから言った。


「そうだな、何もない。だが、だからこそ。ここには何でも築ける。そうだろう? ユハナス船長」


 レウペウさんが、そう言って僕の背中を力いっぱい平手でたたく。


「この土~。いえ~、水を含んでいないから砂に見えますけど~。見るだけでわかります~。いい土になる砂ですよ~」


 ルーニンさんは、宇宙服の手袋で小惑星の表面の砂を拾ってジョリジョリと揉むとそう言った。


「ユハナス君ー!! あったよー、向こうの方にっ!! おおきな氷の塊がゴロゴロと!! あれだけあれば、生活にも農業用にも。水には困らないと思うよっ!!」


 マティアさんが、低重力の小惑星でジャンプをしながらこっちに来てそう告げてくれた。


「ってことは。不動産屋は嘘つかなかったってことか。宇宙での最重要資源は、まずは水。その資源量に嘘がなかったとすると、他の資源量も多分示された資料通りね」


 宇宙服に例の杖を持つという、変わった格好でそう言うシオンさん。


「うん、良かったよとりあえずは。イデスちゃん、どう?」


 僕は、宇宙船でこの小惑星の周りを調査巡回しているイデスちゃんに無線通信で聞いた。


『問題ないです。形状も質量も、計測できる範囲では示された資料と誤差程度しかありません』

「わかった。一回降りて来て。みんなで集まって会議をしよう」

『了解です、ユハナスキャプテン』


 さて、イデスちゃんが船で降りて来たので、僕らは全員一度船内に戻り、食事にすることににした。


 イデスちゃんの作った、サーモンソテーをみんなで食べながら。今後の計画を練る。


「まずは~。田畑を作るには~、熱や大気が逃げないように~、ファームハウスの施設素材が必要よ~」


 普段ボケボケなのに、農業の事となると目も表情も変わってくるルーニンさん。


「ユハナス船長。俺にアームドアーマーを一機買ってくれ。この小惑星の守護をするのにそれは必要だ」


 レウペウさんの言う事も尤もだ。


「生活空間を小惑星上に作ることも必要ね。シェルターハウスの建材や、建築士も大切じゃない?」


 マティアさんも、地に足の着いた発言をする。


「みんなご尤もだけどさ。今一番大切なことを忘れていないかしら?」


 シオンさんは、やっぱりお酒を飲みながらだけど、そう言うのだった。


「一番大切な事?」


 僕がオウム返しに聞き返すと、みんなも首をひねる。


「ああ、なるほどです。そういうことですわね、シオン司祭」


 唯一、イデスちゃんだけが気が付いたようだ。

 一体何のことだろうか……?


   * * *


「なるほど、名前か。ここはこれから俺達の根拠地になる。そうだな」


 シオンさんが言ったのは、この小惑星に名前を付けるのが第一だろうと言う事だった。それを聞いたとたんに、まず反応したのはレウペウさんだった。


「国を興すにあたって。その首府になる土地で祈願祭を行い、万代続くようにと祈るのと、土地の名前を付けるのは通例というものだからな」


 レウペウさんがそう言い切ると、妹のマティアさんも頷く。


「名前の重さは大切ね。物理的な重さはさておき、響きの重さは心の拠り所になるから」

「あら? よくわかってるのね、戦士君と娼婦ちゃん? 国にとって、首都の名前は大事よね」


 あれ? なんか。マティアさんの後に喋ったシオンさんが。意味ありげな視線で二人を見るけど、それ以上は突っ込まない。なんだろうか?


「とにかく、案を上げていきましょう。良い名前に越したことはないですから」


 イデスちゃんがそう言って。みんなが食事を終えたのでミーティングルームに移る。


「アーステラ・ランド、ってのはどうだ? 人類発祥の惑星の読み方を二つ重ねたんだが……。縁起がいいと思うんだ」


 レウペウさんの案はコレ。


「ゴールディ・ヘヴン。貴金属の王者、純金の名前を冠するのって、景気良くなりそうじゃない?」


 マティアさんはゴージャスな感じの案を述べる。


「デメテル・ファーマっていうのは~? 農業の神様の畑って意味なんだ~」


 ルーニンさんは意外と博識。神話の話を出してくる。


「ラヴ・センターナ。どうかしら? ちょっと野暮ったいけれど、愛の心の中心って意味よ。生きるにあたって、愛を中心に据えるのはいいことよ、きっと」


 シオンさんは、流石に僧職である人の発言をしてくるなー。


「システム・コア・プランツ。私の案はこれですわ。根源の力を産む場所、という意味です」


 イデスちゃんは如何にもAIの案だといった感じ。


「うーん……。僕の番か」


 僕はちょっと考え込んだ。しかし、自分の心を覗いてみて、理想の形を考えてみると。

 初めての船出をして以来、結構経つけど随分いろいろなものが見えるようになっている事に気が付いたし。この仲間たちを得ることもできた。

 そこで、僕は一つの案を思いついた。


「フリーズ・リンケージ・ステーション。ちょっと長いけど、後で略称にすればいい。自由人が集い連結する駅。そう言う意味で、人が自分の意志で以って人とつながる場所。そう言う意味合いなんだ」


 僕がそう言うと。

 僕以外の五人全員が、僕を見て拍手をした。


「ユハナス船長。そんなこと考えていたんですね。人の意志を尊重して、強制しないって。素敵ですよ♡」


 マティアさんが、なぜか。顔を上気させて、僕にキスしようとして。

 残りの四人に服を引っ張られて断念した。


 どうやら、決まりでいいみたい。


 僕らの小惑星、『フリーズ・リンケージ・ステーション』。

 略称は『F.L.St』で行こうかな。

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