第43話、俺の最高効率レベリングⅠ
眠が西麻布と共に学校を後にしてから1週間後。
京都、北区。西大路通沿い。
かつて賑わっていた通りに人の姿は少ない。
代わりに立っているのは、銃器を持った自衛隊員ばかり。
付近の商店は全てシャッターが降ろされ、止まっている車も全て装甲車を初めとする自衛隊関連の車だった。
物々しい雰囲気の通りを2人の探索者が歩いていく。
1人はゆるいパーマを掛けた黒髪をセンターパートにしている青年。
軍服を思わせるダブルブレストの戦闘用コートを纏い、腰には短剣を2本差している。
彼は国内探索者ランキング14位の『
そして、その隣を歩くのは高級ブランドが手がける戦闘用チェスターフィールドコートに細身のデニムを合わせた白髪糸目の男。
現在国内ランキング5位に急上昇中のBランク探索者『
彼らは金閣寺境内で見つかったBランクダンジョン『
目的は松本のレベル上げのためである。
やがて金閣寺の黒門が見えてくると、松本がブルルッと身を震わす。
これから潜るのは国内最難関のBランクダンジョン。
しかもたった2人きり。
こんな少ない人数で潜った事はない。
それ故彼は緊張していたのだ。
彼は歩きながらスマホを取り出すと、ホーム画面をちらり見た。
画面に設定されているのは、愛犬と共に映る松本と、その周りを囲うように集合した彼の家族、そして友人知人たちの写真。
その写真の中央には『がんばれ、蓮』と一言書かれている。
それを見て、松本はフッと微笑む。
「応援してくれてるんだ」
すると、頬白が言う。
松本がビックリして振り向くと、いつの間にか頬白が後ろに立っている。
「ああ、ごめん。
あんまり見つめているものだから、つい。
その写真はご家族かな?」
「いえ……父さん母さんもだけど、地元の皆も一緒に応援してくれてるんです。
俺の地元は元々観光地だったんですけど、ダンジョンバーストのせいで酷い事になって……今復興で頑張ってるんですけど、厳しいんです。
モンスターが現れた町を観光しようなんて人は、中々いませんから」
言って、辺りを見渡す。
金閣寺の周囲にはバリケードが幾つも張られていた。
それを見て松本は溜息を吐く。
「だから俺、もっと活躍したくって。
俺が有名になれば地元も有名になるし、そしたらダンジョンバーストで困っている現状も、より多くの人に知ってもらえるって、そう思ったんです。
それでずっと頑張ってきたんですけど、最近限界感じてて。
だから俺、今回のコンサルめっちゃ有難かったんです。
色んな人から依頼あっただろうに、俺なんか選んでくれてありがとうございます」
松本は、頬白に頭を下げた。
頬白はそんな彼に微笑みかけて言う。
「そうなんだ。
じゃ、地元の人たちのためにも頑張らないとね」
「はい。
俺の活躍に、皆の将来もかかってますから。
それなのに皆、俺には何にもお願いしてこなくって。
辛かったらいつでも帰って来いよって、それだけで……!」
そう言うと、松本は目に溜まった涙をコートの袖で拭った。
(だから俺は……!
みんなのために頑張りたい……!)
そう思って、松本は顔を上げる。
「……頬白さん。
俺、ちゃんとレベル上げできますかね?
正直不安で……」
「キミなら大丈夫。
さ、ダンジョンに行こう。
手続きは全て済ませてあるから」
頬白は糸目の端を少し歪めて、ニヤリとほくそ笑むと言った。
松本は安心した様子で、涙に沈んでいた顔を綻ばせる。
2人は黒門を潜り、金閣寺境内へと入っていった。
◆
30分後。
松本と頬白は『
松本たちの目の前に広がっているのは、見渡す限り一面魔鉱石でできた蓮の花畑。
赤・青・黄・緑・ピンク・金・銀。
色とりどりの花が、湖の中から頭を出して咲いている。
「うわ……!
すごい……!!
これだけ魔鉱石があったら、地元復興できるかも……!
ああ、でも国のものなんだっけ……!」
興奮した松本が辺りを歩き回っている。
「ところで、レベル上げってどうするんです?
