第47話、俺の最高効率レベリングⅤ

 ――頬白視点――



 僕は奴の前で土下座した。

 そうするしかなかった。

 奴は強い。

 異次元の強さだ。

 しかも単に強いだけじゃない。

 頭もいい。

 万が一を考えて僕が準備してきた対抗策が全て効かなかった。

 あり得ないことだ。

 お陰で僕は跪いて土下座までしなければならなかった。

 なんてブザマなんだ……!


 だが構わない。

 これも勝つための布石。

 勝った後で、恐怖でぐちゃぐちゃになった奴の顔を見られると思えば、この程度の屈辱なんてことはない。

 体を鍛えるための筋トレと同じだ。

 だから今は耐えろ。

 そして、なんとかこいつを出し抜く手段を見つけるんだ……!


 僕はそう思いながら奴を見上げた。

 わざと怯え切った顔をする。

 そんな僕の視線の先にあるのは、さっき僕がレベルを吸い取り損ねた松本とかいう男。

 奴は足を怪我している。


 そうだ!

 奴を人質にすれば……!


「申し訳御座いませんでした……!

 深く反省しています……ッ!」


 奴が僕の目の前にしゃがみ込んだ。

 今だ!


 考えながら僕は、両手で地面を突いた。

 そのまま奴に向かって体当たりをかます。

 相手の足を掴んで引きずり倒す、ラグビータックルの要領だ。


「ん」


 奴が倒れる。

 僕はタックルした勢いのまま、前のめりに走り出した。


 よし!

 完全に出し抜いた!!!

 あの松本を人質にして、この苦境を突破するッ!!


 僕がその場から動けずに居る松本に手を伸ばそうとした時、


「その程度のこと、俺が考えないと思ったか」


 後1メートルという所で、背後から声が聞こえた。

 急に体がピタッと止まる。

 右肩を掴まれたのだ。

 動けない。


 バカな!?

 完全に出し抜いたのに!?


 思っている内に、僕の体はブンと空中に放り出される。


「ぶげえっ」


 僕は数十メートル吹っ飛んで地面を転がった。

 起き上がると、奴がやれやれといった顔で僕の方に歩いてくるのが見える。


 や、奴めええええ!

 猿知恵が利きやがるううううう!!

 くそ!

 奴を殺せる手段は何かないのか!!

 例えばレベルを上げる手段とか!!


 僕がそう思っていると、


「頬白さん!

 大丈夫ですか!?」


 背後からまた別の声が聞こえた。

 隊服に第二種と呼ばれる高ランク装備を身に付けた自衛官達が僕を取り囲む。


 彼らの顔は知っていた。

 僕が人脈形成のために、お金の工面や飲み会などで普段から世話してやってる若手の自衛官たち。


「傷が深いぞ!」


「あの黒ジャージがやったんだ!」


「もう大丈夫です!

 頬白さんは下がってください!」


 なんだこいつら?

 何か誤解している感じだぞ。

 ひょっとして僕を助けに来たのか?

 僕があの黒ジャージの少年に襲われていると誤解して。

 ……。

 そうだ!


「おい、そいつに近づくな!」


 黒ジャージの少年が叫んだ。

 だが遅い。

 既に僕は動き出している。

 そして、隊員たちの中で最もレベルが高そうな男に右手を伸ばした。


「よく来たキミたち!!」


 言いながら、レベルイーターを発動する。

 僕からレベルを吸われている隊員が白目をむき、膝をガクガクさせながらぶっ倒れた。


 ピロリン。

 レベルが上がる。


「ははははは!!!

 美味いッ!

 美味しいッ!!!」


「つ、頬白さん!?」


「どういう事なんです!?」


「うるさいッ!」


 自衛隊員たちは全員何が起きているのか分からないといった顔だった。

 そのうち1人の隊員の横っ面を張り飛ばす。

 更に僕は1人目のレベルを吸い尽くすと、そいつの腹に爪を立てて隊服ごと引き裂いた。

 同時に黒ジャージの少年がやってくるが、遅い。


「おっと!

 それ以上近づくな!

 こいつを殺すぞお!!」


 僕は腹を引き裂いた自衛隊員を盾にして、奴の方を向いた。

 奴は無表情だった。

 汗一つ流していない。


「更に罪を重ねるのか?」


 真顔で僕に尋ねてくる。

 僕より一回り若いくせに、なんて生意気なガキだ!


「罪だと?

