第15話、レベル上げの日々Ⅱ
PM4時。
俺は東京都内、上野公園内にあるダンジョン『スケルトンフォール』に挑戦していた。
その名の通りガイコツ、つまり死霊戦士族のモンスターがメインの場所だ。
ダンジョン内部はジメジメした沼地のような階層が殆ど。
歩き難いし、視界も悪い。
居るだけで神経がすり減りそうな空間だった。
実際、時間当たりのスタミナ消費値は『むさしの』ダンジョンの比じゃない。
しかも至る所にガイコツが埋め込まれており、沼地はもちろん壁や天井や地面からほぼ無尽蔵にスケルトンやデュラハンといったモンスターが這い出てくる。
ダンジョン難易度を示すランクはE。
その深度は地下350メートルにも達し、東京タワーがすっぽり入ってしまう程の深さがある。
その最深部に俺は居た。
ちょうど今、3体のモンスターと出くわしたところだ。
全身を金属プレートで覆った首無しの騎士『デュラハン』が2体。
それと、黒ずんだ骨と真っ赤な血で体ができている犬型のモンスター『ブラッドドッグ』。
「ガウアアアア!!」
ブラッドドッグが俺を目がけて突進してくる。
デュラハン以上の素早い動きだった。
こいつに噛みつかれると一時的に体がマヒする。
そして、マヒしている間に更に噛みつかれる。
以降はエンドレス。
死ぬまで噛みつかれる。
年間で何人も死傷者を出している凶悪なモンスターだった。
デュラハンよりもレベルが高い。
かつ、俺のHPも実は3割を切っている。
7時間ぶっ通しでずっと戦い続けていたからだ。
例によって、新しく購入した剣も曲がって鞘に収まらなくなっている。
少し前の俺だったらとっくに絶望していただろう。
「キャウン!?」
だが、俺は焦らない。
落ち着いてブラッドドッグの動きを観察すると、奴が飛び掛かる瞬間に合わせて剣で下から切り上げた。
俺の剣は何度もブラッドドッグやデュラハンの硬い体に打ち付け続けたせいで、殆ど鉄の棒同然になっている。
一太刀でブラッドドッグの体が真っ二つに裂け、サラサラと砂に戻った。
純粋な
武器の低下した攻撃力を補えるほどに俺の肉体が成長している。
「……」
俺は切り上げの勢いを殺さず、そのままデュラハン2体に向かって突進した。
すると1体が剣を振り上げ、もう1体がガイコツの首を俺に向ける。
ガイコツと目が合うと呪い攻撃を受ける。
つまり俺の視界を封じた上での攻撃だった。
だが、構わず突進する。
俺は目が光る前にガイコツを叩き割った。
返す剣でもう一体のガイコツを斬る。
まるで折り紙を斬ったような手ごたえだった。
デュラハン2体は音も無く崩れ去る。
時間にしておよそ5秒。
正直楽勝だった。
呼吸すら乱れていない。
こんなにも俺が強くなったのには理由がある。
仮眠スキルを利用した、自分なりの効率のいい稼ぎ方を見つけ出したのだ。
その稼ぎ方とはつまり『長時間潜り続ける』こと。
今朝からもう7時間以上潜り続けてる。
途中仮眠を何度も取りつつ、ボス部屋付近を徘徊し、レベルの高い敵やボスモンスターが再度出現するのを待って、狩り続けているのだ。
当然『ダンジョン報酬』もボスを倒す度に貰っている。
このやり方は断然効率がいい。
今朝からレベルが幾つも上がっているし、滅多にドロップしない魔鉱石も3個手に入れている。
今日1日で既に10万円近くも稼いだ。
日給ではあるけれど、西麻布さんの時給と並んだって考えると嬉しい。
ただしEランク以上のダンジョンには、滞在の制限時間が設けられており、その時間を超えると探索者の携帯に連絡がかかり、場合によっては強制的に救援隊が出されてしまう。
だからこれ以上は潜っていられないのが残念だ。
それでも非常に美味しい。
そのために今日は学校を休んだ。
正直、サボるのは後ろめたい。
みんな真面目に授業を受けてるのに、俺だけが一人ズルをしてレベルを上げてるような気がするからだ。
でも背に腹は代えられないし、そもそも俺と同じ稼ぎ方は皆にはできない。
仮眠スキルを持っているのが俺だけだから。
ちなみに、今の俺のステータスはこれ。
──────────────────
[レベル] 49
[スタミナ値] 86/89
(現在値/最大値)
[HP] 25/88(ー0)
(現在値/最大値)
マイナスはスタミナ値による補正
◆
──────────────────
STR(力) 80(ー0)(+1)
DEX(器用さ) 78(ー0)
AGI(速度) 68(ー0)
VIT(体力) 59(ー0)(+1)
INT(知能) 63(ー0)
CHA(魅力) 57(ー0)
ステータス振り分けポイント 0
◆
──────────────────
デュラハンと戦った頃と比べると、スタミナ値やHPに関してはほぼ2倍。
ステータスに関してはほぼ3倍になっている。
この他に称号を5つ獲得しており、ステータス値アップの他アイテムドロップ率も上がっていた。
これだけ強くなったんだから、学校で学んでるみんなとの差も埋まったはず。
よし。
今日はもう休もう。
万年最下位だった俺が、ようやくクラスの連中と肩を並べるところまでレベル上げたんだ。
少しくらい自分に優しくしてやってもいい。
たまには仮眠スキルを使わずに湯船に浸かってゆっくりベッドで眠ろう。
そう思って俺が帰ろうとした時、ポケットでスマホがピロンピロン鳴った。
いつものアプリの警告やレベルアップの音とは違う音だ。
なんだろう、と思ってスマホ画面を見ると、ショート動画アプリの通知だった。
俺がフォローしている投稿者が新着動画を上げたらしい。
投稿者の名前は『レベルイーター』さん。
銀髪糸目のイケメンだ。
歳は20代前半くらいだろうか。
この界隈ではかなり有名な人で、全探索者の上位1パーセントもいないBランク探索者をしながら、一流探索者になるためのノウハウを教えてくれる動画が中心に上げている。
俺がよく見ているのは、
『ダンジョン別完全攻略マニュアル都内編』
『お金が無くてもBランク探索者になれる方法TOP10』
『一流探索者が教えるライドのコツ』
辺り。
レベルイーターさんのいい所は、俺みたいなレベルの低い探索者でもなんとか戦えるやり方を教えてくれるところ。
オンラインサロンもやっているらしくて、懇切丁寧に弟子を育ててくれるらしい。
月額最低でも5万円からなのでまだ金銭的に厳しいんだけど、いつかは俺もお世話になりたいと思っている。
そんなレベルイーターさんの最新動画のタイトルを見ると……ッ!?
