第50話、千手神種

 ――眠視点――



「見てろ頬白。

 これがってやつだ」


 俺は奴に言うと、腰に差したナイフを抜いて跳んだ。

 数秒後には千手の眼前へと至る。


 こいつがあの仁王と同じタイプの神種なら、同じ場所に力核コアがある可能性が高い。

 同系統のモンスターは基本的にコアの位置や形が近い場合が多いのだ。

 デュラハンとキングデュラハンなどがその典型である。


 そう思った俺は、早速奴の顔面を斬り裂こうとした。

 コアが顔の中にあると予測し、露出させようとしたのだ。

 だが直前で奴の手が壁のようにそそり立って、顔への攻撃は防がれてしまう。


 わざわざ防御したということは、やはり顔の中にコアがありそうだな。


 俺がそんな風にコアの位置を推測していると、


「ウンムラ」


 目の前で千手が何か喋る。

 同時にそれまで穏やかだった千手の四つある顔が、一気に憤怒の形相へと変わった。

 肩や背中や脇腹から生える無数の巨大な手が、俺を叩き潰そうと迫ってくる。

 数は200余。

 押し寄せるそれらを躱しながら、俺は考える。


 千手が俺を叩き潰すまでにかかる時間は約1秒。

 俺が回避した事に気付くのに1秒。

 逃げた俺の行方を探し出すのに2秒。

 再度攻撃してくるまでに1秒。


 奴の攻撃には、毎回5秒程度の猶予がある。

 俺が奴の顔を蹴って距離を稼げば、追撃を受けるまでにもう1秒は稼げるだろう。

 合計6秒。

 これだけあれば、仮眠スキルを発動できる。


 そう判断した俺は、即座に仮眠スキルを発動した。

 敵の攻撃を掻い潜って、奴の顔面を蹴る。

 背後で隕石が連続で爆発したような音と衝撃が続いた。

 回避の際に千切れた上半身のジャージが無数の切れ端となって辺りに散る。


 ……。


 考えているうちに俺の意識が途絶える。

 そして俺は目を覚ました。

 眼前には迫りくる巨大な手の群れ。

 だが、先ほどよりも手のスピードが遅く感じる。

『パワーナップ』の効果で、俺の全ステータスが上がっているのだ。


 俺は腰に差しておいたナイフを抜くと、全方位から迫ってくる壁のような手を粉微塵に斬り裂いていった。

 ブシュウブシュウと肉が裂けて、紫色をした血の華が咲く。

 奴の血液はたちまち魔素の白煙へと変わって、俺の体へとまとわりつく。


 ピロリン。


 まだ倒してもいないのに、俺のレベルが上がった。

 敵の体を切っただけでレベルが上がったのは、初めての事だ。

 こいつを倒したら、どれだけレベルが上がるだろう。


「よっしゃああああああ!」


 俺は今目前で斬った手を蹴っ飛ばすと、ビルみたいな大きさをした奴の腕の一本に飛びついた。

 そして走りながら斬り刻んでいく。

 まるで紫色をした噴水の中を駆け回っているようだ。


 ピロリン。

 魔素の白煙を吸収し続けて、更にレベルが上がる。


 パワーナップの効果はあと6秒残っている。

 この6秒で奴の顔面を斬る。

 コアを探すのだ。


「ハアッ!」


 俺は、俺を圧し潰そうとして殺到する掌を斬り刻むと、垂直の崖のようになっている奴の体にナイフを突き立て、昇っていった。

 やがて肩まで昇ってくると、奴の顔面が視界に入る。

 その時。


「「「「シャン・カラ」」」」」


 奴の四つある顔の全てがパカッと開き、青黒い肌をした角を生やした女……鬼女っていうのか……が現れて、何事かを呟いた。

 その裸形の女の胸元には、青白く輝く宝珠がある。

 恐らくあれがコアだ。


 そう思った直後、俺の視界全てを覆い尽くすような、凄まじい量の光線が俺の体を襲った。

 恐らく以前に神種が放ったものと同じ、異なる属性の魔法スキルを使った対消滅光線だろう。

 だがその規模は以前の比ではない。

 直撃すれば、パワーナップを使った今の俺でも消し炭にされる。


 ――ならば。


 俺は手に持ったナイフを振りかざすと、俺目がけて発射された光線を刀身で受け、流すようにして後方へといなした。

 ブン、と一瞬凄まじい重量が手に掛かって、そのまま俺の後方へと抜けていく。

 光線は背後に聳えていた山脈の一部を消し飛ばし大爆発を起こした。

 すぐに爆発の衝撃波がやってきて、


「うわあああああああッ!?」


 まだ地面を這いつくばっていた頬白を落ち葉みたいに吹き飛ばした。

 俺も爆風に身を任せ、一旦千手から距離を取る。


 光線といっても所詮は魔素の塊。

 速度と密度が爆発的に高いというだけで、それ自体はダンジョン内に落ちている剣と変わらない。

 こちらも対応できるだけの素早さAGI器用さDEXがあれば、方向を逸らす事ぐらいはできる。


 加えて今の戦闘で、千手のコアの位置も分かった。

 次の戦闘で奴を倒す。

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