第26話 見える決断
「さて、と。」
部屋に戻り、夕食や布団を敷き終わり一息ついたところで、大樹がゴソゴソとカバンからカメラを取り出した。
「撮影?今から?」
「そう。今、この時間こそ、修学旅行ならではのシャッターチャンスなんだよ!」
大樹がカメラを構えキメ顔を見せる。
「寝る前の部屋の写真とかって事?」
「それもあるけどな。この時間のシャッターチャンスは告白タイムなんだ!」
大樹は俺の質問に「フッ」と片頬で笑い、真犯人の名前を告げる名探偵のような顔をして言い放った。
「こ、こ、告白!?」
「そう。明日の最終日の3日目の自由行動の時に一緒に行動するために、1日目か2日目の夜に告白するのが修学旅行の定番なんだぜ。雄大だってあんなことがあったから修学旅行で思いを伝えるって言ってたろ。」
「そうだけど、だからって、告白をカメラで撮影するのはマズいんじゃあ……」
時は修学旅行の前に遡る。
体育の授業の後、教室での着替えで男子だけの空間になった時に唐突に雄大は〝
が、運悪く着替えを早くに終わらせた女子たちが教室の外で待っていたらしく、外から黄色い声援が聞こえ、その中に
「告白の最中や、失敗した人は撮らねぇよ。だけど成功した時の写真は最高の思い出にならないか?」
「いや、だけどさぁ…」
俺は少し決断を渋っていると、大樹が再び口を開く。
「翔真くんさぁ、これは君にもチャンスだし、逆を言えばピンチでもあるんだぜぇ?」
大樹はカメラとメガネのレンズを同時に光らせる。
「いや……だから…俺は……」
「言わないでも分かっていると思うが、今お前の周りにいる子たちは皆、人気があるからな。」
「!?」
「誰かに告白されるって可能性はすげぇあるんだぜ?さらには付き合っちゃったり。」
大樹は芝居がかった口調で続ける。
「知らない土地、見慣れない夜の景色、修学旅行という特別な時間、否応にも上がるテンション!……いつもの教室では無理かもしれないけど、このタイミングならイケる!!って考えてるやつは多いと思うぜ?」
「……。」
「先輩も言ってたけど、修学旅行でした告白が1番成功率が高いらしいぞ。せっかく、元カノを蹴飛ばしたんだ。みんなと同様、翔真にも権利はあるからな。あんまり呑気に構えてると誰かに取られるぞ?」
「……」
大樹が心配そうに声をかけてくれたけど、俺は何も返せない。
そして、告白という言葉を聞いて、頭の中に思い浮かぶのは一人だけではなかった。
「まぁ、告白タイムの撮影はちゃっちゃと終わらせて、俺は女子部屋の撮影をしに行くんだけどな!女子の風呂上がりのシャンプーの匂い……寝る前の無防備な表情……
くぅ〜〜!!行ってきま〜〜す!!」
大樹がルンルン気分で襖を開けると、そこには先生が立っていた。
「戸田、そのまま私の部屋に来なさい。」
「はひぃ……」
大樹が先生に連れ去られ、暇になった俺は、ジュースでも買いに行こうと廊下に出た。
ロビーの自動販売機でミルクティーを購入して帰ろうとしたとき、テラスで空を眺めている彩香が見えたのでその隣に向かった。
「彩香は月を見るのが好きだよな。」
「え!?翔真、どうしたの。」
「ちょっと話したいなと思って。」
「そ、そっか。」
俺がそう言うと顔を少し赤くしながら彩香は目線を空に戻す。
その彼女の額には相変わらず”100”の文字が見える。
「綺麗だね、翔真。」
テラスから見える街の夜景は、見た事がないくらい光に溢れていて、本当に宝石箱のようだった。そして、向こう側見える海だろうか、ポッカリと暗闇が空いていて、その上に綺麗な満月が輝いている。
「フフッ。」
「え?な、何?」
「何でもないよ。」
そんな景色に見とれていると彩香が静かに笑って言った。
そして、俺の右手が何かに包まれる感触がした。
「え……。」
俺は彩香の方を見る。
横から当てられる街のと月の光は、彩香の大きな瞳の中でキラキラと光り、ゆらゆらと揺らめいている。
