第33話、レベルイーター

 ――眠視点――



 化け物みたいなモンスターを倒した後、俺がレベルアップ諸々で息巻いていると、


「眠くん」


 背後から声を掛けられた。

 振り向けばそこに頬白さんが立っている。

 しかも満面の笑みを浮かべていた。

 怖い。


 あ、やべ……!

 敵と戦うのに集中し過ぎて、頬白さんのことすっかり忘れてた……!


「頬白さん、倒せました!」


 俺は愛想笑いを浮かべた。


「倒せましたじゃないよね?」


 頬白さんは怒っている。


 だけど、なんで怒っているのか分からない。

 俺なんかしたか?


 そんな風に俺が困っていると、頬白さんが俺の足元に散らばっていた魔鉱石を一つ拾い上げた。

 そして、


「キミ、実力を隠していたんだね。

 ステータスを教えないなんて、誠実とはいえないな」


 拾った魔鉱石を空に翳しながら、これ見よがしに言った。


 そっちか……!

 僕の獲物なのに勝手に倒すな、とか報酬山分けにしろ、とかそっちで怒ってるのかと思ってた。


 だけど、ステータスに関してはタイミング悪かっただけなんだけどな……!

 見せなくても大丈夫みたいな事も言われたし……!


「あ……その、すんません、失礼しました」


 そんな風に不満はあったけれど、言っても仕方ないと思ったので俺は謝った。


 レベルイーターさんは国内10位の探索者。

 それぐらいの実力者ともなると、ダンジョン業界はもちろん政府にも口が利く。

 怒らせるのは得策じゃない。


「見せてくれないか?」


 俺がそんな風に思っていると、頬白さんが言った。

 薄く開いた糸目からは、『見せろ』という強い念を感じる。


「……」


 一瞬どうするか考える。

 今さら見せる必要があるのか? って思ったからだ。

 さっきから頬白さんなんか怖いし、そもそもステータスってあんまり人に教えるものじゃないし……。


 見せるか見せないか迷いながら、俺はステータスアプリを起動する。



 ◆

 ──────────────────



[レベル]      2316



[スタミナ値]   2366/2366

         (現在値/最大値)


[HP]      2356/2356(ー0)

         (現在値/最大値)

 マイナスはスタミナ値による補正



 ◆

 ──────────────────


 STR(筋力)        5596(+2304)

 DEX(器用さ)        6254(+2962)

 AGI(素早さ)         2712(ー0)

 VIT(耐久力)       1860(ー465)

 INT(知能)         2564(+233)

 CHA(魅力)         1627(ー697)


 ステータス振り分けポイント  0


 ◆

 ──────────────────



 今の俺のステータスはこれ。

 レベル1の頃は10とか9とかだった能力値が、今では軒並み4ケタにまで上がっている。

 ここまで俺が強くなれているのは、レベルごとに全てのステータスが1ずつ上がったことと、これまでに獲得した6つの称号によるボーナス(DEX1・9倍や魅力0・7倍など)が付いた結果だ。

 耐久性耐久性魅力CHAの伸びは悪いが、それ以外は順当に強くなっている。


 ちなみに仮眠スキルは以下の通り。




 ──────────────────


[スキル] 仮眠(レベル9:385674/500000)

 1回仮眠することで熟練度を1得る。消費スタミナ:1


 ──────────────────



 ここに来て、仮眠スキルもまたレベル上げが難しくなっていた。

 必要な熟練度が50万までハネ上がっている。

 俺は6秒で1回眠れるから、1時間辺りで600回眠れる。

 必要な熟練度は50万だから、それを600で割ると833。

 つまり単純計算で、俺は833時間仮眠する必要がある。

 ちなみに1か月はおおよそ700時間だ。

 結構どころじゃなくキツい。

 童話に出てくる三年寝太郎もビックリだろう。

 アイツ確か実際に寝てたわけじゃないし。


 ともかく、それでも俺は毎日コツコツ頑張ってきた。

 今日までの努力のお陰で、仮眠スキル自体も大幅にパワーアップしている。

 それが次の欄だ。



 ──────────────────



 レベル1:【即眠】どんな場所でも3秒で仮眠を取ることができる。


 レベル2:睡眠後に【スタミナ回復量UP(小)】の効果を得る。回復量は50アップ。

 

