11.兄戦士と妹娼婦
「くっそ!! ここまで事が運んだのに……!! ここまで……か!」
レウペウは。レウペウのアームドアーマーは、海賊頭目ラージットとその部下のアームドアーマーによるビームマシンガンの乱射を受け続けながらも健闘していたが、ついにエネルギー攻撃を反射するリパークシールドの効力が切れ、右脚部に被弾。右脚を失ってしまった。
「はっは!! ははーっはっは!! ザマを見やがれ、この亡国王子!! テメエは結局、いいところのお坊ちゃんの育ちで! 地金貧困層の出の俺には、敵わねぇんだよ!! わかったら、とっとと死にやがれっ!! オメエの存在には以前からムカついてたんだっ!!」
ラージットはそう叫ぶと。自らビームアクスを振りかぶって、レウペウの漆黒のアームドアーマーに切りかかってきた。
だが。
レウペウも、ここが終わりと腹を決めて、アームドアーマーが抱えているミサイル群を一気にラージットに叩き込み、自分のアームドアーマーもろとも爆発に巻き込まれたのだった……。
* * *
「この小惑星港。もう終わりですね。居住部も出入港部も、もうほとんど壊滅に近く、建造物がズタズタです……」
イデスちゃんが、周辺探査を行ってそのように言う。
「あ。また大きな爆発が一つ……。随分人が死んだんでしょうけど、人殺しをしてきた海賊たちを殺すことって……。法治地帯でない場合、罪になるのかな……?」
シオンさんが、なにか微妙な問題を気にしている。
「イデスちゃん、レウペウさんに持たせた発信機の反応はどう? 近くまで来ているかい? 流石にいい加減、離脱しないと。この小惑星港、大爆発を起こすよ」
僕がそう聞くと、イデスちゃんは頷いた。
「かなり近くまで来ているのですが。そうですね、ここからでも肉眼で視認できます。あの隔壁の三枚向こう、といったところで……!!」
言いかけて突然息を呑むイデスちゃん!
「どうしたの? 何か⁈」
「いえ、あの隔壁部に大爆発!! 同時に、レウペウさんの発信機反応、消えました!!」
「えっ? ってことは、あの人……⁈」
「……おそらくは……。非常に残念ですが……」
イデスちゃんは、船のAIなのに感情理解が深い。僕が、折角の強い戦士を手に入れ損ねたことも。
また、人類共通意識感覚としてある、『気に入った人に死なれた際の落胆』を鑑みたのか、沈痛な表情で僕に言った。
「そっか……。じゃあ、仕方ないよね……。死んじゃった人は、仲間にはできない。どんなに悔やんでも、それは叶えられないんだ……」
僕とイデスちゃんが、サッドネスな空気に包まれていると。
シオンさんが、突然杖でワイドウインドウの外を指した。
「まだ諦めが早いよ、ユハナス君に、イデスちゃん! 人間ってのは、そんなに脆いものではないの! 本当にしぶといのよ。あれを見て!」
その声に、僕とイデスちゃんが窓の外を見ると。
レウペウさんが半壊したアームドアーマーのコックピットから身を乗り出して、こちらに向かって手を振りながら。
推進剤を一吹かしして、僕らの船に着船した。
* * *
「レウペウさん!! よくご無事で!!」
僕は思わず叫んでしまった。なんだか、待っていてよかったし。
この強い戦士を手に入れる努力が無に帰さなかったのも嬉しかったし。
なによりも、言葉を交わして、何か心に感じ入る事のあった人物が死なないで済んだことが、本当に良かったと思ったんだ。
「無事ではない! 俺の昔からの愛機がボロボロだ!! コイツは、親父の形見で大事に乗っていたのに!!」
なんだか、自分の身体よりも大事そうに、もう機能を為さなくなって壊れたアームドアーマーの機体を格納庫で撫でて嘆くレウペウさん。
「にい。しょうがないよ、所詮はアームドアーマー。道具なんだから、命を守る役に立ったんだから。感謝して、大切にリサイクルすればいいんだよ」
レウペウさんと面差しのよく似た、背の高い女の子。
レウペウさんがこの子が歳十六の妹、マティアというんだと説明してくれたけど。その子が、何か割り切り切った表情でそう言った。
「マティア。アームドアーマー乗りにとって、それは命を預け託し共に戦場を生き抜いてきた戦士の剣に等しいという話は、幼い頃に父上が言っていたろう?」
そんな事を言うレウペウさんに、おかしそうに笑って返すマティアさん。
「剣は折れるモノじゃないの、にい」
そして、レウペウさんの頭をなでて続ける。
「忘れ去ってしまわなければ、いいのよ。命にかかわったものに対する礼儀よ、それは」
この子……。十六歳だって言っていたよな、レウペウさんは。
その割に老けているというか。
いや、老けているというよりも、落ち着いている。度胸が据わっている。
「マティアさん。レウペウさんはこの船でアームドアーマー乗りとして働いてもらう約束ですが……。マティアさんはどうしますか? 貴女一人を養う、余剰の富ぐらいはこの船は簡単に生み出せますが……」
僕がそう言いかけると、マティアさんは。
僕の唇に、マニキュアの塗られた指先を押し当ててこう言った。
「私も仕事をするわ、船長さん。貴方、女の子を知らないでしょう? 初めての手ほどきをしてあげる。今まで、あの海賊の港で多くの少年たちをそうしてきたように」
そして、光の強い眼差しを僕の瞳に射込んで。
妖艶に笑った。
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