10.合体宇宙悪霊。これ凄くヤバい

「うわぁ―――――――――!!」


 やばいやばい!! 見誤ったぞこりゃ!

 何を見誤ったかというと、1体1体では僕らが片付けて捕まえる事が出来ていた宇宙悪霊の事。

 粘土の形にして封印していたタイムシーリングを。一気にはがして、集団を同時に放ったら……。


 なんというか、一体の巨大な宇宙悪霊に融合して、海賊の港の小惑星内を暴れまくってる!! 爆発の閃光と振動、それに空気があるところを伝って、粉塵がブチ撒かれる。


「ユハナス様! これは危ないです! 宇宙悪霊のダークエネルギー濃度が尋常ではありません!! リジョリア・イデス号はこの港から離脱した方が賢明です!!」


 イデスちゃんが冷静な意見を述べてくる……。うん。

 そうだ、それが常道の身の処し方だ。こんなクソヤバいサイズと密度の宇宙悪霊に襲われたら、間違いなく食い殺される。

 でも、ね。

 僕は待つといった。あの、アームドアーマー乗りのレウペウさんが妹さんをつれて戻るまで!!


「イデスちゃん! リジョリア・イデス号の全能力を挙げて! レウペウさんが戻るまでの間、この港で踏ん張るよ!!」

「……無茶をおっしゃいますね。しかし、命令を取り下げる気はなさそうです。実行いたします!」


 一度、この宇宙港から放たれて小惑星の居住区に飛んで行った宇宙悪霊が戻ってくる事があったら。腹を決めなくちゃならないだろうけど。


「72門のツイントロン砲は伊達ではありません!! この船は機動性も高いですし。相当に粘れると思いますわ」


 イデスちゃんがそう力強く言うので、僕は少し落ち着けた。頼りになる船とはいい物だ。


   * * *


「待てよレウペウ。オメエには仕事がある。どこから湧いたかわからねぇが、巨大な宇宙悪霊がこの港を襲ってやがる。オメエは、アイツを退治するのを助けろ」


 ユハナスがレウペウを待つと決めて、港で粘っている頃。そのレウペウはアームドアーマーのコックピットに妹のマティアを連れ込むことには成功したが。

 そのことが発覚して、海賊の頭目ラージットとその部下のアームドアーマー小隊に囲まれて万事休すの状態であった。


「フン……。俺はお前のことなどもう知らぬ。この悪霊も、お前の今までやってきた悪行が招いたものだろう。俺達はここを去る。お前は悪霊に食われて死にでもすればいいだろう」


 気が強いレウペウは、ラージットとその部下に周囲をぐるりと囲まれても動じない。


「ケッ……。この状況で大した大口だぜ! オメエ、この戦力差で勝てるとでも思ってんのかぁ⁉」


 ラージットはそう言うと、部下と共にレウペウの漆黒のアームドアーマーにビームアクスを振りかざして襲い掛かった!


「フン!! 雑魚いわっ!!」


 レウペウは、ビームスピアを発生させ。

 縦横無尽に振り回してそれを退けようとする。


「クッソ!! やっぱこの野郎は腕が立つっ!! おい、テメエらぁ!! 遠隔攻撃で片ぁ付けろっ! 損得勘定じゃねえ、海賊は強弱関係が全てだ! こんな反逆者を生かしておいて、賊の規律が取れるものかっ!!」


 ラージットは、世の規律に逆らっている海賊の規律とか言う奇怪な文言を放って部下を督するが……。

 ラージットには、そう言う意味の指揮能力は多少はあったようだ。

 この海賊頭目の部下は、レウペウに向かって遠隔でビームマシンガンを放ち始めた!!


「ちっ……!! これは厄介な! アームドアーマー、リパークシールド展開!!」


 レウペウは、アームドアーマーの機能であるエネルギー攻撃反射シールドを張ってビームスピアを振りかざし。

 ラージットたちの小隊に一機で切り込んだ!!


   * * *


「ユハナス君!! 何か人間が港に出てきたよっ!!」


 シオンさんが、海賊港のドックを指差して言う。


「海賊の構成メンバーだね」

「たぶんね。だけど様子がおっかしいなぁ?」

「なにか? シオンさん?」

「あれ、多分だけどさ。悪霊に魂喰われてゾンビになってるよ」

「……そんなことって。あるんだ……。宇宙怖いな……」


 とか言ってると。そのゾンビらしき海賊メンバーは、ゆるくさした動きでバズーカ砲やロケット砲を構えて。

 この船目掛けて、砲撃をぶっ放してきた!!


「イ、イデスちゃんっ!! あのゾンビ連中ッ!!」


 僕がイデスちゃんに状況を言おうとすると。

 イデスちゃんは、船の主装備ですさまじい勢いで増殖する宇宙悪霊を圧縮し、なんとか攻撃を防いでいる様子。


「すいません、手一杯です!!」


 ちょっと泣きそうな声でそう言うイデスちゃん!!

 いかん、こりゃピンチかも!!


 とか思ってると、シオンさんがすっと立つ。


「流石にねぇ……。いっつもおいしいご飯食べさせて貰ってるし、密航も咎めずに正式な船員にしてくれたユハナス船長には恩あるしさ」


 彼女はそう言うと、密航したときから持っている、デカい杖を振りかざして。


 何やら祈り始めた。

 すると、金色の光らしきものが、光学というよりは何か感覚的な感じに彼女の周りに集まって……。


「クリアランス・エーデルフィールド!!」


 という、彼女の発効ワードと共に、大きくはじけた!!

 すると、船外にもその光は大きく広がって、宇宙悪霊の澱んだ霊体を分解したかと思ったら、続々集まって来ていたゾンビ海賊に降りかかるとその肉体を分解してしまった。


「シオンさん……? 何をしたんですか?」


 僕が、その威力に大いに驚いていると……。


「惑星ニレディアの『浄化』術の高位の技。悪霊を神聖なる力で分解する力場を作り出すのよ、これは。ただし、これ使うとものすごくお腹がすくんだけどね」


 といって、Vサインを僕に見せた。


「さて、私もこの技使って凌ぐから。件のアームドアーマー青年が来るまで粘りましょうよ!!」


 と言ってくれるシオンさん。

 実はこの人、凄い人だったんだな……。

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