第41話、レベリング再開Ⅴ

 俺はデュラハンの剣の軌道をしっかりと確認し、その進行方向……俺の眉間中央から左に5センチ……に沿ってナイフの腹を当て、前方へと押した。

 同時に左後方へと下がる。


 ギギィンッ!!


 すると硬い金属同士がぶつかり合う音がして、目の前で火花が散った。

 デュラハンの剣先が地面に刺さる。

 奴はそこから二の太刀を繰り出そうとするが、そうはさせない。

 俺は振り下ろした奴の剣の腹を蹴り、二の太刀を防ぐと同時にナイフで奴の鎧の関節部分を叩くようにして斬った。

 再びギィンという鈍い音が響く。

 俺は更に追撃を繰り出そうとしたが、一瞬早くデュラハンが退く。


 もう一体のデュラハンはその場から動いていない。

 引き従えたブラッドドッグが今にも飛び掛かりそうにしているのを大剣の先で押しとどめていた。


 今の俺の動きを見て警戒したのだろう。

 次は3匹同時に来る。

 まったく息つく暇もない。

 いや、あるか。

 俺の呼吸は全く乱れていない。


 俺の前方からデュラハンとブラッドドッグが1匹ずつ。

 今戦ってた奴は俺の後方に回り込もうとしている。

 俺を挟む形だ。


 この場合、こいつらが取る行動パターンは3つ。

 そのどれかによって俺の動きも変わるが、俺の予想ではまず1匹の方のデュラハンが先に仕掛けて来るだろう。

 だいたい7割ぐらいの確率でジャンプ斬りしてくる。

 ジャンプ斬りを選ぶ理由は、最大威力の攻撃で俺の注意を本命の攻撃から逸らすため。


 そもそもこいつらが狙っているのは長期戦。

 その前段階として、俺に『呪い攻撃』を当てようと企んでいる。


 何故ならそうするように俺が仕向けたからだ。

 そのために俺がやった事は簡単だ。

 まずさっきの立ち合いでデュラハンたちに俺を強敵だと認識させた。

 立ち合いもそうだが、息を荒げなかったのも一つの演出になっている。

 ブラッドドッグと違って臆病ではないこいつらは、多少の被害が出たとしても必ず俺を仕留めようとする。

 こいつらは魔素に飢えているから、手ごわい探索者、即ち魔素の高い人間を食いたくて仕方がない。


 そしてデュラハンが強敵相手に取る勝ちパターンはいつも一緒。

『長期戦に持ち込む』ことだ。

 しかも執拗に『呪い攻撃』を当てようとしてくる。

 実際、大半の探索者が呪いを受けたことをきっかけにやられている。

 なぜならめちゃくちゃ焦るからだ。

 体がグッグッと疲労してくるし、ステータスアプリも警告しまくってくる。

 ただでさえ消耗の激しいダンジョン内で焦ることは死に直結する。


 だが。

 俺が狙っているチャンスはその『呪い攻撃』をしてきた瞬間にこそあった。

 その攻撃をするためには、ガイコツを相手の方に差し向ける必要がある。

 そのガイコツの目の中には、デュラハンの弱点である力核コアがあった。

 パワーナップを使った俺の筋力STRなら充分砕ける。


 やがて1匹の方のデュラハンが空中高く飛び上がった。

 重力を利用してのジャンプ斬り。


 予測していた俺は、横に跳んで避ける。

 すると間髪入れずブラッドドッグが俺の方に走り寄ってきた。

 もう1体のデュラハンも剣を振り上げて突っ込んでくる。


 それをしっかり目視してから俺は、仮眠スキルを発動した。

 3秒後に俺は眠る。

 デュラハンの力核コアを砕くには、パワーナップが必要。

 その時間を稼ぐために、もう一度俺は跳ぶ。

 今度は沼地に向かって。

 思い切りジャンプをすると、大体5メートル近く跳べた。

 沼地に向かって飛んだのは、相手の足を遅くするため。


 そう思っている内に俺の意識が途切れる。


 3秒後、俺の体はまだ空中にあった。

 頭から沼地に突っ込むコースだ。

 先回りしたブラッドドッグが、着地点で牙を剥いている。

 背後からは、俺を追ってジャンプしたデュラハンが1体迫って来ていた。

 もう1体は沼地を走っている。

 3体同時に俺を攻撃するのだろう。


 次の瞬間、俺は右手のナイフでデュラハンの剣を逸らし、同時にブラッドドッグの牙を左手で殴って押さえた。

 直後に追いついたもう1体のデュラハンが右斜め下から斬り払いしてくる。

 完全にガードの空き切った俺の脇腹を薙ぐつもりだ。

 俺は咄嗟に右ひざと右ひじを打ち合わせる事で、白刃取りの要領で大剣をガチリと止める。


「「「!?」」」


 デュラハンが驚いたのがその息遣いで分かった。

 足元でブラッドドッグも驚愕している。


 俺はもちろん動きを止めない。

 敵も遅れて動き始める。

 俺の両サイドに居るデュラハンが、二の太刀、三の太刀を繰り出してきた。

 だが一歩早く動き出していた俺は、ナイフの背に手を当てて敵の剣を受け流し、躱す、躱す。

 足元に迫るブラッドドッグを踏みつけ、蹴り上げると腹の力核コアを一突きにした。

 そのままブラッドドッグの死体を突き上げ、魔素の煙に戻る前にデュラハンの剣を受け止める。

 目の前で、モンスターとしての機能を失ったブラッドドッグの体が魔素の白煙へと戻っていく。

 同時にピロリンという音。

 俺のレベルが上がったのだ。


 直後。

 白煙の向こうからガイコツが現れる。

 それは、デュラハンが片手に持つ自身の首。

 白煙を煙幕に利用して、俺に呪い攻撃を仕掛けてきたのだ。


『『まんまと引っかかった』』


 俺とデュラハンが、恐らく同時にそう思った。

 一瞬ガイコツの目がチカチカと光り、『呪い』効果が発動する。


 初めてデュラハンと戦った時は、俺はこの『呪い』効果に悩まされた。

 10秒ごとに最大HPの3パーセントが減っていく。

 刻々と死が近づくその恐怖に怯えていたからだ。

 だが、今は違う。

『呪い』効果は使用者を倒せば消えるし、そのデュラハンの倒し方も知っている。

 その倒し方とはズバリ、このガイコツを叩き壊す事。


 俺はガイコツから目を離さず、そのまま突進してガイコツの赤い目……デュラハン

 の『力核コア』……を真っ二つに斬る。


 忽ち、デュラハンの体から白煙が昇り始めた。

 同時にもう1体とは間合いを取る。

 残った1体は呆然と立ち尽くしている。

 どうやら俺が力核コアを壊せるとは思っていなかったらしい。

 追撃することも忘れているようだ。

 さっき鎧をナイフで叩くように攻撃したのがうまく嵌まっている。

 あれはワザと攻撃した。

 俺の筋力が、自分たちの力核を壊すのに足りないと思わせるために。


「呪い効果が発動しました」


 数秒遅れてスマホアプリから警告が入る。


「呪い効果が回復しました」


 その直後、呪いが解除されたという報告が入った。

 同時にピロリンというレベルアップの音。


 あまり戦闘がスピーディだと、スマホが喧しい。


 考えながら、俺は残った1体のデュラハンを見た。


 今朝『1』だったレベルを、今日中に『100』まで上げる。

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