8.切り札切るよ、宇宙空間戦闘!!
「シールド!! 張りました!! しかし、敵アームドアーマーの猛攻撃、止みません!! シールドの長時間展開は、シールドエネルギー消費が激しいため推奨できません!!」
イデスちゃんが悲鳴混じりにそう言う!
「手は? 手はない⁈ イデスちゃん!!」
まったくもって。敵を見くびっていた。敵の船は旧式だし、一般に出回っている型式の船だったので舐めた僕がバカだった。
今僕らの船をおそっている、アームドアーマーのパイロットのような凄腕の人間を部下にしているなんて!!
「無いこともありませんが……。一回の戦闘で一回きりの切り札です! 使ってしまえば、再エネルギー充填の為の時間を取らねばならない、この船の特殊兵装です」
「グラビトンミサイルの事?」
「いえ、グラビトンミサイルは。いわば副兵装です」
「ってことは、特殊兵装って……?」
「ええ。マシンパルシーウェーブ発生装置です。機械を麻痺させる波動を放つ装置なのですが……。エネルギー消費が非常に重く、連続使用は不可能なのです……」
とか、僕とイデスちゃんが話していると!!
「うわーん!! 敵の攻撃でこの船のシールドが割れたじゃないっ!!」
全方位モニターを覗き込んでいたシオンさんが泣きわめく。
「終わりよ、私は終わりぃーっ!! まさか、ニレディアを出てこんなに早々と宇宙の藻屑になるなんてぇー!!」
「うるさいなぁーっ!!」
⁈ 突然、イデスちゃんが。頭に来たような声を上げた!
「ユハナス様!! 即決してください! マシンパルシーウェーブを使うか、短距離空間転移でとにかく逃げるか!! ダラダラしてると、あの腕の立つアームドアーマー乗りに私たちは沈められてしまいますよ!!」
お、おおう⁈ イデスちゃんが強烈な意志の光を浮かべて、僕の着ているパーカーコートの襟元を掴んで。
自分の目の高さまで僕の視線を引き下ろすと。
「決めて、ユハナス様!!」
僕の命令には何でも従うといった様子で、そう言った。
そうだな、ここで引いたら。
僕は自分の臆病さに今後悩むことになるし、スタートダッシュの勢いも死ぬ。
商取引というものは基本は勢いでなく基本固めで行うものだとは実家で学んでいるが、それとは別に。
商取引にも人生にも躍進の時というものはあって、その時は。
自ずと進むことをためらってはならない。
僕はそんな教育を受けてきたんだ。
「イデスちゃん、マシンパルシーウェーブ! 照射準備!!」
僕は決めた。
僕の人生で初めて戦うこの宇宙海賊を、自分の手で沈めてやる!!
「了解! カウントダウン5secの後に照射開始いたします!!」
イデスちゃんが即座に、リジョリア・イデスに命令伝達。僕の船、リジョリア・イデス号はマシンパルシーウェーブの照射準備に入り。
きっちり5秒後にそれを完了させた。
* * *
「⁈ なんだっ!! アームドアーマーが……? 動かんっ!!」
ユハナスたちの乗る、リジョリア・イデス号のマシンパルシーウェーブが無音で照射され。どうやらそれの直撃を食らうまで気が付かなかったらしい、海賊団所属のアームドアーマー乗り、レウペウ・シャルシーダは動転した声を上げた。
「電源は落ちてはいないが……。まるで機体が操作を受け付けない……!! まるで自分の身体が麻痺させられたかのようだ、これは……!!」
レウペウがそう言っている間にも。リジョリア・イデス号が機体麻痺を起こしたレウペウのアームドアーマーに近づいてきて、マニュピレーターを伸ばして、捕まえていく。
「く……!! なんだこの商船は……。ひょっとして、俺が食らったのはマシンパルシーウェーブか? そんなものの発生装置は、各星系軍の宇宙巡航艦以上の船にしか積むことはないというのに……!!」
彼は、ユハナスの船がある意味の『金に飽かした』仕様を持っていることを知らない。それが故に、軍事兵器を商船であるユハナスの船が積んでいることを訝った。
だが。訝ろうがどうであろうが、レウペウは既にユハナスの手中の物になってしまったのだった。
* * *
「……あなたが、このアームドアーマーのパイロットか……」
僕は、格納庫に閉じ込めたアームドアーマーのコックピットを開けると。そこに乗っていた、僕よりもおそらくは三歳ほど年上の、しなる鞭のような筋肉を持った長身で黒い髪の毛を短く刈り込んだ青年に声をかけた。
「……ふん。やってくれたな。お前はこの船の小間使いか? 少年」
あ。なるほど。15歳の僕は多分、この青年にこの船の見習い船員だとか思われたのかも。
「この船は。この船の持ち主は僕ですよ」
「……バカな事を言っている自覚はあるか? 少年。君のような子供がこんな立派な商船を自分で持てるほどに、世の中というものは甘くはないぞ」
「……何と言ったらいいのか。とにかく、まあ。この船のオーナー権限と船長権限は僕にあります」
「では。君を殺せばこの船は俺の物になると言う事か?」
何か。やつれたような視線で、僕をにらみつける黒髪の青年。
「そんなことをしなくても。僕はあなたに便宜を計らうつもりでいます」
「なんだと?」
「交換条件がありますが」
「何を言っている! 今さっきまで、君の敵だった俺に取り引きを持ちかけようというのか⁈」
まあ、警戒はするだろうなぁ……。でも、僕はある取り引きを彼に持ちかけた。
「僕のこの船は、リジョリア・イデス号と言うのですが。じつは、アームドアーマーを乗せるスペースは2機分あるのですが、そこはまだ空です。その上に、この船の船員は船長の僕と、船の衛生長のシオンさん。それに、ナビドールのイデスちゃんという2名+船自身しかいません。そこに、アームドアーマー乗りという人材を取り込みたいと思ったわけです。貴方のような腕のいい方を」
まあ、僕も自分の身体に商人の血が流れているのを感じたよ全く。
よくもすらすら、こんな文句が自分の口を突いて。
出るもんだってね。
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