そんな彼女はとても綺麗だった。
「どうしたの?」
俺が尋ねても彩香は微笑んでまた景色を眺めるだけだ。
恥ずかしさで何を言えば良いか分からず、俺は顔を真っ赤にしたまま固まる事しかできない。
彩香の真意が分からないので、俺は夜景に目線を戻しダンマリを決め込む。
「修学旅行の二日目って告白が多いんだって。」
しばらくの沈黙の後、彩香の方が口を開いた。
「そうらしいね。」
「翔真はもう、した?」
「な、何!?何の事?」
「告白……誰かに……。」
「いや。」
「待ってるよ、きっと。陽菜乃ちゃんとか。」
「そうかなぁ。」
「そうだよ。今日も可愛いかったよね、陽菜乃ちゃん。きっと……陽菜乃ちゃんは翔真の事……。」
「シッ!誰か来る!」
俺は誰かが近づいてくる気配を感じ、彩香の手を引きテラスの椅子の影に隠れた。
「何やってるのよ、もう。」
「ごめん……。」
「この時間は班長会議で明日の発表の順番を決めるのに話してただけなのに。」
「本当に、ごめん……。」
女子の呆れたような声と、男子の平謝りする声が聞こえてくる。
「いや、この時間が告白タイムって聞いたから、谷さんが、その、告白されるんじゃないかって。」
「な!?……何、バカな事言ってるのよ……こ、子供ね。」
声の主は雄大と谷さんだ。二人は今まで俺たちがいた場所に並ぶ。
二人はしばらくの間、夜景を眺めていた。この間にどこかに行ければ良かったのが、テラスの出入り口は1つしかなく、出ようとすると気づかれてしまうため、雄大達が去るまで隠れるしかない。
「ねぇ……あんた、最近勉強頑張ってるらしいじゃない。」
「お、おう……。」
「べ、別にそんなに興味はないんだけど……なんで?」
谷さんは雄大が俺たちの前で〝谷さんと同じ高校に行きたい〟宣言をしていたのを見ている。知ってながら聞いたと言うことは、雄大にとっては告白のチャンスじゃないだろうか?
「それは……その……。」
雄大は言い淀んだ後、俺たちにも聞こえるくらいの大きな深呼吸を何度かすると、窓の向こう側をしっかりと見つめ口を開いた。
「べ……勉強が楽しくて、さ。」
「……。」
雄大は俺でも分かるくらいの大チャンスを逃してしまった。
谷さんは軽くため息をついて、
「ばーか……おやすみ。」
と雄大に言い残して、廊下の向こう側に消えていった。
残された雄大は景色をしばらく一人で眺めた後、
「俺はヘタレだ……。」
と呟き、トボトボと歩いていった。
「ハァ〜〜。雄大の奴……何やってんだよ。」
俺たちは二人がいなくなったのを確認して元の場所に戻った。
「翔真は何か知ってるの?」
「え?いやぁ〜……」
「もしかして、上田くんが勉強を頑張ってる本当の理由があるとか?」
「う〜ん。」
どう答えて良いか分からず悩んでいる俺を見て、理解したように彩香は「そっか」と頷いた。
「翔真も…」
「え?」
「翔真も本を読む理由が上田くんと似ていると、嬉しいな……。」
彩香は夜景を見ながら、優しく笑う。
夜景の光をそのまま映し込んだ彩香の横顔は、長いまつ毛も大きな瞳もキラキラと輝いていて、とても綺麗だと思った。何度も、同じ横顔を見てるはずなのに、今が一番綺麗だと思った。
「うん……」
俺は今更ながら彩香の可愛さに照れながら、雄大の真意に気づいているかもしれない彩香の言葉に、ただ小さく頷いた。
★★★★★
この度は
「LOVE GLASSES ~俺への好感度が0の彼女と別れたら、学校のマドンナ達が言い寄って来た。~」
を読んでいただきありがとうございます!!!!
ついに修学旅行も終わりに近づき、お話も最終幕に近づいてきました!
続きが読みたい!など思った方はぜひ、★やコメント、♥などを押していただけると嬉しいです。
みっちゃんでした( ´艸`)
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