第40話、レベリング再開Ⅳ

 こいつに噛みつかれると一時的に体がマヒする。

 そして、マヒしている間に更に噛みつかれる。

 以降はエンドレス。

 死ぬまで噛みつかれる。

 年間で何人も死傷者を出している凶悪なモンスターだった。

 鉄でできた盾を煎餅みたいにボリボリ噛み砕けるのだ。

 普通に考えれば、ゴブリンを相手にしているFランク探索者が勝てる相手ではない。


 ただしこいつには決定的な弱点がある。

 それは耐久性VITが低いことだ。

 今の俺の筋力STRでもギリギリこいつは倒せる。


 俺は『ゴブリンのミード酒』が入った革袋を頭上に放り投げると、ナイフで真っ二つに斬った。

 中身が俺の体に降りかかる。


 途端にミード酒を浴びた頭や肩や背中がカッと熱くなって、それが両足にも起こる。

 AGIが一時的に2アップしたのだ。

 この時点で俺のAGIは『16』。

 敵の半分以下だが、行動パターンさえ分かっていれば充分対処できる。


「ガウガウガウッ! グルルルルルッ!!」


 そんな事をしている最中も、ブラッドドッグは常に動いていた。

 さっき沼から出てきた奴が1匹が俺に向かって吠え、俺の注意を惹こうとしている。

 俺は分かりやすく一歩退いて、逃げ出すようなそぶりを見せた。

 すると途端に背後に居るもう1匹が俺目がけて走ってくる。


 この動きも読めていた。

 というか敢えて隙を作った。

 確実に相手を仕留めるため、背後から迫ってくるブラッドドッグが俺に飛び掛かれる時間を作る。

 時間にして0・5秒だ。

 それが過ぎるのを待ち、振り向きざまナイフを突き上げた。

 俺のナイフはちょうど飛び掛かってきたブラッドドッグの顎を貫通し、頭を貫く。

 だが奴はこの程度では死なない。

 そのまま首を抱きかかえるようにして押さえこんで、腹にある白っぽい塊……これがブラッドドッグの力核コア……を直接手で掴んで握りつぶす。


 ここまで2秒。

 あっという間に1匹のブラッドドッグが魔素の白煙に戻った。


 ピロリン♪

 レベルが上がる。

 恐らく『2』は上がったはずだが、まだ目の前に敵がいるので確認はしない。

 これで更に狩りやすくなった。


 即座にナイフを抜いて立ち上がると、もう1体のブラッドドッグは先ほどと同じ場所に居た。


「ガァ……ガルルッ……!!」


 だが首を僅かに垂れ、少し怯えたように吠えてくる。


 まあそうだろう。

 司令塔の『デュラハン』がいない場合、こいつらの狩りは基本的に1対1だ。

 それも持久戦が多い。

 集団で取り囲んで一斉に吠えたてて、相手が逃げ出したら一斉に追いかけて噛みつくというのがメインの戦い方である。

 もしも相手が逃げ出さない場合は、群れの中で最も強い1頭が隙を見て攻撃を仕掛ける。

 なぜなら反撃され、傷つくことを恐れているからだ。

 そう。

 見た目の割に意外と臆病なのである。

 この辺りは本来の犬らしい戦い方とも言える。


 そんな事を考えながら、俺は仮眠スキルを発動した。

 敵前だが一向に構わない。

 どうせこいつは攻撃できない。


 俺の意識が遠のいて、一瞬視界が暗転する。

 そして目を開けると、案の定ブラッドドッグはその場に居た。

 パワーナップの効果で全身に力が満ちる。


「来ないならこっちから行くぜ」


 俺は言い様、ブラッドドッグに向かってやや前のめり気味に突進した。


 突然上昇した俺の素早さに、ブラッドドッグが一瞬戸惑う。

 その隙を俺は見逃さない。

 一瞬で奴の眼前に踏み込むと、


「ギャウンッ!?」


 靴のつま先で奴の顎を蹴り上げてやった。

 空中でひっくり返った奴の腹にナイフを突き立て、そのまま地面へと叩きつける。


「ガウワウ……ッ!?」


 俺のナイフは奴の力核コアを完全に刺し貫いていた。

 一度ビクッと四肢を震わせて、ブラッドドッグは動かなくなる。


 ピロリン♪

 更にレベルが上がった。

 血と獣の臭いが引いたのでスマホでチラッと確認すると、レべルがもう『10』になっている。


 たった2匹狩っただけで、レベルがもう5も上がったのか。

 やっぱ格上と戦うのは、美味しいことこの上ないな。


 そんな事を考えながら、さっそく振り分けポイントを筋力STRに全振りする。



 ──────────────────


 STR(筋力)          37(+6)

 DEX(器用さ)         25(+4)

 AGI(素早さ)          26(+6)

 VIT(耐久性)        24 (+4)

 INT(知能)          29(+4)

 CHA(魅力)         21(+2)


 ステータス振り分けポイント  0


 ◆

 ──────────────────



 これが今の俺のステータス。

 パワーナップの効果と合わせて筋力が『37』になった。


 ここまで上がれば、を倒せる。


 そう思った瞬間。

 俺の鼻先を懐かしい臭いが掠める。

 血と金属の臭い。


 殺気。


 俺が直感したその時、沼地とは反対方向にあった枯れた白木の影から何者かが飛び出してきた。

 そいつは片手で持っていた大剣を俺目がけて振り下ろしてくる。

 金縁の『板金鎧プレートアーマー』を身に纏った首無しの騎士、デュラハンだ。


「シッ!」


 俺は全くためらうことなく奴の大剣に立ち向かった。

 今の筋力STRなら、こいつの剣はギリギリでいなせる。

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