第16話、レベル上げの日々Ⅲ

 眠士郎がEランクダンジョンでレベル上げを始めてから1週間後。

 探索者専門学校の教室で、クラスメートの男子たちがまた騒いでいた。


「報っ告♪ 無事、俺様レベル25に到っ達♪」


 茶髪にピアスを付けたチャラい男子が、これ見よがしにスマホ画面を友人たちに見せながら言う。


「は!?」

「ふざけんな見せろよ!?」


 すぐに1人の男子が茶髪の手からスマホをもぎ取る。

 そこにはデカデカと『25』という数字が表示されていた。


「マジか~~~お前~~~~~!!?」

「ちくしょ~~~~!!」

「また抜け駆けしやがって~~~~!!」


 それを見るなり、友人たちは頭を抱えだす。

 レベルが25にもなれば、クラス3位はもちろん学校全体でも上位30人に入る。

 今までずっと自分と同レベルだった奴がメキメキ成長していく様に、彼らは焦りを覚えていた。

 そんな友人たちに茶髪は、


「ま、全部西麻布さんのおかげだけど!? 俺マジで西麻布さんの荷物持ってただけだし!

 いらないからって魔鉱石も1個貰っちゃった!」


 言って、中指を立てる。

 その指の根元に嵌められたシルバーのリングには、0・4カラット級の魔鉱石『ブルートパーズ』が嵌められていた。


「すげえ……!」

「魔鉱石まで貰ったのかよ……!」

「くっそ! 荷物持ちでレベル上がるなんてチートじゃねえか!」

「俺なんかこの半年19から上がってねえのに……!」

「羨ましいぞお前今日なんか奢れ!」


 そんな友人たちの言葉を受けて茶髪は、


「いいぜ! 久々にパーッと騒ぐか!! 今日は俺の人生の祝勝会だ!!」


 言って、拳を突き上げる。

 すると、


「あ……そういや西麻布さんは?」


 そんな茶髪の姿が余りにも眩しいのだろう。

 やはり素直に喜べないらしい友人の1人が、教室を見回して言った。

 今回彼が視線を留めたのは、西麻布の座席だ。

 誰も座っていないし、鞄すら掛かっていない。


「あの人さいきん休んでね? どうしたんだろ」

「それだけど、ダンジョン休学とったらしい。

 一昨日までは潜るための準備期間で、そっから3日間かけてCランクダンジョン踏破に挑むんだって。だから、上手くいったら今日あたり帰ってくるのかな?」


 茶髪が皆に説明する。


「え? 西麻布さんってCランクダンジョンまだ踏破してなかったの?」


 友人の一人が茶髪に尋ねた。


「バッカ! 単に潜るのと踏破じゃ難しさがケタ違いなんだぞ!

 探索者が強いのはもちろん、踏破できるだけのスタミナが必要になってくるし、環境もヤバくなってくるからサバイバル技術とかそういうのも要るんだ。

 もちろん食糧とかの物資運搬も必要になる」


 茶髪ピアスが息荒くして答える。

 全て西麻布からの受け売りだ。


「なるほど。Cランクダンジョン踏破する事が一流探索者の条件だって先生も言ってたもんな」


 質問した友人が頷く。


「そうそう!

 しかも今回はプロの人がいないらしくて。

 吉良くんとか学校のメンバーだけでいくらしい。

 その方が稼げるし、プロの人たちはみんなそうしてるからって西麻布さんが言ってた!」

「あー、それで吉良くんも休んでるのか」

「もう1人関係ない奴も休んでるけどな?」


 言って、茶髪がニヤニヤしながら眠士郎の机を見る。


「また眠かよ!」

「あいつマジでどうした? 死んだ?」

「死ぬってスライム相手に?」

「それマジでウケんだけど~! スライム相手に殺されたとかギネスもんじゃね!?」

「それか夢諦めて就活してるとかな」

「就活ってコンビニ店員とか? 短剣持っていらっしゃいませとかしてんの!?」

「それやっべ!」

「可哀想~!」


 茶髪たちが腹を抱えて笑った。


 一方その頃。

 西麻布率いるHW探索者学校選抜メンバー6人は、Cランクダンジョンの奥地で遭難しかかっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る