特殊なやり方があるんですか?」
「うん。
とてもいい方法があるんだ。
僕に任せてくれ」
松本の問いに対して、頬白はニコニコして答えた。
その笑みに、松本はどことなく不穏な感じを受ける。
頬白はそんな松本の後ろに回り込むと、おもむろに右の手を彼の肩に置いた。
「!?」
直後、松本の体に電流が走る。
同時に肩や胸元や首筋からプシューと白煙が昇り出した。
凄まじい痛みと脱力感に、松本は一瞬我を忘れかける。
だが直前に不穏な感じを受けていた松本は、咄嗟に腕を払うことができた。
残った力を振り絞り、殆ど前のめりに倒れ込むような形で頬白から距離を取る。
振り向くと、頬白が自分の右掌を見つめていた。
その掌の中に白煙が収まっていく。
「ふむ。
流石は国内ランキング14位。
僕のスキルを受けながらも動けるとは。
お陰で半分ほどしか吸い取れなかったよ」
「今……何をしたんですか!?」
松本が肩を押さえながら尋ねる。
明らかに体の調子がおかしい。
全身に力が入らないだけではなく、ズキンズキンという頭痛もする。
『まるでレベルが一気に下がったような』
松本は思う。
そして、目の前に立つ男を見た。
男の糸目が僅かに開き、狐のような眼差しで松本を見返す。
「言っただろう。
僕のスキルを使ったって」
頬白が目の高さに右手を上げてみせる。
それとほぼ同時に、松本のスマホから『レベルが減少しました』というステータスアプリの警告がなされ始めた。
警告は一向に止まらない。
一方頬白のスマホからはレベルアップの音が連続で鳴り続けている。
「まさか……!
俺に『レベルイーター』を使ったんですか……!?」
松本の質問に、さも当たり前という顔で頬白が頷く。
「フフ……。
話を聞いていて、とても愉快だったよ。
通りで復興がうまくいかないわけだ。
こんなバカに未来託しているんだから」
「クソッ!」
松本が咄嗟にスマホを取り出す。
同じBランクの探索者仲間に連絡しようとしたのだ。
だが頬白はその動きを予測していた。
彼が電話を掛ける前にスマホを持った腕を蹴り上げる。
「ぐあッ!?」
松本のスマホが宙を舞い、2人の足元に落ちた。
頬白は間髪入れずスマホを踏み潰す。
頬白に踏み潰される寸前。
画面にはホーム画面が映っていた。
それを目にした松本が、悔しそうに歯を食いしばる。
「……どうしてこんな事を……ッ!?」
「答える義務はない。
だが、同じ探索者のよしみだ。
特別に教えてあげよう。
理由は2つ。
1つはAランク昇格試験を受ける前に、もう一度高ランクの探索者から魔素を吸っておきたかったから。
高ランクの探索者なら、1人吸うだけで数百はレベルが上がる。
そうすればより試験の合格が確実になるからね。
そして、もう1つは私怨」
「私怨……?」
「そう。
僕はね、キミのような将来有望な若者が大嫌いなんだ。
特にこの僕を追い抜こうとするような奴はね。
だから、まだ花が咲き切らない内に狩っておくのさ。
こんな風に」
そう言うと頬白がまた足を上げて、思い切り松本の右足を踏みつけた。
ボギリという鈍い音がして、辺り一面に血飛沫が飛び散る。
「ぐあああああ!?」
余りの痛みに松本が叫んだ。
彼の右足は、下にあった魔鉱石の地面ごと押しつぶされてしまっていた。
その足がまだ原型を留めているのは、松本のレベルが残っているからだ。
「ははは。
キミは僕の糧となるんだ。
レベルも、命も。
喜びなさい。
今日まで生きてきたことを。
そしてこの日本で4人目となるAランク探索者であるこの僕の礎となれることを」
言いながら、頬白が右手を伸ばしてくる。
(こんな奴に騙されちまって……ッ!
ごめん皆……ッ!
俺……ッ!
もう皆に会えない……ッ!)
松本がそう思い目を瞑った、次の瞬間だった。
「!?」
突然ズドンという衝撃が、松本の体を揺らした。
そのまま彼の体が落下する。
何が起こったのか分からない。
不思議に思った松本が目を開けると、彼の体は直径が24メートル、深さ3メートルほどのクレーターの中で土砂に埋もれていた。
そのクレーターの中心部に何か刺さっている。
それは一本のナイフであった。
どうやらこのナイフが飛んできた結果、このクレーターができたらしい。
このダンジョンの地面は、爆弾でも砕けない硬さの魔鉱石でできている。
もしもそれを何人かが投げたのだとすれば、凄まじい
「……!?」
松本がクレーターの縁を見上げると、そこに頬白聖が立っている。
彼の顔面は蒼白だった。
普段は閉ざされている糸目もしっかり開けている。
そんな彼が右手に嵌めていた手袋は裂けていた。
どうやらこのクレーターを作ったナイフは、頬白の右手を狙って投げられたものらしい。
頬白はそれを間一髪で躱したようだった。
やがて、松本の前に1人の人物が降り立った。
その人物を見て、頬白が叫ぶ。
「なぜ奴が生きている……ッ!?」
そこに居たのは学校指定の黒いジャージに身を包んだ男。
眠士郎だった。
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