9.有能船員確保。そして、後腐れの排除

「レウペウさんと仰りましたね。もし、あなたがあの敵船にいる敵の頭目に。復讐されることを恐れるというのならば、僕はあの船をこのリジョリア・イデス号の装備で撃沈します。そして、あなたに今までよりも厚遇を与えることを確約します。僕の名はユハナス。カルハマス星系最大の貿易の名家、ユヴェンハザ家に連なるものです。家名を使うのは不本意ですが、信頼を得るために敢えて用いますよ」


 レウペウ・シャルシーダと名乗ったその青年に、僕はそう言葉を告げた。

 だけど、レウペウさんは一考にもしないように、首を横に振った。


「無理だな。俺はあの海賊団に人質を取られている。俺が裏切れば、とある小惑星にある、海賊の根拠地にいるあの子は殺される」

「……なるほど。人を使うにあたって、最も裏切れない手であり、また。最もその縛を払った際の復讐が大きい手を打っているんですね、あの敵海賊は」

「と、いうわけでな。俺は自害をする。妹の命が惜しいからな。俺を雇ってくれると言ってくれたことは、まあ少しは嬉しいぜ」


 そういって、パイロットスーツの腰からレイガンを抜いて。

 自分の頸に押し当てるレウペウさん。

 この人、何のためらいもなくその引き金を引くだろうと思った僕は、まあ次の言葉を繰り出した。


「レウペウさん。あなたが死ぬことで、奴らの人質になっている妹さんが救われると。本当にお思いですか?」

「……それか」

「そうです。本当に妹さんを救いたいのならば。あなたは僕らを利用して、あの海賊団を根拠地ごと粉砕する必要がある。僕はそう思います」

「できるのか? この船は商船だろう?」

「できます。理屈上は。今、この船に積んでいる主積載物の力を用いれば」


 僕が何を言っているのか。

 ツイントロン砲の威力でも、グラビトンミサイルの威力でも。

 一隻の船を破壊するのは容易いけれど、小惑星にあるという根拠地を破壊するほどの大きな力は持たない。


「ユハナス様。何を考えているんですか?」


 イデスちゃんが、流石に僕の考えている相当ヤバい事には想像が及ばないのだろう。キョトンとした顔で聞いてくる。


「イデスちゃん、いいアイデアがあるんだ。僕らはこのまま、この船の一隅に。見つからないように隠れよう」

「? 何を仰っているんです?」

「いいから」


 僕はそう言うと、レウペウさんの方を振り向いた。


「レウペウさん。僕らは、船内をレウペウさんに制圧され。脱出用小型宇宙艇で逃げ出したことにしてください。レウペウさんに、この船を引き渡してということで」

「……? 何を言っているのか。わからないぞ、船長ユハナス君?」

「とにかく、第一になるのが、あなたの妹さんの命です。何か危険があってはならない。僕はそれをなんとかできるアイデアを思いつきました。実行しましょう」


 僕は、シオンさんを呼んで。

 僕、イデスちゃん、シオンさん、レウペウさんの三名+一隻で会議。

 僕の作戦の概要を伝えた。


「これが成功した際には、レウペウさん。あなたは僕の船の船員になってくださいますね?」


 そして、こういう問いに。

 レウペウさんの快諾を受けて、作戦の実行に入った。


   * * *


「戻ったぞラージット頭目。あの敵船の連中は逃げ出した。中に入って確かめて来たから確かだ。曳航していくのだろう? 折角ほとんどの無傷で、俺が分捕ったんだから」


 マシンパルシーが解けたアームドアーマーを駆って。

 海賊団が乗る、ニュア・ザッド級船舶に、レウペウは帰還した。


「おほう! やるじゃねーか、レウペウ! 有難く貰っとくぜ。無論、積荷もそのままだろうな?」

「ああ。あの船の船員の奴らには逃げ出す暇しかなかった」

「うむ。そいつらを虐殺しなかった辺りが、お前もまだアメェが。まあ、成果は成果だ。よくやった。お前の妹にも、褒美をくれてやる」

「……くっ!!」


 頭目の口から、妹、という単語が出るたびに。

 レウペウは歯を軋ませた。だが。


「オメエなぁ? 何悔しがってんだ? 元はとある星の王族でもな、オメエらは既に追放された王子と王女だ。お兄ちゃん王子が海賊やって、妹王女が売春するくらいは。生きるために割り切らなくちゃならんだろうがよ? ああ?」


 という頭目の言葉に、彼は拳を握りつぶしそうなほどに握りこんだが。

 辛うじて頷くふりをしてのけた。そして、ラージット頭目に目を合わせないようにして口を開いた。


「頭目。褒美だ。俺に対する褒美は、金じゃなくていい。妹と一晩ゆっくり過ごす時間をくれ。久しぶりにいろいろと話したいんだ」


 そういうレウペウの言葉を聞くと、ラージット頭目は爆笑した。


「おいおい、惨めだな!! 元とは言え、星の王子様ともあろうものが。妹に会うために、この海賊の頭目の俺の許可を得ようとするなんてなぁ!! ゲブハハハハ!!」


 獰猛かつ野卑。ラージット頭目の声からは、そのような印象が振りまかれている。


   * * *


「さて、船が敵海賊の小惑星に着いたみたいだ。始めますよ、シオンさん」


 僕は。リジョリア・イデス号が海賊の根拠地に着くのを待って。行動を開始した。一緒に格納庫の一隅に隠れていたシオンさんに声をかけて手伝ってもらう。


「いーやー!! やるけどさぁ! やーだなぁ! くさいくさいー!! 悪霊粘土臭いようー!」


 シオンさんはブツブツ言いながらも、作業をしてくれてる。

 そう、シオンさんと僕が始めたのは、積荷の悪思念粘土のタイムシーリングの解除。

 思念粘土の形にするときに加えた、船の装備によるダメージで。

 ある意味怒り狂いながら粘土の形になった、宇宙悪霊の『解凍』を。


 始めたという訳なんだ。


 そう、これが僕が思いついた手。

 商船の武装の破壊力じゃ、小惑星一つの海賊港を潰すのは無理だけど。

 高濃度の悪思念粘土を解凍した、宇宙悪霊の力ならば。


 まあ、普通に邪魔な敵海賊を喰いつくしてくれると、そういう手なんだけどね。

 ちなみに。

 レウペウさんは、妹さんとの会見をして、その場から妹さんを連れ出してアームドアーマーに乗って僕らの船に再合流する手筈になっている。


 これで、有能船員確保。そして、後腐れの排除。


 それができるはずなんだ。

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