13.戦いという法を遵守するものたちからの

「エザラード少将。その者たちがそうかね?」


 惑星ランドナの軍庁舎で。

 イデスちゃんを抜いた僕らがエザラードさんに連れられて、アルアテラギ星系軍の司令官に会うことになったんだけど。


「はっ。マクリアス大将。三星系の交通の要衝に巣食っていた、厄介な海賊団であるラージット一味を見事に壊滅させたのは、彼らです」


 指令室でエザラードさんが敬礼を向ける、そのマクリアス大将と言う人は、とても背の低い人だった。威厳は凄いんだけど、柔らか気に笑っていて。それが逆に強さを表している。こういう人は、別にはあまりいないだろうが、僕には思い当たる人間がいる。


 いつも物腰が柔らかいが、押すときと怒るところを弁えている僕のおじいちゃんだ。軍人と商人の違いこそあれ、人の上に立つ威厳と人品の良さが似通っている。


「ふむ。すまんが、私は多忙だ。手書きの感謝状をしたため、そこに置いておいたから。彼らに渡し。また、報奨金の入ったマネーカードも渡しておいてくれ。では、会議に行ってくる」


 なんだかそっけなく、指令室を去るマクリアス大将さん。まあ、忙しい人だろうし。このぐらいのそっけなさは、仕方が無いってことだろな。


「すまんな、ユハナス君。実は、軍の機密で多くは話せないのだが。近々ここらの星系で戦乱が巻き起こるかもしれんのだ。君たちは商船で商いを行うというのならば、この近隣星系からは離れたほうがいいだろう。話せることに限りがあって済まないのだが、敵や味方の事については、まだ話すことができない。すまん」


 軍港内を歩いて、僕らをリジョリア・イデス号の泊まっているドックまで送り届けると。エザラードさんはそう言って別れを告げた。


「君たちが、大きな財力を持つようになったとしたらだが。また私たちは会うことがあるかもしれん。その際には、今日の親交を温めなおそう」


 エザラードさんはそう言って、最後の挨拶にしていた。


「どれどれ……」


 僕らは船に戻って、マクリアス大将からの感謝状を開いて目を通し始めた。


『アルアテラギ星系軍大将、マクリアス・セウビィ書。

 さて、カルハマス星系出身のユハナス・ユヴェンハザ君並びにその部下の方々にこの書を送る。

 此度の宇宙海賊掃滅の儀、わがアルアテラギ星系軍としては大変喜ばしく、また諸君に大きな感謝を向けるものである。

 また、熱核兵器の使用が禁止されている宙域での、悪霊粘土の兵器としての使用には大変驚かされたものである。

 しかしながら、その手はある意味大変危険であり、重ねての実行を行わないことを切に祈るばかりである。

 さて、私並びにアルアテラギ星系軍は、君たちに君たちの行動によって発生した経費削減可能金額の一部を、褒賞として送ることとした。もし異存なくば受けとって商売生計の一助に用いて欲しいと願うものである』


 と、ここまでで感謝状は終わっていた。随分丁寧だなと、あのそっけない態度だった大将さんに対して、僕らは少しだけ好感を持った感じになった。


 それから僕は、感謝状の入っていた封筒に同梱されていた、マネーカードを取り出して。

 イデスちゃんに渡すと、預金額の確認を頼んだ。


「……ユハナス様。これにはとんでもない額が入っていますわ」


 残高を確認したイデスちゃんが、驚いた顔をして言ってきた。


「凄い額って……? 幾らくらいなの?」


 僕が聞き返すと、イデスちゃんは頬に手を当てて。ちょっと唇を尖らせて答える。


「小惑星が。未開発の小惑星だったら、買えてしまうぐらいに入っています」

「小惑星が? そんなに大きい額が……」


 驚く僕に、腕を組んでレウペウさんが言う。


「ラージットの奴は、三星系の交通の要衝に縄張りを持っていたからな。そのせいで、星系間の移動船はあの縄張りを避けるように大回りをして、行き来をしていたのかもしれない。だとすれば、邪魔が取れて正式運行が取り戻せたようなもの。それに拠って発生する利は大きいぞ」


 とか。なるほど、そう言うわけで、こんなに大きい額を寄こしたのか、あの大将さんは。


「さて、みんな。ちょっと考えようよ。これだけ大きな資金が入ったら、何かの事業を始められる。何をやってみたいかな? みんなは」


 僕は、これだけの元手を手に入れた以上、宇宙悪霊狩りよりも効率のいい商売を考えるべきだと思って、みんなから意見を募った。


「洋服屋さんとかは? 小洒落たお店開いて」


 マティアさんが意見を述べる。お洒落な服飾品を好む彼女らしい。


「私は、料理店がいいと思うなぁー。美味しいお酒と料理を出すところ」


 シオンさんは、まあ。想像通りに食べ物のお店を推してくる。


「傭兵団を結成するというのはどうだ? ユハナスキャプテン」


 レウペウさんは、それだった。それぞれに、自分の得意な領域を勧めてくる。


「イデスちゃんは、どう思うんだい?」


 僕は、おそらく分析力と見通しの確かさは今のメンバーの中では一番高いであろうイデスちゃんにも意見を求めた。


「そうですわね……。商売を始めるのもよいですが。そうですね……」


 一言放ってから、ちょっと考え込んで。イデスちゃんは再び口を開いた。


「小惑星を、手に入れましょう。そこを根拠地にして、食料生産をして自給力を培い、食料の輸出なども出来るようにして。他の商売は後からでもできる事ですから」


 む、なるほど。イデスちゃんの思考はいい感じだ。


「小惑星の選び方としては。どんなのがいいかな?」


 僕は少し突っ込んで聞いた。すると澱みなくイデスちゃんは答える。


「氷の含有率の高い小惑星がいいです。熱を加えれば、水を手に入れられますから」

「ふむ、それで。土質改善には、やっぱりアレ捕まえて来て?」

「はい。悪霊粘土を用います。はっきり言ってしまうと、私自身であるこの船単体でも、宇宙悪霊の捕獲は出来ますから、その仕事は私にお任せください」


 僕が、イデスちゃんにそう語ってもらって。

 残りの三人に確認を取ると、三人も。


「基本は食べ物。それは動かないのはわかるわ」


 と、マティアさん。


「料理にも材料が必要だからね。それが産み出せるってのは強いかも」


 と、シオンさん。


「傭兵団を養うには、大量の食い物が必要になる。俺は賛成だ」


 とそれぞれに同意してくれた。

 という訳で次の方針決定。

 小惑星を買ってそこを耕しての。


 農業ベースの商売を始めよう。

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