第12話、初めてのボス戦Ⅳ

 硬えッ!?


 何度全力で柄をぶつけても、デュラハンの頭には傷一つ付かなかった。


 今、俺の筋力STRは相当ある。

 もちろんレベル、もとい魔素を体内に溜め込んだためだが、魔素密度が濃いダンジョン内でなら厚さ3センチの鉄板でも素手で叩き割れるぐらいの力がある。

 それなのに、なんでガイコツが叩き割れない!?


 直後に背後に迫る足音が聞こえて、俺は咄嗟にその場を飛び退く。

 ブオンという風切り音と共に、俺が一瞬前まで居た場所をデュラハンの剣が通り過ぎる。

 飛び退いた勢いを殺さずに、俺はそのまま走り出した。

 敵の気配が遠のいたのを感じてから振り向く。


 デュラハンは5メートル程離れた場所に居た。

 そこで自分の頭についた泥を払っている。

 どうやら俺を殺す事よりも頭を保護する事を優先したらしい。

 俺との距離は詰めずに、こちらの様子を窺っている。


「ハッハッハッハッ……ハー……ッ!」


 クッソ……!?

 デュラハンの耐久性VITが高すぎるんだ……!!

 折れた剣と俺の筋力STRじゃ、奴の耐久性を超えられない……!!

 あのガイコツを砕けないってことは……!



 ――つまり俺は、こいつに絶対に勝てないってことじゃないか!?――



 そんな風に俺が愕然としている間に、デュラハンが左手に持ったガイコツを俺に向けてきた。

 薄気味悪い白骨。

 その目に開いた窪みが赤紫色に光っている。

 訳も分からず俺は、デュラハンが向けたガイコツの目に魅入っていた。


 なんだ……?

 あいつ、何を……!?


 すると俺のポケットでスマホがピロンピロン鳴った。

 続けて機械的な女性の声がする。


「『呪い』効果を受けました。

 10秒ごとに最大HPの5パーセントずつHPが減ります」


 なんだ今の声!?

 俺のスマホからしたけど!?

 ……あ、そうか!

 俺昨日からステータスアプリを有料プランに変更してて。

 それでアプリの機能が幾つか増えていたんだった。

 その中の一つで確か、登録者の状態を自動でナビゲートしてくれる機能が追加されてるはず。

 なんにも考えずに許可してたけど、たぶん今のがそれだろう。

 正直戦闘の合間にスマホ見てる余裕とかないから大分助かるな!


 ……。

 って!?

 待て待て待て!!

 最大HP の5パーセントずつ減るって言ってたよな!?

 ってことは俺のHPは50ちょいだったから……10秒ごとに3ぐらいずつ減ってくことになるじゃないか!

 つまり俺の命はあと3分持たない!?

 ただでさえ勝てないっていうのに、こんなのどうしようもないじゃないか!?


 俺が自分の置かれた状況を把握したまさにその時、デュラハンが動いた。

 また右手の剣を前に突き出した格好で、俺に向かって走ってくる。


 い、いやだ!?

 死にたくない!!


 パニックに陥りかけていた俺に、戦う術など思いつけない。

 意地もプライドも捨てて、ただ穴の底を逃げ回る。


 畜生おおおおお!!

 あの頭、単なる弱点じゃなかったのかよおおおお!?

 呪いなんて攻撃方法知らねえよ!?

 卑怯だろうがよおおおおお!!


 心の底で叫ぶ。

 だがいくら叫んでも現実は何も変わらない。

 背後から迫ってくるガチャガチャという音が、まるで死神が立てる笑い声みたいに聞こえてきた。

 その音が聞こえる度に、『もうすぐ死ぬぞ』と言われている気がする。


 そんな事を考えているうちにも息が上がってきた。

 きっと激しい戦闘でスタミナが減ってきているんだ。

 仮眠をとって、回復しないと……っ!?


 不意に俺を追うデュラハンの足音が消えた。

 直感的に振り返る。

 見上げれば、デュラハンが3メートルくらい空中に跳び上がっていた。

 距離を一気に詰めるためのジャンプ斬りだ!

 俺を真っ二つにするつもりか!?


 ザシュッ!


 敵の動きに気付けたお陰で、俺はなんとかギリギリで横に飛び退く。

 一瞬前まで俺がいた場所が、地割れでも起こしたみたいに裂けていた。

 その凄まじい威力に驚く間もなく、デュラハンが追撃してくる。


 俺は折れた剣でなんとか敵の攻撃を躱し、後ろに跳んだ。

 だがデュラハンは追撃の手を緩めない!

 刺突や切り上げなど、あらゆる方向から攻撃を繰り出してくる!

 凄まじいパワーの攻撃を捌ききれず、ついに胸元に剣の一撃を貰ってしまう。


 痛えええええッ!?


 俺のジャージが一瞬で鮮血に染まった。


 死んだ!?


 そんな事を考えながらも必死に剣を振る。

 どうやらまだ死んでない!

 だが裂かれた胸元からは血がドクドク溢れ出している!

 傷口付近が熱くて痛みが分からない!

 ダメージもどれぐらい食らったか!?


「残りHPが30パーセントを切りました。

 極めて危険な状況です。

 一刻も早く帰還してください」


 数秒遅れて、スマホがまたピロンピロンと鳴って俺に警告をしてくる。


 もうそんなかよ!?

 30パーってことは、あと15ちょっとしかないってことだぞ!?

 それがゼロになったら俺、死んじまう!?


 仮にデュラハンの攻撃を全て躱したところで、俺は30秒しか生きられなかった。

 呪いの効果はかけてきたモンスターを倒せれば解除できるが、30秒でデュラハンを倒すなんて到底無理に思える。


 誰か……!

 誰か助けてええええ!!


 俺は今にも泣き出しそうだった。


 その時、


『アンタなんかが世界一になれるわけないじゃない』


 ふと、俺の脳裏に西麻布さんの嘲笑が浮かんだ。

 途端に俺の心に怒りの炎が宿る。

 それは心臓を伝って全身に巡り、俺の心を奮い立たせた。


 そうだ……!

 ついこの間誓ったばかりじゃないか!

 俺は世界一になる男なんだって!

 この程度でへこたれてるようじゃ、世界一にはなれない!

 絶対に生き残ってやるんだ……!

 ヘンリーがそうしてきたように!

 そして俺は世界一の探索者になる!


「うおおおおおおおおおお!!」


 俺はありったけの力でデュラハンに斬りかかった。

 体重移動とデュラハン自身の筋力STRを利用してなんとか奴の剣を捌く。

 勢いを殺さずそのまま交差することで奴の追撃を躱すと、俺は思いっきり前方に跳んだ。

 デュラハンから距離を稼ぐ。


 一か八か……!

 仮眠スキルに賭けるしかない……!


 俺にはまだ秘策があった。

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