第24話 見える水着姿

「修学旅行も今日で折り返しの二日目。今日は一日存分にこの海を楽しんでくれ。」


俺たちの前でそう話す先生の姿は皆の視界では背景にしかなっていない。

皆、海に飛び込んでいく時を今か今かと待ちわびている。


「それじゃあ、解散!!」

「「「海だー!」」」


先生の解散の声と同時に波打ち際の方まで勢いよく男どもが走って行く。

まだ水着じゃないことを忘れているのでは、と思ったがもう止めようもない。


海。久しぶりの海。俺も俺とて、やっぱり海を見るとテンションが上がる。

俺と大樹はレジャーシートを敷き、海の家で借りてきたビーチパラソルを立てる。


「じゃあ着替えたら準備運動な。」

「了解。」


そう言って俺たちは更衣室へ行く。

ライフセーバーや警備員による警備が行き届いているこのビーチだから、荷物を置いてみんなで離れても安全だ。


「お。翔真の海パン、イケてるねぇ。」

「ありがと。」


俺は白地に藍色のヤシの木柄のものを選んだ。

俺は言わなかったが、大樹のグレー一色の水着もセンス良いと思っている。


「そう言えば、今日は翔真は誰かと予定あるのか?」

「いや、今日は別にこれといったものはないけど。」

「珍しいな。てっきり坂原さんあたりと遊ぶのかと思ってたぞ。それじゃあ、今日は男同士楽しもうな。」

「そうだな。」


そんな話をしながら、着替えを済ませて浜辺に戻る。


「うっひょ~。これは、絶景だな~。」


俺たちの着替えが遅かったのか、すでに水着姿の男女で溢れかえっていた。


「ほら、噂をすれば見て見ろよ。」


そう言って大樹が指を指す方を見て見ると、そこには陽菜乃が海を眺めて一人で立っていた。

陽菜乃の水着はセパレートタイプで、白地に山吹色のハイビスカスの柄があって、上の方にはフリルがついているやつだ。下のにはパレオもついている。

はっきり言って、可愛い。


そう思いながら見ていると、視線に気づいたのか陽菜乃がこちらに気付き近づいて来る。


「翔真、今日一緒に遊ぼうよ。」


何を言ってくるかと思えば遊びの誘いだった。

俺は大樹に目配せすると、


「人数は多い方が良いからな。」

「ありがと、戸田君。」

「お礼なんていいって。それよりも坂原さん、良い水着着てるじゃん。みんな見てるよ~。」

「ありがとう。去年高校の友達とプール行った時に買ったやつなんだ。」

「そうなんだ。なな、翔真。坂原さんの水着どうだ?」

「あ、ああ。」


俺は突然大樹に話を振られたことに非常に戸惑っていた。

ここは完全に陽菜乃に「水着可愛いね」という空気だ。

実際、陽菜乃の水着が可愛いのは事実なのだが、いざそれを言い出すのは少々勇気がいる。


「可愛いよ… 陽菜乃… 水着…」

「ありがとう翔真。翔真の水着もカッコいいよ。でもそんなにカクカクすることもないのに。」

「良かったな翔真。陽菜乃に水着褒めてもらえてよ!ヒューヒュー!」

「なにがヒューヒューだよ…」

「ちょっと戸田君、何言ってるのよ。」


そんな話で三人で盛り上がっていると、いつから近づいてきたのか背後から声が掛けられた。


「翔真。私のもどう?」


振り返るとそこには彩香が立っていた。

彩香の水着は、黒に近い紺色のセパレートタイプのものだった。下はスカートっぽい。

少し昨日のことがフラッシュバックしたが、俺はそれをすぐに振り払う。


「彩香のも可愛いよ。」

「やったあ。ありがとう、翔真!」


女子の水着を褒めるという大イベントを二度もこなした俺の心臓のバクバクはしばらく続いた。その心臓のバクバクが続いている間、大樹は浮き輪を膨らませていた。


俺の心臓のバクバクが落ち着き、浮き輪も膨らませ終わったところで、俺たちは準備運動を済ませた。


「じゃあ、これからどうする?」

「早速海に入りましょう!浮き輪も戸田君が膨らませてくれたんですし。」

「そうだな!」


俺たちは早速海に入ることになった。

陽菜乃と彩香は水をかけあって遊んでいる。

学校三大美女の二人が海で水をかけあっているというなんとも眼福な光景を俺たちはそれを横目に海にしゃがんで大樹といろいろしゃべる。


「いや~。いいね~。」

「そうだな。」

「あの二人を見て気付いたけど、もう一人。今日見てないよな。」


もう一人というのはおそらく汐良せらの事だろう。


「あ~、多分それ、俺のせいだ。」

「そうなのか?」

「ああ。昨日の夜に部屋を訪ねてきて、話をしたんだけど、よりを戻したいって言われたんだ。だから、思いっきり完全に振ったんだ。それに、その時の好感度が…。」


するとそこへ、陽菜乃がやってきた。


「翔真、翔真!」

「陽菜乃?」

「えいっ!」


陽菜乃は突然、水を掛けてきた。


「うわっ!やったなー陽菜乃!」

「えいっ!」


そこに彩香も参戦してくる。

俺は陽菜乃と彩香にお返しとばかりに水を掛けようと追いかける。


「このー!」

「やったわね翔真!」

「陽菜乃達が先だろー!」


久しぶりの海。陽菜乃と彩香に突然水を掛けられたのには驚いたが、水の掛け合いっこは楽しかった。


「んじゃあ飯にするか。」

「そうだな。もう12時過ぎてるし。」

「賛成ー!」

「うん。」


というわけで俺たちは海の家で昼飯だ。

その海の家は、お客さんで大繁盛しているから、入るまでに時間がかかった。

もう12時半だ。


「海の家なんでもう小学校低学年の頃以来だよ。」

「そうなの?」

「ああ。それ以降は近くのコンビニとかで買ったもので食事済ませてたから。」


俺にとっては10数年ぶりの海の家。

メニュー表を見てみたが、どれにしようか迷う。


「私決めた!」

「陽菜乃ちゃん早いね。私はまだだなぁ… 翔真と、と、戸田君は?」

「俺もー。」

「俺もだなぁ… 1年ぶりの海だからなあ…」


しばらくして、俺と陽菜乃はカレー、彩香は焼きそば、大樹は味噌ラーメンと餃子、たこ焼きを注文した。


「いやー大樹はよく食うなぁ。」

「そうか?海で遊んでたらお腹空いちゃってな。」

「たこ焼きはみんなでシェアな。」

「ありがとう大樹。」

「ありがとうございます。じゃあ早速…。」


それからはそれぞれの料理をシェアし合いながら賑やかな昼食を済ませた。




――――――――――――――――――




キリが悪いので明日の19:00にも投稿します。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る