 レベル3:【即醒】仮眠スキルで眠った場合3秒で目覚める。


 レベル4:睡眠後に【パワーナップⅠ】の効果を得る。


 レベル5:【即夢】仮眠時に夢を見る。


 レベル6:睡眠後に【スタミナ回復量UP(中)】の効果を得る。回復量は500アップ。


 レベル7:睡眠後に【パワーナップⅡ】の効果を得る。


 レベル8:睡眠後に【スタミナ回復量UP(大)】の効果を得る。回復量は5000アップ。


 レベル9:常時【スタミナ自然回復(小)】の効果を得る。回復量は毎秒5。


 レベル10:睡眠後に【パワーナップⅢ】の効果を得る。


 レベル11:********************。



 ──────────────────



【スタミナ回復(大)】があるから、眠れば一発でスタミナが全回復するし、そもそも常時発動している【スタミナ自然回復(小)】のお陰でダンジョンに潜っていても殆どスタミナが減らない。

 この二つがあるお陰で、俺はいつでも全力全開で戦い続けることができる。

 更に【パワーナップ】も大幅に強化されていた。

 時間制限こそ15秒間のままだが、筋力STRのみ20パーセント上がる効果だったものが、今では全ステータスが20パーセント強化される。

 これが相当強い。

 筋力STR一つをとっても、俺は『5596』ある。

 それが更に2割増すのだ。

 パワーナップは正直チートだと思う。

 さっきのモンスターを無事倒せたのも、正直【パワーナップⅡ】があったからだ。

 しかも仮眠スキルが次のレベルになれば、チートだったパワーナップが更に強化される。

 効果はまだ分からないけれど、制限時間もしくは効果量がアップするはず。


 ちなみにレベル5の時に取った【即夢】って効果なんだけれど、いまいちよく分からない。

 毎回仮眠スキル使うと一瞬夢を見るってそれだけ。

 だが【即眠】など他の効果が発展したことを考えると、今後何かしらのパワーアップがあると思われる。

 レベル上げが楽しみ。


「……!」


 俺がそんな風にまたスマホ画面をスライドさせて、自分のステータスを眺めていると、頬白さんが俺の背後に回り込んで画面を盗み見てきた。


 俺はスマホをバッと隠す。


 やべ、見られたかな。


 頬白さんは俺を見て不気味な笑みを浮かべている。

 やがて彼は、何かを承知した時のようにパンと手を合わせると、


「なるほど。

 お陰でよくわかった。

 キミがあの黒ジャージの少年か」


「黒ジャージ?」


 確かに俺は黒ジャージ着てるけど、この人急に何言い出すんだ?


「キミは先日市ヶ谷でスケイルレギオンを倒したよね?」


「スケイルレギオン……?

 あ、もしかしてあの骨の塊みたいな奴ですか?」


「そう。

 スケイルレギオンは本来Bランクダンジョンに現れるモンスターで、討伐にはBランク中位以上の探索者、もしくは自衛隊の一個中隊くらいの戦力が必要になる。

 それを倒した探索者……それも完全無名の高校生……がいるって、ダンジョン関係者の間で噂になっているんだ。

 これを見て欲しい」


 言って、頬白さんが俺にスマホ画面を見せてくれた。

 そこには、


『米国の著名ダンジョン記者が未知の探索者を絶賛「彼は日本の、いや世界の宝となる」』


 という見出しのニュース動画が映された。

 場所はデトロイトのルネサンスセンターにあるビルの一つ。

 その前で、白髪にヒゲを伸ばした50代くらいのチェックシャツのおじさんが、インタビューに答えている。

 後半になると画面は切り替わり、俺がスマホをぶん投げてスケイルレギオンを倒すシーンを描いたCG映像が流される。

 まるで犯行現場の再現動画みたい。


 え……!

 マジ?

 俺有名人じゃん。

 ヤバ。


 正直、悪くない気持ちだった。

 多くの人が俺の実力を認めてくれている。

 その事が素直に嬉しいのだ。


 だけど、同時にリスクのことも頭に浮かぶ。

 こんなに有名になると、悪い事も起きるんじゃないかって、そんな気がする。


「眠くん。

 キミは貴重な人材だ。

 本来なら、日本探索者協会JSOが日本政府と一緒になって後押しするような、有望な探索者だろう。

 キミの存在が日本人全ての希望となるんだ。

 だから、よかったら彼らにキミを紹介させてくれないかな。

 僕は今キミに感謝したい気持ちで一杯なんだ。

 キミという世界最高クラス、いや世界一の探索者と出会えたことに」


 そう言うと、頬白さんは俺に右手を差し出した。


 そんなに俺の強さを喜んでくれるなんて。


「はい。よろしくお願いします」


 俺も右手を上げた。

 そして頬白さんと握手をする。


「ようこそ一流探索者の世界へ」


 言われた瞬間、俺の体に電流が走った。

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