12.アルアテラギ星系軍との接触
「……君たちか。あのラージット海賊団を商船一隻で壊滅させたというのは……」
あの小惑星港を離れてしばらくしたところで。僕らは大型の宇宙艦艇に周りを囲まれ。
まあ云わば、事情聴取のようなものを受ける破目になった。
「あなた方は? 僕らはカルハマス星系から出てきている、ユヴェンハザ・カンパニー所属の一商船の乗組員ですが……」
僕らが、僕らの船に乗り込んできた銀髪に白革コートの男にそう聞くと。
「私はエザラード。アルアテラギ星系宇宙艦隊のエザラード・ファウだ。このあたりの宙域の治安を担っている者でね。実は、君たちの行動はこの宙域に散布してあるビットカメラで見させてもらっていた。まさか、悪霊粘土をあのような用い方をするとは……」
そこまでは、厳正な軍人の顔をしていたエザラードというアルアテラギ星系軍の軍人さんだけど……。突然、にやりと口をゆがめたかと思うと、大声で笑い始めた。
「いや、マジなのかよ!! めっちゃウケるわお前ら!! 俺達が熱核兵器が協定上使用禁止されている宙域だから、駆逐掃滅するのに手こずっていた、あのラージット海賊団を! いわば肥料爆弾とも呼べそうな代物使って壊滅させるとは!! なんていうか、発想が面白くてウケるわ!! はっはっは!!」
爆笑してる。笑われた僕らは、肥料爆弾という例えを聞かされて。まあ確かに強烈無比な兵器兵装を揃えている、星系軍の正規宇宙艦隊から見ればそうなんだろうなとは思いつつも、何か妙な気分に。なった。
「余計なことを。しましたか? 宇宙航行法では、戦力を持つ船は……」
「宇宙航行中に進んで海賊その他の危険分子を掃滅することが推奨される、だろ? 君たちの行動は間違っていはいないし、むしろ褒賞に値する。だから、俺は君たちにコンタクトを取った。我らがアルアテラギ星系まで足労願えれば。今回の件に対する褒美を与えられる」
へえ? これ、僕がレウペウさんを手に入れたくてやった行動だけど。
その上に、アルアテラギ星系軍から褒美を受け取れるとなれば儲けものだな。
「案内を。願えますか? エザラード提督」
僕がそう言うと、エザラードさんはニッと笑った。
「我が艦隊について来給え。この近隣で最大の戦力を保持する、我がアルアテラギ星系軍の武威を見ていくこと。まだ若い君の無駄にはならんだろう」
エザラードさんはそういうと。僕らの船に乗ったままで、自分の艦隊に指示を出して移動を開始する。
「しかし……。君の船は随分贅沢だな? 我ら高級軍人の乗る船でも、こんなに凝って贅沢な内装はないぞ?」
イデスちゃんがアトミックフードメイカーで残り少ない悪霊粘土から抽出した、牛肉。それで作ったビーフステーキ。それに赤ワインとバターブレッドを焼いた物という食事を食事スペースで僕らと一緒に食べながら、エザラードさんは感心したように言う。
「それに……。飯も旨い。合成食材ではあるが、合成食ではないところがポイントというか。そこの白髪ぱっつんのお嬢さんが手をかけて焼いてくれた味がする」
うーん。軍人さんって。宇宙に出てばっかりで、あんまりいいご飯食べてないのかな? って、そんなことを思わせるように、美味しそうにイデスちゃんの料理を食べるエザラードさん。
「ユハナス君。お風呂貰ったよー♪」
そこに、キャミソール姿でお風呂から出てくる、マティアさん。
「おい、こら!! はしたないぞマティア!!」
僕らと一緒に、テーブルを囲んでいたレウペウさんが焦ってそう言うけど。
「何言ってるのよ? にい。この船はもう、私の家よ? 自分の家で堅苦しい礼儀を気にしてどうするのよ?」
バスタオルで頭髪を拭きながら、にっと笑うマティアさん。妖艶。
ちなみにだけど、この危険な女の子の魔手からは僕はとりあえず逃れて、童貞を死守していたりする。
「宇宙軍人さん、アルアテラギ星系って、お酒やごはんが美味しいの?」
シオンさんが、エザラードさんにそんなことを聞いている。
「いや……。食文化は他星系に比べて、いまいちだという評価に甘んじている」
「ふーん。じゃ、やめた」
「? 何をかね? ニレディアの司祭さん?」
「アルアテラギがいい所なら、そこに住んでもいいと思ったんだけど。ご飯もお酒もおいしくないなら、止めたって言ってるんですよ」
「なるほど。ニレディアの生臭坊主の類か。君も」
「そうね。生臭大好き坊主って言ったところかしら」
「なんというか、正常だな君は。シオン君といったかな?」
「正常? どの基準でですかね?」
「人間としての、欲と理性のバランスという基準でだ」
僕はステーキに黒コショウを足してかけて、ちょっとピリ辛にしてもぐもぐ食べながら、横耳で話を聞いていた。
* * *
「……これは、すごいな!!」
その威容を目にして、嘆息するレウペウさん。
その威容ってどの威容かと言えば。
「これが、我がアルアテラギ星系軍本部、惑星ランドナの第1、第2宇宙艦隊だ。構成船舶数、1000隻近い。まず、この周辺星系でこれだけの軍事力を備えている星系はないよ」
そう、エザラードさんに連れて行かれた、アルアテラギ星系第五惑星、ランドナに駐留している宇宙艦隊の戦艦隊の威容だったんだ。
「私たちは、この武力によって。星系近隣の秩序を守っている。宇宙という、無秩序の海の中でね。君たちが狩る、宇宙悪霊。あれは肉体を持たないが、心の中に宇宙悪霊を飼っているような人間も多いし、またそう言う人間が治める星や星系もある。そう言った者共が襲ってきた際。対話で乗り切るのは至難であり、撃退をする必要がある。その為の軍事力だ」
そう説明してくれる、エザラードさん。
「……太古の昔。人間が宇宙進出をする前の事だが。人類発祥の星で、平和に対する談議があったそうな。一部の人間は、『戦闘行為』そのものを忌避し、戦闘兵器を一切持つべきでないと主張したらしいが……。結局、その一派は滅んだと言う事だ。まあ、当然だろう。平和というのは努力で維持する物であり、戦って得るモノであり。命惜しさの遁辞の中からは産まれるものではないからな」
そういって、少し憂鬱な顔をして。
「では行こうか、我が星系軍の本部に」
といって、宇宙基地港の中に僕らを案内した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます