第39話、レベリング再開Ⅲ
俺がこの『転送罠』を見つけたのは偶然だった。
正確には罠じゃない。
そういう効果を発揮するってだけだ。
ただ一度それで死にかけたから、個人的に罠って呼んでる。
デュラハンと戦った穴の近くに、高さ20メートルくらいの岩肌がある。
その割れ目の奥に暗緑色に明滅する魔鉱石『ダークベリル』の『魔鉱脈(魔鉱石が集まった層みたいなもの)』があるのだ。
この『ダークベリル』は特殊で、1000カラット以上(およそ100グラム)の重さになると触れたものを別の場所に転送させるって効果が現れるらしい。
ちなみに、どうしてこんなレアな魔鉱石がFランクの『むさしの』にあるかと言えば、さっきゴブリンが魔鉱石を落としたのと同じメカニズムである。
魔鉱石や出現モンスターなどの分布はほぼ決まっている。
だが極まれに……小数点以下5ケタぐらいのレベルだが……EランクやFランクダンジョンにもレア魔鉱石や強いモンスターが出現する事がある。
かつてその事に目を付けた俺が、どこかに超レア魔鉱石が落ちていないかと『むさしの』内を探しまくった結果見つけたのがこの『ダークベリル』の魔鉱脈だった。
この魔鉱脈の情報はネットやSNSの他、チャットGPDTにも聞いたけど情報が一切無かったから、多分俺だけが知っている。
普通の探索者は『むさしの』には来ないから、そもそも魔鉱石の採掘自体されていないのだろう。
以前、この魔鉱脈を見つけた俺は一獲千金だと思い手を伸ばした。
その結果、酷い目に遭った。
より高ランクの別のダンジョンへと飛ばされてしまったのだ。
今回は計画的に飛ばされてみる。
ステータス画面を見て現在のスタミナ値が『55』である事を確認した後、俺はダークベリルの魔鉱脈がある岩の割れ目に手を差し入れた。
思いっきり腕を伸ばすと、爪の先がようやく魔鉱脈に掠る。
すると、グルっという天地がひっくり返ったような感覚に捕らわれ、一瞬視界が暗転した。
まるで目には見えない網の中に入れられてブンブン振り回されてるみたいな感じだ。
すごく気持ち悪い。
その感覚が1秒ほど続いた後、突然網の感覚がなくなる。
体がブンッと空中に投げ出され、そのまま薄暗くてジメジメした地面へと俺は着地した。
直後に凄まじい疲労感と吐き気が俺を襲う。
頭の奥がとんでもない早さでズキズキ痛んでくる。
痛くて目も開けられない程だ。
遅れてスマホがピロンピロン鳴る。
「残りスタミナ値が10パーセントを切りました。
極めて危険な状況です。
一刻も早く帰還してください」
この症状はスタミナ切れ。
実はこの場所はEランクダンジョンなんだが、ダンジョン自体の魔素の密度にもよるが、入った時に大抵20から70くらいスタミナが削れてしまう。
俺が今飛ばされたこの場所は固定で64。
ただし元々居た『むさしの』ダンジョンの魔素密度に体を慣らしていたため、その分の『10』が引かれて『54』消費する形だ。
だから俺は最大スタミナ値を『55』にしたかったのである。
大昔にここに飛ばされた時は、俺はその場で死にかけた。
だが仮眠スキルのレベルを上げまくった今は違う。
考えているうちに、どんどん体が楽になってくる。
俺の仮眠スキルに付随した効果【スタミナ自動回復(小)】により、スタミナが回復したのだ。
この【スタミナ自動回復(小)】だが、マジで半端なく強い。
なぜなら、毎秒『5』もスタミナが回復し続けるからだ。
Bランクダンジョンでさえ毎秒1から2程度しか減らない。
つまり俺はダンジョンの中でずっと全力で走り続けるとか、そういう激しい運動でもしない限りは仮眠すら取る必要がなくなっている。
俺が何よりも先にスキルのレベルを上げた理由がこれ。
頬白でさえ息を荒くしていた事を考えれば、物凄いアドバンテージだ。
すっかりスタミナが回復した俺は、改めて辺りを見回す。
「……」
今俺が居るこの場所は、東京都内、上野公園内にあるEランクダンジョン『スケルトンフォール』。
その最深部にある沼地の傍だ。
ここはその名の通りガイコツ、つまり死霊戦士族のモンスターがメインの場所で、かつて俺がレベル上げに使っていたダンジョンでもある。
そう。
俺がわざわざ転送罠を使ったのは、このEランクダンジョンに最速で入るためだった。
メリットは幾つもある。
まずはライド料金が無料になること。
普通『スケルトンフォール』に入るには、3万円のライド料金を支払う必要がある。
『むさしの』から直接移動することにより、これを払わずに済む。
そして大きいのは、ダンジョンセンターに登録せずに潜れることだ。
普通Eランク以上のダンジョンセンターでは、生命の危険があるので探索者は事前登録を済まさなければならない。
その際に幾つか条件に同意させられるのだが、その中の一つにダンジョン滞在時間というのがある。
『東京オーガ』などの広大な一部のダンジョンでない限り、基本的にダンジョンセンターが開いている時間しか潜ることができない。
このスケルトンフォールだと朝8時から夕方17時くらいまで。
その時間を過ぎて潜っていると、違約金を取られ、悪質と判断された場合探索者免許をはく奪される。
これは探索者の命を保護するほか、犯罪防止を防ぐ目的で設けられているのだが、『むさしの』内から直接転送する事で、センターに登録しないで潜れる。
ようは俺は、24時間ずっと潜り続けることができるのだ。
そのために鞄に食糧を詰め込んできた。
これとモンスターを倒した時に時折ドロップする食品系のアイテム(さっき俺が手に入れた『ミード酒』など)を食べることで、かなりの時間このスケルトンフォール深層に留まることができる。
もちろんこの利点はスタミナを回復できる俺だけの利点である。
普通の探索者はダンジョンに居る限りスタミナが減り続けるから、このやり方はできない。
更にこのスケルトンフォールにはもう一つ利点があった。
今の俺のステータスでも倒せるモンスターがいる。
なんて考えている内に、血と獣の臭いが辺りに立ち込め始めた。
殺気!
俺が直感したその時、目の前にあった沼地から黒っぽい犬のようなモンスターが突然現れ襲い掛かってきた。
だが敵の出現を予測していた俺は、一瞬早く横に飛び退く。
じめじめした草地を2度転がってから立ち上がると、さっきまで俺が居た沼の畔に黒ずんだ骨と真っ赤な血で体ができている犬が一匹居た。
犬型のモンスター『ブラッドドッグ』だ。
レベルは『デュラハン』よりも高い。
「ガウアアアア!!」
更に俺の背後からも犬の唸り声が聞こえてくる。
俺は僅かに首を動かし、殆ど目だけで背後を確認した。
そこにももう1体ブラッドドッグが居た。
どうやら囲まれたらしい。
よし、幸先がいい。
そう思うと、俺は片手でナイフを構えたまま、もう片方の手で鞄のジッパーを降ろし中から『ミード酒』が入った革袋を取り出した。
今の俺のレベルは『5』。
初めてこいつを倒した時のレベルは『15』だった。
今のステータスでは、たとえパワーナップを使ったとしても俺はこいつに勝てないだろう。
ただしそれは俺に『
今の俺は違う。
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