第17話 見える修羅場

そして時は流れ、打ち上げ当日を迎えた。


「クラスマッチ優勝を祝して~!!」

「「乾杯!!!」」


高校近くのバイキング、樹の乾杯の音頭で打ち上げが始まった。

席は自由だったが自然と男女で別れて座ることとなった。

皆が食べ物を取りに行く流れに乗って俺も席を立ち取りに行く。


お肉から刺身、野菜にデザートまでいろんなものがそろっている。

俺は何を食べようか悩んでいると、


「角田、MVPおめでとさん。すごかったな。」

「角田、バスケ部に入らない?」

「優勝できたのも翔真のお陰だよ。」


とクラスの男子たちが寄ってたかって話しかけてきた。


「ありがとう!そんなことないよ。みんなのお陰だよ。」


俺は今日だけはいつもと違って気にすることが無いので心置きなく彼らと話すことが出来た。

席に戻っても話は弾み、俺は楽しい時間を過ごしていた。


「楽しそうだな。」


クラスメイト達と話していると大樹が話しかけてきた。


「やっぱりお前それ似合わないな。」

「そうか?俺は結構気に入ってるんだが。なんか、見てるだけで楽しいしな。」


大樹はそう言って掛けている眼鏡をクイッと手で直すしぐさをする。


「今日だけの約束だからな。」

「分かってるって。それじゃあ、そろそろ始めるか。」

「おう、頼んだ。」


それがそう言うと大樹は親指を立てて笑みを浮かべると、手を叩いてみんなの注目を集める。


「は~い、そろそろいい時間だし一回席替えしよう!!」

「いいね~。」

「男同士も飽きたしな。」


大樹のその提案に何人かが賛成の声を上げたことにより自然と席替えの流れになる。

俺は動かないで席に座っていると俺の周りの席が続々と埋まっていく。


「よろしく、角田君。私、天野あまの菜摘なつみ。菜摘って呼んでね。

 クラスマッチの角田君、とってもかっこよかったよ。」


俺の隣に座った彼女はそんな自己紹介をしてきた。


「ありがと、菜摘さん。」

「もう!呼び捨てでいいのに......。」


顔を膨らませてそう言う彼女を苦笑いしていると、俺の目の前にまた一人座って来た。


「久しぶりね、翔真。」


それは、とても見覚えのある顔だった。


「せ、汐良せら。久しぶり。」

「私と別れてからえらく人気者になったじゃない。」

「そ、そうかな。」

「角田君と松浦さんが別れたのって嘘じゃなかったんだ。」


汐良との会話に菜摘さんが入ってくる。


「今私は翔真と話しているの。あなたは入ってこないでね。」

「その言い方は無いんじゃない?松浦さん。」


汐良がそう菜摘に向かって笑顔だが、どこか殺意を感じる目で彼女に言うと、汐良の横にやって来たのは陽菜乃だった。


「来たわね、坂原 陽菜乃。あなたにはいろいろ話したいことがあったの。」

「それは奇遇ですね。私もあなたに聞きたいことがいくつかあったのよ。」

「あの二人、仲悪い感じ?」


バチバチににらみ合っている二人を見て何かを感じ取った菜摘さんが俺にそう尋ねて来たので、「さぁ。」と答えておいたが心の中はパニックだった。


修羅場だ、修羅場。


大樹が今、作戦を実行しているうえ作戦完了するまではここから逃げることは出来ない。

俺は菜摘さんに話を振り続け、対面の二人には当たり障りのない返事をしてこの時間を乗り切るしかなかった。

こんなことなら男同士で会話し続けた方が何倍もマシだと思う俺だった。





「「ばいば~い。」」


何とか修羅場を切り抜け、打ち上げは終了した。

精神的な疲れが大きく俺は一つ大きくため息をつくと大樹が話しかけてきた。


「修羅場だったな。」

「ホントだよ。寿命縮んだわ。作戦は上手くいったんだろうな。」

「安心しろ、こいつを掛けさせることは成功したぜ。」


大樹のやつ、作戦中にこっちを見ながらニタニタしていたが、しっかり作戦はやっていたようだ。


「これで失敗してたら殺すとこだったわ。」

「俺も結構苦労したぞ。お前の所に行こうとする増田さんを止めながら、この眼鏡を一瞬だけ掛けさせる高等テクニック。本来なら金銭を貰ってもいいぐらいだが、今回は許してやる。」

「お前、まさか。」

「ふん。お金の変わりだ。許せ。」


そう言って大樹は眼鏡を俺に返してくる。

こいつは抜かりが無いなと感心と呆れの念を抱いた。


「それじゃあ、俺は帰ることにするわ。お前も頑張れよ。」

「ああ。じゃあな。」


大樹と別れて俺も帰ろうとしたとき、メッセージが届いていることに気が付いた。



『今日は話せてうれしかったよ。突然なんだけど、いつか暇な日あるかな。次は二人でお話したいな。』


それは、今日お話しした菜摘さんだった。


『明日とかどうかな?』

『明日ね。オッケー。それじゃあ、明日の十時に駅前集合ね。』

『了解。』



二人でのお誘い。

これはMVPのお陰かなと思いながら俺は快く了承の返事をして、俺は帰宅したのだった。

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