 罪かどうかはこの僕が決めるッ!」


 言いながら、僕は人質にしていた隊員をダンジョンフロアの奥の方に放り投げた。

 恐らくモンスターが居そうな辺り。

 案の定、黒ジャージの少年が僕がブン投げた隊員を助けに行く。


 そう。

 助けざるを得ない。

 さっさと僕を殺せばいいのに、人が一人死ぬ事の方を優先してしまう。

 そこが甘ちゃんの奴と現実的な僕との決定的な差なのだ。

 だから奴は僕に勝てない。

 レベルが高くてもザコなのだ!


 奴が一人目を抱えながらこっちに向かってくる前に、更に僕はもう一人のレベルを吸った。

 そいつの腹も引き裂き、今度は反対方向へと投げる。

 奴は僕の方へは来ず、投げられた隊員の方へと向かって走る。


 この作戦は、良いぞ。

 しかも奴にはエリクサーのような全回復させる手段がない。

 だから負傷者を増やせば増やすほど自由に動けなくなる。

 そうしている内に全員のレベルを吸おう。

 奴は分かっていても助ける事しかできない。


「頬白さん!?」

「いったいなにを……ッ!?」

「気でも狂ったんですか!?」


 隊員たちは狼狽え、叫んでいる。

 分隊の半数ほどが、僕を制圧すべきと判断して動き出していたがCランク程度には何もできない。


 後はその繰り返し。

 あっという間に12人。

 レベルがドンドンドンンッッと上がる。

 美味しい美味しい美味しい美味しいッ!!


「あはははははは人徳人徳人徳人徳ううううううッ!!!!!」


 笑いが止まらなかった。

 人徳レベルアップ気持ちいいいいいいいッ!!!!


 僕は高笑いしながら最後の1人を放り投げると、スマホを取り出しレベルを確認した。

 今のレベルは『2967』。

 12人分のレベル(正確には体内に沈着した魔素)を吸って、ここまでレベルが上がったが、あの黒ジャージの少年を倒すにはまだ足りない。

 スタミナも減ってきている。


 よし。

 ここは一旦ダンジョン内に隠れて、様子を見て外に出よう。

 そしてそのまま日本を脱出するのだ。

 奴への復讐は後日。

 なぜなら自衛官を襲ってしまった以上、僕の立場が危うい。

 目撃者も多数居るし、今回ばかりは誤魔化し切れないだろう。

 ならば僕と縁の深い連中……例えばここのダンジョンを管理している基地司令……のこれまでの悪事を匿名で密告する。

 そうすれば、公安や探索者協会やAランクの連中はそいつらの逮捕に走らざるを得ない。

 その間に逃げる。

 恐らく数日中には国際指名手配をされるだろうが、そんなものはなんとでもなる。

 世界には強い探索者の力を借りたい国家や反社会勢力が幾らでも居る。

 そいつらの元で再起すればいい。

 そして強くなって日本に戻り、黒ジャージはもちろん調子に乗ってるAランクの獅子神アキラや夏目をも殺して僕が天下を取る!


 そう思い僕がダンジョンの奥に向かって走っていくと、


「なんだ!?」


 突然ズゴゴゴという地響きがし出した。


 かと思うと僕が走る先、一面の花畑だった場所が山のように盛り上がって、地中から腰布を纏った巨人が現れる。

 以前このダンジョンで戦った『神種』だ。


 な、なんでこいつがこんな浅いフロアに!?


 確かに、浅い階層でも強力なモンスターが出ることがある。

 確率としては1日辺りのモンスター出現数で計算して、およそ100万分の1程度。

 滅多に起こらないが、あり得ないという程でもない。

 加えてこのフロアには先ほどの僕と黒ジャージの戦いで大量の魔素が漂っている。

 その事で発生確率が幾らか上がったのだろう。

 だから出現したのだ。


 だが出現した理由なんて、どうでもいい。

 前回あの神種が黒ジャージに倒された事を鑑みれば、今の僕は100パーセント神種のレベルを上回っている。

 加えて神種モンスターは強力だ。

 さっき吸った自衛官たちなど比べ物にもならない。

 もし今の僕が奴のレベルを吸ったとしたら、僕は1万パーセントあの黒ジャージに勝てるだろう。


 フフ……!

 どうやら僕は人徳に続き、幸運の女神にまで愛されてしまったようだ!

 確かに奴の言う通り、僕はなんて罪深い存在なんだろう!!

 ははははは!!!


 内心で歓喜の声を上げながら、僕は神種に向かって走っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る