第48話、俺の最高効率レベリングⅥ
――眠視点――
俺が負傷した自衛隊員とセンターパートの探索者……名前は松本というらしい……を地上に送り届けてから戻ろうとした時、凄まじい轟音がダンジョン内に響き渡った。
俺が先ほどまで居た場所まで戻ると、そこには頬白と、以前俺が戦った仁王……半裸で腰布をまとったマッチョな男の姿をした奴……が蹲っている。
やがて仁王は全身をガクガクさせて、ズズンという震動と共に地面に横たわった。
物凄い白煙が発生し、それは上空へと向かうことなく全て頬白の右腕に吸収される。
俺が頬白の前までやってくると、奴は笑っていた。
嬉しくてしょうがないという顔だった。
スマホを片手に自分のレベルを確認している。
「ははは!
たった今僕は神種のレベルを吸った!
お陰で今の僕のレベルは『3298』!
お前を300近くも上回っている!!
僕の勝ちだ!!」
頬白が、スマホを片手に嬉しそうに語り出した。
奴が言っていることがウソではないことは、その体から発せられている魔素の量からも把握できる。
さっき俺が奴を圧倒していた時のレベル差が約100。
その3倍、300もの差がついたのだから、奴が喜ぶのも当然と言える。
ただ、俺が奴に勝っていたのはレベル差だけが理由じゃない。
「さあどうする?
命乞いをするなら今の内だぞ?
もっともお前は殺すけどな。
レベルを吸い取って、僕の糧にしてやる」
「フフ」
奴の言葉に、俺はついほくそ笑んでしまった。
「どうした。
恐怖の余り頭がおかしくなったか?」
「いいや。
再び格上になったお前に挑戦できることを喜んでいるんだ」
頬白の問いに、俺は端的に答える。
「なに……ッ!?」
頬白は驚いている。
『どうして僕を恐れない?』
そんな顔だ。
こいつには分からないのだろうな。
俺の胸を突き上げてくる、この熱い気持ちが。
『こうでなければ、面白くない』
「フッ……!
どうやらヤケを起こしたようですね?
まあそれも仕方がありません。
絶体絶命のこの状況ですからね。
しかし、簡単には殺しません。
この僕に屈辱を与えた罰を与えるのが先です。
ジワジワと嬲り殺しにして差し上げますよ!!」
言って、頬白が突っ込んできた。
両手を顔の高さぐらいに上げた、いわゆるボクシングスタイルで真正面から攻めてくる。
おそらく格闘技も齧っているのだろう。
中々様になっている。
確かに頬白のスピードは速い。
レベル差が300もつけば、目で追うのがやっとだ。
だがそれでも奴の動きは視えている。
『右のレベルイーターと見せかけて、左のストレートパンチ』。
俺がそう予測すると、
「シッ!」
果たして俺の思った通りに攻撃が来た。
俺は僅かに上体を動かして頬白の左ストレートを躱すと、奴の頬をこそげ落とすようにカウンターパンチを見舞う。
パンッという小気味のいい音がして奴の顔がひしゃげる。
そのまま奴の膝がガクリと下がった。
軽く脳を揺らしてやったのが効いたらしい。
俺は落ちた奴の顔面目がけて右の膝をぶち込む。
「ぶげえッ!?」
手応えあり。
俺の膝蹴りをまともに喰らった奴の体は、回転しながら後ろに吹っ飛んでいった。
着地後すぐに奴は立ち上がったが、その場から動かない。
「なぜだ!?
なぜ僕は勝てない!?
奴にレベルで上回ったはずだ!!
ステータスは僕の方が高いんだ!!」
頬白が、俺に打たれた頬を押さえて叫んでいる。
これから自分の快進撃が始まると思ったのに、当てが外れたのだろう。
どうやら奴はまだ誤解しているらしい。
さっき俺が奴を圧倒していたのは、レベル差もあるが、それよりも奴と俺との戦闘経験の差によるところが大きかった。
俺は今までに100万体近くのモンスターを狩ってきた。
その半分は人型。
頬白の視線や呼吸のタイミング、体の動きを見ていれば、次の行動は予測できる。
それだけじゃない。
精神面でも俺と頬白は大きく違う。
俺は挫折を経験して強くなった。
一度全てを失い、そこから這い上がったお陰で、また全てを失っても再び這い上がれる自信を手に入れたんだ。
だけど頬白は恐らく挫折を経験していない。
これまでずっと格下を相手に右腕一本で戦いを終わらせてきたから。
そんな俺と頬白のレベリングの違いが、そのまま強さの違いになっている。
「……ッ!?」
俺は動揺している頬白の目の前に踏み込むと、奴の顔面を軽く殴った。
慌てて反撃してくる奴の拳を躱し、腹に強烈な右フックを決める。
この時点で仮眠スキルを発動。
右フックの一撃によって奴のアゴが下がったところを膝で蹴り上げ、空中に持ち上がった奴の足を掴んで前方へと放り投げてやった。
俺の意識が遠のく。
頬白は今、ハッキリ動揺している。
俺の攻撃に反応できていない。
今なら3秒稼げるだろう。
仮眠スキルを使い、これまでの戦いで消耗したスタミナを全回復させると同時に『パワーナップ』を発動して一気に畳みかける。
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