第44話、俺の最高効率レベリングⅡ

 頬白聖は驚いていた。

 彼を驚かせたのは2つの事実である。

 1つは、殺したはずの眠が生きていたという事。

 そしてもう1つは、彼が地面に投げつけたナイフによって、魔鉱石でできた地面が丸ごと吹き飛んでいる事だ。

 まるで小型の隕石が落下したような威力である。

 明らかにレベル1の探索者ができる事ではない。

 そもそもBランクダンジョンに入ることすらできないのだ。

 そんな人間がなぜかこの場所に居る。


「なぜ奴が生きている……ッ!?」


 頬白は、呟かずにはいられなかった。


 一方の眠は自らが作ったクレーターの中ごろにしゃがみ込んでいる。

 瀕死の松本の足にジャージを切って巻き付け、止血を施しているのだ。

 傷ついた経験が何度もある眠にとって、それは手慣れた行為である。


「うっ……!?」


 足を直接に圧迫される痛みで、松本が呻いた。


「大丈夫。

 後でハイレベルの『回復術士ヒーラー』にお願いすれば、また元通りになる」


 そんな松本を、眠が元気づけるように言った。


「あ、ありがとう……君は……?」


 松本が尋ねる。


 今年24歳の彼にとって、高校生の眠は一回り幼く見える。

 だがその立ち振る舞いや堂々とした言動はAランク探索者のそれだ。

 この少年はいったい何者なんだろう。


 彼がそう思っていると、


「シッ!」


 頬白がクレーターの縁を蹴って、2人に襲い掛かった。

 眠は咄嗟にナイフを拾い、松本も抱えて空中へと跳び上がる。

 直後にズドンという衝撃が、空中にも関わらず松本の体を揺らした。

 見下ろせば、先ほどまで自分たちが居た場所に同じ規模のクレーターが重なるように作られている。


 やがて眠が着地すると、頬白もクレーターから跳び出した。

 両者は約5メートルほど離れて対峙する。


「どうやって生き残ったんです?

 確実に殺したはずですが」


「さあな。

 確実には殺してなかったんじゃないか」


 ぶっきらぼうに眠が答える。


「ふむ……。

 次からは心臓を止めると致しましょう。

 それはともかくとして、頭の悪さは相変わらずのようですね。

 拾った命をまた捨てにくるとは」


 そう言うが速いか、2人の前から頬白の姿が消えた。

 一瞬後には眠の背後に現れる。


「どうです?

 僕の動きが見えないでしょう。

 今の僕は国内ランキング6位。

 レベルは2900を超えているのですから。

 早速レベルを吸ってあげます」


 言って、頬白が右手で眠の肩を掴んだ。

 そして『レベルイーター』を発動しようとする。

 だが次の瞬間。

 頬白の糸目がクワッと見開かれる。


……!?

 ばかな!?

 なぜ発動しない!?」


 頬白は驚愕していた。

 なぜなら、『レベルイーター』が発動しない理由はたった一つしかないからだ。


「簡単なことだ。

 お前のそのスキルは、相手のレベルは吸えない」


 そう言うと、眠は背後に立つ頬白に向かってスマホ画面を見せた。

 画面には眠のステータスが表示されている。




 ──────────────────



[レベル]   3000




[スタミナ値] 3050/3050

       (現在値/最大値)



[称号]    モンスター・アニヒレーター(殲滅者)




[HP]     3050/3050(ー0)

        (現在値/最大値)

        ※マイナスはスタミナ値による補正


 ◆

 ──────────────────


 STR(筋力)          6022(+3011)

 DEX(器用さ)         3312(+301)

 AGI(素早さ)          6020(+3011)

 VIT(耐久性)         2709(ー301)

 INT(知能)           4221(+1106)

 CHA(魅力)         2709(ー300)


 ステータス振り分けポイント  0



 ◆

 ──────────────────



 眠のステータス画面を見させられた頬白は、「!?」その場で腰を抜かしてしまう。


「ばッ……!

 ばばばば、バカな……ッ!?

 あれからまだ1か月も経っていないんだぞ!?

 こんなにレベルが上がるはずがない!!

 何かの間違いだ!!」


 頬白が顔面を蒼白にして訴える。

 そんな頬白に向かって眠は、


「これが俺の最高効率レベリングだ」


 淡々とした口調で言い放った。

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