第11話、初めてのボス戦Ⅲ

 そういえば、デュラハンには弱点があった。

 頭だ。

 あの頭自体が力核コアになっている。

 つまりあの頭を砕きさえすれば、デュラハンは鎧ごと消える。


 俺が生きて地上に戻るためには、頭を狙うしかない。

 こんな奴と戦うのは正直恐ろしいけれど、なんとかやるしかないだろう。

 それしか俺が生き残る方法はないのだから!


 クッソ……!

 格上だからってビビってんな俺!!

 いくぞッ!?

 いくんだよッ!?


 俺は今にも逃げ出しそうな自分に何度もそう言って心を奮い立たせると、折れた剣の柄を短く持った。

 そのまま雄叫びを上げて突進する。

 声でも出さなければ、今にも恐怖で動けなくなりそうだった。


「……」


 俺の動きに合わせて、デュラハンも動いた。

 剣を持つ右半身を前に出し、ガイコツを持ってる左手を後ろに下げる。


 こいつ!?

 俺のやりたい事が分かってやがる!

 頭までいい奴だな畜生!


 俺が狙っているのは簡単なことだった。

 学校帰りでジャージ姿の俺は、戦闘用のボディアーマーなどを一切付けていない。

 デュラハンの剣で斬られたら即死だろう。

 だから、剣が使えない間合いで戦うしかない。

 一気に距離を詰めて格闘戦に持ち込むのだ。

 ただし、それだけでは勝てない。

 さっきの立ち合いの感じからして、純粋な筋力STR勝負では俺が負ける。

 奴は右腕一本で俺を圧倒していたからだ。

 素早さAGIもデュラハンの方が高いだろう。

 だが1つだけ、俺でも勝負できそうなステータスがある。

 それは……器用さDEXだ!


「シッ!」


 デュラハンが凄まじい勢いで突き出してくる剣先を、俺は折れた剣の刃でからめとるようにして弾こうとした。

 こういう細やかな技術には高い器用さDEXが必須。

 その器用さDEXすらもデュラハンが勝っていれば、俺は剣を弾き飛ばされ、姿勢を崩された所を追撃されて斬り殺される。


 ギィンッ!


 相手の凄まじい筋力STRに、掴んでいた剣を弾き飛ばされる。

 だがギリギリで相手の剣を躱すことができた。


 やっぱり!

 器用さDEXだけは勝っている気がしてたんだ!

 だって、何か一つだけでもステータスが勝っていなかったのなら、俺は最初の斬り合いで100パーセント死んでいるから!


 俺は姿勢を低くして、奴の懐に一歩踏み込んだ。

 デュラハンは突きの勢いを殺さず、左ひざ、いや足甲で俺の顔面を蹴ろうとしてくる。

 このまま蹴られれば、耐久性VITの低い俺の頭はトラックに踏み潰されたリンゴのように砕けてしまうだろう。

 だがそれは想定済み。

 俺は殆ど跳ぶような感じで、体を右に傾けた。

 直後に凄まじい衝撃が俺の脳を揺らす。

 一瞬意識が消えかける。


 ――ここッ!


 予め回避動作をしていたことで辛うじて意識を保てた俺は、そのままデュラハンの左足を掴んで後方に押し倒した。

 板金プレート同士がぶつかり合う派手な音を立てて、デュラハンが倒れる。

 全身が鎧のデュラハンは、胸甲が分厚いせいもあって重心が高くなりがちだった。

 そこを狙ったのだ。

 衝撃でデュラハンが頭を手放す。


「くらえええええッ!!」


 デュラハンより先に立ち上がった俺は、転がった頭を思いっきり蹴っ飛ばした。

 ガイコツのクセにまるで肉があるみたいに重い。

 ゴロゴロと地面を転がった頭に、更に追い打ちをかける。


 今蹴っ飛ばしたのは、単に攻撃したってだけじゃない。

 その先に、さっき俺が弾き飛ばされた剣があるのだ。


 俺は剣を拾い上げると、まるでヤシの実でも割るような格好で、何度も柄をガイコツに打ち付ける。

 刃こぼれした刀身で斬るよりも、柄で直接殴った方が威力がありそうだったからそうしたのだ。


 勝った。


 その瞬間、俺は勝利を確信していた。

 だが。


 硬えッ!?


 何度全力で柄を打つけても、デュラハンの頭には傷一つ付かなかった。

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