第19話 見えるもう一人
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今日は
前から少し気になっていて、クラスマッチの打ち上げの時に何とか遊びまで誘う仲まではなることが出来た。
トイレに向かった私は、そんな風に思いながら鏡の前に立ってもう一度今日の自分と向き合い、いつもは付けない眼鏡をもう一度眺めてみた。
この眼鏡。
朝、玄関を出た時に家の縁側の方から何かが動く音が聞こえたので、音の方向に近づいてみるとそこには何もおらずに、地面にこの眼鏡が落ちていたのだ。
私は気になり手に取ってみると、とてもずっと落ちていたとは思えないほど綺麗だったので、その眼鏡を掛けてみる。
「伊達眼鏡だ。お父さんのかな?」
今日の格好に何かワンポイントが欲しいと思っていた頃だったのでちょうどいいと思って掛けて行くことに決めた。
「菜摘、まだ行ってなかったの?」
「あ、お母さん。この眼鏡、お母さんの?」
「知らないわよ。よく似合ってるけど、その眼鏡どうしたの?」
「ここに落ちてたんだけど、綺麗だったからお母さんたちか……な、って。」
その途中、私はお母さんの上に変な数字が出ていることに気が付いた。
70
何だこれ。
見たことないし、それに70って何の数字だろう。
「お母さん、その数字‥‥。」
「菜摘、早く行かないと遅れるわよ。今日は大事な子と遊ぶんでしょ。」
「ああ、そうだった。行ってきます。」
私はこの見えるようになった数字の意味が分かることなく、翔真との集合場所に向かった。
「おまたせ〜。」
「大丈夫だよ、俺も今来たところだし。」
「そうなの?それなら良かった。」
「今日は水族館だったっけ?」
「うん!それじゃあ、行こっか。」
翔真と合流すると、彼の頭の上にも数字が見えた。
お母さんに続いて二人目だ。
話している人の上にしか見えないのだろうか。
それに今度の数字は
50
お母さんの方が大きい数字だった。
二人で歩き出すとすぐに翔真が尋ねて来た。
「今日の格好似合ってると思うんだけど、なんだかいつもと雰囲気が違わない?」
「そうですか?いつも通りですけど……。菜摘さんって眼鏡かけてたんですね。打ち上げの時は掛けてなかったから。」
私は少しの変化に気付いてくれてとても嬉しい反面、この眼鏡が変な眼鏡だということはバレないようにしないとと恐怖の気持ちが出てきたので、私は咄嗟に隠した。
「えっ、眼鏡?……あっ、この眼鏡は伊達だよ。おしゃれでしょ。」
私が眼鏡をクイっと押し上げて可愛げに言ってみると、その瞬間翔真の頭の上の数字が50から51へと変化した。
上がった!?
何か可愛いことでもすると上がるのだろうか。
「なるほど……。」
私はこの数字の意味は分からないが、大きければ大きいほどいいのだと女の勘というやつが言っているので今日で思う存分上げようと思った。
コツメカワウソ、ペンギン、アザラシ、クラゲ、チンアナゴ。
私の持っている知識と、可愛さを存分に使って翔真と水族館を回った結果、今の翔真の数字は60までに到達したのだった。
そして、数字を気にしてこの1日過ごしていたおかげでこの数字の意味していることに気が付いた。
「好感度だ。」
そうと分かれば話は早い。
限界値がいくつなのか知らないが、翔真の数字を大きくしていかなければ。
そう思い、私はトイレから出たのだった。
トイレから出て、50メートルほど先に翔真が座っている姿が目に入る。
私は1つ大きく息を吐くと、気合いを入れて一歩を踏み出す。
が、その一歩は私の肩を掴む、誰かの手によって阻止されてしまった。
「なぁ、嬢ちゃん。一人か?一人なら俺たちと遊ぼうぜ。」
振り返ると、そこには二人の大学生らしき男が不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「あいにく待たせてる人がいるので、他を当たってもらえますか?」
「嘘言うなよ。一人なのに強がってるだけだろ。」
「そうだぞ。俺たちと遊ぶともっと楽しいぞ~。」
「辞めてください。」
私が逃げようとしても、腕を掴んできて逃がしてくれない。
助けを求めようと、さっき翔真がいたところに目を向けると、翔真が居なくなっいた。
私はこの瞬間頭が真っ白になった。
この人たちに連れていかれるしかないんだと悟った。
目を瞑り、祈る。
誰か。誰か、助けて。
「あーすいません。コイツ、俺の連れなんですけど何かありました?職員さん呼びましょうか?」
私はその声で目を開く。
私の腕を掴む手を、掴んでいたその声の主、翔真の姿がとてもかっこよく見えた。
翔真の登場で男たちは私から手を放し、舌打ちをして去って行った。
「すまん、飲み物買ってて気づくのが遅れた。何にもされてないか?
て言うか、菜摘、何で笑顔なんだよ。」
「かっこよかった。ありがとう。」
その言葉を聞き、翔真は少し照れた表情をした。
今日、初めて私の心の奥底から出た自然な言葉で、見える数字も変わったがそんなこと今はどうでもよかった。
今まで気になっている程度だったけど、多分この時私は彼のことを好きだと思ってしまったのかもしれない。
それからは、イルカショーなどを一通り見て回った後に、解散した。
私にとってはこれが大きな1日となったのだった。
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