第23話 見える復讐

松浦まつうら汐良せら視点>



沖縄に到着してから、私は友達と一緒に楽しく観光していた。



その時、私は見てしまった。



ポツンと水の上に一つ浮かぶボートに乗っている二つの影。

その片方がボートでバランスを崩して、もう一つの影にのしかかり、覆いかぶさるところを。

その後その二つの影は、気まずそうにだが、仲良さそうに戻って来た。

そして、その影の正体が私の元カレである角田翔真と学校三大美女と言われる中の一人、増田ますだ彩香あやかであったと知った。


それから、私は一日そのことばかり考えていた。

何をしていても頭から離れない、ご飯を食べているときも、お風呂に入っているときも、布団に横になって眠ろうとしているときも。

これでは生活に支障が出ると思った私は、最後の先生の見回りが終わった後に本人に確かめに足を運んだのだった。


コンコン。


とドアを静かに叩く。

そっとドアが開かれ、中から翔真が出て来た。


「汐良!?どうしてここに。」

「ちょっと寝付けなくて、なんとなく翔真と話したいな~って思ったから。」


彼は小さく、驚きの声を上げたが、私は何事もなかったかのように答える。


「でも、先生が見回りしてくるかもしれないから戻った方が良いよ。」

「先生たち、さっきの見回りしたらそれ以降、来ないらしいし、うるさくしない限りは大丈夫らしいよ。」

「そうなんだ。」

「うん。だからちょっと話したいな。」

「話すのは良いけど、俺の部屋は大樹が寝てるから違う場所にしよう。」

「分かった。」


私がしつこくお願いすると、翔真は少し悩んで承諾してくれた。

そうして、先生たちに気付かれないようにホテルの近くにある海辺に抜け出した。





海辺に到着するまでは無言だったが、海辺に到着して二人並んで腰かけると翔真の方から話してきた。


「二人で話すのは久しぶりだな。」

「そうだね。」

「修学旅行は楽しんでるか?」

「うん、まぁまぁだね。翔真は?」

「初めての沖縄だから、思いっきり楽しんでるよ。」

「それは良かった。」

「ちょっと喉、湧いたから飲み物買ってくる。汐良は何かいるか?」

「ありがと、じゃあ、あったかい物がいいな。」


私がそう言うと、翔真はすぐに近くに自動販売機に飲み物を買いに行った。

それからしばらく一人で海を眺めながら待っていると、翔真が飲み物を二つ持って帰って来た。


「ほら。」


翔真はそう言って私の頼んだ、あったかい飲み物、紅茶のペットボトルを私に差し出す。その目はなんだかいつもと違う目つきのように見えたのは気のせいだろうか。


「ありがと。」


私はそれを受け取る。翔真の方は缶コーヒーにしたらしい。

二人ともそれぞれ一口、口に運び一つ呼吸を置いた後、翔真から再び口を開いた。


「それで?」

「ん?」

「俺に話したいことがあったから来たんだろ?」


私は翔真のその言葉に少し驚いたが、私はすぐに聞きたかったことをそのまま尋ねる。


「翔真、今日のお昼さ、ボート乗ってたでしょ?増田さんと二人で。」

「ああ。」

「それでさ、その時二人バランスを崩してそのまま……、ね?」

「また、見てたのか?」


翔真は私をそうやって睨んでくる。


「別に、付けてたわけじゃないから。それにそんなことしないよ。友達と観光してたら偶然。」

「そっか、そうだよな。汐良がそんなことするはずないよな。」


私がすぐに弁解すると翔真はすぐに私の言葉を信じてくれた。

やっぱり翔真は優しいな。


「それで、したんでしょ?その、キス、増田さんと。」


私だって翔真と付き合っているときにキスをしてないのだ。

私の見間違いの可能性もあると信じで恐る恐るそう聞いてみる。


「したよ。」

「……そ、そうなんだ。翔真は増田さんと付き合ってるの?」

「付き合ってないよ。」

「へ~、そうなんだ。じゃあ、好きなの?」

「何で汐良がそんなこと聞くんだ?」

「へ?」


そう言われて私は我に返る。

何で私はテンパってるんだ。一回私が振った元カレがどうなろう別に関係ないじゃないか。

どうして……。私、。



「クシュン。」


その時、夜の海風に長い間、吹かれていたせいか、気づかないうちに体が冷えてきたようだ。

寝間着一枚では太刀打ちできない。

私は縮こまって、体をすり合わせて暖を取ろうとしたとき、私の体を覆うように何かが掛けられる。


「そんな薄着で来るからだぞ。」


それは翔真が持って来ていた、アウターだった。

私は「ありがとう。」と感謝を告げて、翔真の方を向くと、思いのほか彼の顔が私の近くにあって、見つめ合うようにして固まってしまった。


月の光に照らされて、ぼんやりと見える翔真の顔はとてもかっこよく見えてしまった。

この時、私は確信した。

私は、彼のことが好きなのだと。

大切なものは失ってから気付くとはこのことだと実感したのだ。




「好き。」



そんな言葉が、いつの間にか口から出ていた。

そこからは決壊したダムのように、止めることなどできずに言葉が出てくる。


「私、やっぱり翔真のことが好き。浮気なんてしてごめん。誤っても許されるとも思ってない。だけど、もう一度やり直すことが出来るなら翔真とやり直したい。付き合って。」

「……汐良。」


私は目を瞑り、唇を彼の唇の方へ向けた。

そして、だんだん私の方に翔真の顔が近づいて来る気配がする。

彼の飲んでいた缶コーヒーの匂いがほのかに香って来る。

そして、私の唇に優しく何かが当たった。

それは、冷めた私の心と体を温めてくれるような、柔らかく温かいもの





ではなかった。




冷たく、硬いものだった。


私はゆっくりと目を開くと、私の口に当たっていた物が翔真の飲んでいた缶コーヒーであることが分かった。

それを持っている翔真の方を見ると、なぜか翔真の顔は笑っていた。



「汐良って本当に馬鹿だよな。」

「え?」

「浮気した上に俺を振った元カノの言葉なんか信じられる訳ないだろ。それに、俺はお前の事もうなんとも思ってないし、何なら邪魔でしかないから。あーあ、時間の無駄だった。騙されて当然。それに、騙される方も悪いだろ。別れて後悔するのはあんたの方だったな。」

「ちょ、ちょっと。」

「それじゃあな。そのコートはやるよ。もう着たくないしな。」


そう言って私の言葉なんか聞きもせずに翔真は私を置いて去って行った。


私はその時に何かが折れる音がしたのだった。


「本気だったのに……。」


目からあふれ出る涙は止まることなくその後流れ続けた。

その涙を月の光が綺麗に彩っていた。


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