『探索者のレベルを公開します!
人類最強の男ヘンリーウォルターさんのレベルはなんと●●でした!!』
え、マジ!?
それはつい5分前から始まったばかりのライブ動画だった。
場所はレベルイーターさんが自宅(豪邸)のリビングルーム。
そこで巨大スクリーンに映し出されたヘンリーウォルターの写真を見ながら、一緒に居合わせたサロン生……モデルで人気ショート動画投稿者の美女と2人でトークをしている。
いつもの動画と比べてかなり内容が違うな。
俺は思った。
普通はレベルイーターさんとレベルを公開することになる探索者さんの2人でトークをするんだ。
でもヘンリーは、レベルイーターさんが誘っても来てくれなかったらしい。
代わりに巨大スクリーンが用意され、そこに映し出されたヘンリーウォルターの写真を見ながらサロン生と話をするという構成になっている。
再生回数は投稿してからまだ10分も経ってないのに1万を越えていた。
『いやはやまったく、彼は本当に素晴らしい探索者ですね。同じ人間種かと思うと生まれてきたことを後悔しそうですよ』
レベルイーターが溜息吐きながら言った。
それにサロン生が同意する。
いいから早くヘンリーのレベルが知りたい!
そう思っているのは俺だけではないらしく、動画コメント欄も同様のコメントが滝のように流れていた。
レベルイーターがパソコン画面でコメントを見て、ウンウン頷いている。
『では、発表します。
これは私が独自のルートで入手した情報なのですが……!
ヘンリーウォルターのレベルは、なんと400万です』
『よ、400万ですか!? それはマジですごすぎますね!!』』
『はい。間違いありません。もっとも、正確な数値までは分かりませんでしたが、最低でも400万というのは確実な情報です』
余りのレベルの高さに、サロン生がびっくり仰天している。
座っていた椅子から転げ落ちてしまった程だ。
一方俺は、言葉も出ない状況が続いている。
世界一の探索者のレベルは、400万。
俺は……49。
10倍どころか10万倍の開きがある。
衝撃だった。
衝撃かつ絶望だ。
動画の音声なんてもう入ってこない。
すげー……。
すげーよヘンリー。
俺なんかまだ49なのに。
それなのに、強くなったってはしゃいじゃってて……!
俺、どれだけクソザコなんだろう……!
ああ……!
さっきまではしゃいでた自分を殺したい……!!
そこまで考えると、俺はスマホをポケットに仕舞ってボロボロの剣を掴んだ。
こんな程度で帰ってたら、一生かかってもレベル400万なんかにはなれない!
「クソ……ッ! クソオオオオオオ……ッ!!」
この程度で満足してたまるか!
今日は時間ギリギリまで潜ってやる!!
潜った後も全ての時間を仮眠スキルの熟練度上げに充てて、そして明日も潜る!!
潜り続ける!!
一秒でも早く世界一になりたい!!
そう心の中で叫んだ俺は、勢いのままにボス部屋に踏み込んだ。
その部屋は石でできたドーム状の地下墓地といった場所でかなり広く、中央が丘のように盛り上がっている。
その丘の向こうに聳え立つのは、身の丈10メートルはありそうな3体の巨人。
全員首が無く、体が青白く光る板金プレートで出来ている。
デュラハンの更にランクが一つ上がったモンスター『キングデュラハン』だ。
しかも丘には『デュラハン』や『ブラッドドッグ』が20……いや、50は居る。
数えきれない。
「ククク……!」
それを見て、俺は喜んだ。
嬉しい。
こいつらがみんな俺のレベルを上げてくれる。
「よっしゃ来いやああああああ!!!!」
もはや鉄の棒ですらなくなった剣を高々と振り上げ、俺はモンスターが跋扈する丘の上に向かって突っ込んでいった。
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