17.金でぶん殴るっ!!
「ひっ!! なにしやがるっ!! 信じられねえ、人に暴力を振るいやがった!! 暴力だ! 暴力的な人間だぁー!!」
ああ、反吐が出そうだ。さんざんルーニンさんを蹴って殴ってしておきながら!
自分がそれを振るわれた途端に、暴力を否定する。じゃあお前のやっているそれはなんなんだって。僕は思うだけでなく、怒鳴っていた!
「何を言ってやがるっ!! これは教育だっ! 見ていて親の愛情が分からないのかっ!!」
瞳孔をぽっかり開いて。偏執的な表情でそう怒鳴る、ルーニンさんの父親。
「……あなたはそう仰っても。この惑星の警察がどうとるかしらね? あなたが暴行をしているところは私が見届けているし、触診した感じではこの子、骨にひびが入っているところがそこら中にあるわよ?」
痛さと怖さにひいひい言っているルーニンさんを抱いてかばいながら、シオンさんが言い放つ。
「うるせえっ!! だいたいなんだテメェら!! 俺達親子の事に、他人が首を突っ込むなっ!!」
そんな事を言う、ルーニンさんの父親。この分では、親子の縁を良い事に。今まで相当の暴行をルーニンさんに振るってきたな……。
「おい、本来だったら、お前なんかと取引なんてしないんだが……。言えよ。幾らでルーニンさんを自由にする?」
僕がそう言うと、ルーニンさんの父親は。酷く下卑た笑みを浮かべた。
「おー? おおー? そうかそうか。お前、どこのだれかはわからねぇが。ルーニンに惚れたんだな? まあ、俺も確かめたが。ルーニンはいい身体をしているぞ。へっへっへっへっ!! 農業ばかりをやってるから、土の気を受けていい身体になったんだなぁ……」
くっそこの野郎!! そんなことまでしていたのかっ!! 僕はこの男のいいぶりに頭に激怒の感情が昇ってきたが。その感情はかえって僕の頭を冷やした。
「幾らだよ?」
「ふん。俺が赤ん坊のころから愛情を注ぎ込んで大切に育ててきた一人娘だからなぁー? 幾らかなぁ? それにお前、人身売買なんて許されると思っているのかぁー? 高いぞぉー? ひゃっひゃっひゃ!!」
イラついてきた。僕は、使い捨てのマネーカードを一枚出すと、携帯端末を使ってそこに結構な額の電子マネーを振り込んだ。そして、それを男の足元に投げつける。
「受けとれ。中身を確かめてみろ!!」
「んー? はした金だったら。売らねーぞー? あひゃひゃ!!」
男は、この銀河では。ほぼどの星系、どの惑星の人間でも持っている携帯端末でカードに振り込まれている金額を読む。
「……!! かっは!! かはははははっ!! テメェ頭イカレてんのかぁ⁈ こんな、芋娘。できる事っつったら土いじり農業だけの低能肉人形によ!! こんな大金を払うって!! ばぁ――――――――――――――かっ!! とっとと持って帰りなっ!! もう俺は知らねぇ。どんな変態的なプレイをするつもりか知らねぇけどな!! なんなら殺しちまっても、俺は何の文句もねぇぜ。こんだけの金が貰えりゃなぁ!!」
僕は。今までルーニンさんがこの男にされたことを想像するだけで。歯を軋ませるぐらいに、悔しかったけど。
あとは、僕がコイツに払った『金』が引導を渡してくれるだろう。
おじいちゃんがよく言っていた。金というものは、使う者の心によって。環境を与えてくる恐るべき道具だと。
善き心で用いれば善き環境が訪れ、悪い心で用いれば。
それ相応の破滅をもたらすものだとね。
「行きましょう、ルーニンさん。大丈夫、ユハナス君はいい子よ。私もついているし。仲間もみんな、癖があっても悪い子たちはいないから」
シオンさんが、神聖術をかけて。痛みを和らげることと自己治癒力を上げて、ルーニンさんを癒して。
僕らはルーニンさんの実家を後にした。
ルーニンさんは30歳過ぎで、もう立派に成人しているから。
引っ越しや所属を自分で決める事ができる年だということを確かめてから。
* * *
「……そんなことが……」
船に戻って、いきさつを話すと。
まず、レウペウさんが激昂した表情を浮かべ、続いてマティアさんが口を開いた。
「父親に手籠めにされたか……。ふん! 最悪な父親ね!! その上、労働酷使して、ストレスの発散に殴り倒して!! ユハナス船長、ちゃんと殺してきたでしょうね?」
うおう。この兄妹は、海賊の本拠地で海賊に混じって暮らしていた時期があるだけに。物騒だ。
「殺してはいないけど。お金でぶん殴ってきた」
「……そうですか。ユハナス様」
僕が、『お金でぶん殴った』といった事を一番よく理解したのは、イデスちゃんだった。イデスちゃんは続けて言う。
「実は、ユハナス様のおじいさまのトイロニ様。前の私のキャプテンですけれど。その方が本当によく仰っていました。金に汚い下衆を潰すには、金を与えろと。下衆はその金の使い方が分からずに、金の重みで自ずと潰れる。そのような事をです」
うん。そう言う事なんだ。僕がルーニンさんの父親に大金をポイっと渡したのも。金で自爆をさせるため。僕もそう説明すると。
「まあ、ラージットも生半可な腕力と財力で身を滅ぼした。ある意味ではそう言う事もあるかもしれんな」
と、レウペウさんが言い、マティアさんもそれに頷く。
「ねえ、シオンさん。ルーニンさんの様子は?」
船の医療室に、僕らは向かって。
そこでシオンさんの治療と、点滴を受けているルーニンさんを見つけた。
「うーん……。しらべてみたら。全身に古傷が凄くいっぱいあって。この子、しばらくは療養が必要だわ。まあ、普通に街歩きくらいならば問題はないから。小惑星の土質の話とかを、宇宙不動産会社で相談するときには出てもらうことにしよう」
シオンさんが、ベッドの上で横になっているルーニンさんをなでると。
ルーニンさんが唸って寝言を言った。
「……おとうさん……。いんげんまめが豊作でおいしく……できたよぉ……。頭……なでて……ほめてよぅ……」
そんな事を言いながら、目尻から涙を流していたルーニンさんだった……。
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