第12話 見える考査
「おーい。おーい。」
目の前で振られる
「翔真、大丈夫?ここ最近ずっと上の空って感じだけど。弁当美味しくなかった?」
「いや、弁当はとっても美味しいよ。少し考え事をしてた。」
「困ってるなら私に相談してよ。」
「うん。ありがと。」
「そう言えば、考え事もいいけど、最近勉強してるの?」
「ん?」
「勉強よ。ほらゴールデンウイーク開けたらすぐに考査があるんだから。」
俺は
「あっ、そうだったね。俺は大丈夫だよ。」
「そう、それならいいんだけれど。」
「
「まあ、そうね。普段から予習復習をしていれば問題ないわね。」
本当に彼女の欠点はどこなのだろうか思うほどにすべてが完璧に見える。
俺も普段から少しづつ勉強しているためそこそこの成績だが、この時期になるといつも一人が頭の中をよぎる。
あいつは大丈夫だろうか、そんなことを考えながら
「美味い!」
★★★★★
弁当を食べ終わり
楽しそうに男友達と話しているところに俺は後ろからチョップする。
「大樹、団らんする余裕はあるのか。」
「痛っ、何すんだよ。」
そう言って大樹は振り返り俺を見ると
「なんだ、翔真か。お前の家に行った日から結構経ったけど麻衣の機嫌がちょっと悪いんだがどうしてくれるんだよ。」
「どうもしないよ。麻衣にはちゃんと次の約束したし。自分で何とかするんだな。」
「どう考えてもお前の事なんだよ。」
「お前は本当に何にもしてないのかよ。」
「……し、してないよ。麻衣のプリン勝手に食べたぐらいだし。」
「それだよ。それ。俺のせいにしてんじゃねぇよ。」
そんなどうでもいい会話の流れで聞いてみる。
「そんなことより、お前勉強の方は大丈夫なのか?」
「何の事かな~?」
「とぼけんな。ゴールデンウィーク明けすぐにある考査のことだよ。」
「あ~はいはい。分かってますって。」
俺が心配していたのはこいつのことだ。
去年も赤点ギリギリの点数をいくつもたたき出していたので俺が教えてやっていた。
「そんな態度するんなら今年は勉強教えないからな。」
「いやぁ、翔真様ご勘弁を。このわたくし目にどうかご教授ください。」
大樹は手を合わせて俺に頭を下げながら言う。
「それで、今はどのくらいやってるんだ?」
「ゼロ。」
「だろうな。」
俺は大きくため息をついた。
これから大樹の勉強をどうするか考えていると
「あっ。翔真お前ゴールデンウイーク暇か?」
いいこと思いついたと言わんばかりの顔で大樹がそう尋ねてくる。
「ああ、今のところはないぞ。勉強もしないといけないからな。」
「それじゃあ、俺の家に来て勉強教えてくれないか?な?いいだろ?」
俺にすごい勢いで詰め寄って来て、懇願してくる。
「分かったよ。」
俺はしぶしぶその提案にオッケーした。
「よっしぁ。」
「これで麻衣の機嫌も……。」
そんな大樹の小さな声は俺には聞こえなかった。
★★★★★
ゴールデンウイーク初日、朝の9:00。
俺は言われた通り大樹の家を訪ねていた。
大樹にしては珍しく、出来れば早い方がいいと言われた。
やる気があるのはいいことだと思いながら俺はインターホンを押した。
「はーい。」と中から女の人の声が聞こえ、しばらくしてドアが開かれる。
そして中から、いつか見たパジャマ姿で寝癖のついた麻衣が出てきた。
「お、おはよう。麻衣。」
「えっ!?翔真先輩!?どうして
「どうしてって、大樹に勉強教えに。聞いてない?」
動揺する麻衣に事情を説明していると、家の奥から大樹がやって来た。
「おお、翔真来たか。入れ入れ。」
俺はそう言われ家に入ろうとすると、麻衣に止められる。
「ちょ、ちょ~っと待ってくださいね~。」
ドアを閉めながらそう言う麻衣の眉間にはしわが寄っていた。
大樹のやつ麻衣に言ってなかったのか。
ドアが締め切られると家の中から声が漏れてくる。
「どういうこと!?翔真先輩来るなら言っておいてよ。みっともない姿見られちゃったじゃない。」
「え、言ってなかったっけ?」
「言われてないよ!」
「わるいわるい。でも、麻衣もこの前言ってただろ。サプライズだ!サ・プ・ラ・イ・ズ!」
その言葉の後、ドスっと鈍い音と共に大樹の叫び声が響き渡った。
あーあ、と思いながらしばらく待っていると、再びドアが開かれた。
出てきたのはさっきとは見違えるほど綺麗に整えられた麻衣だった。
「ごめんなさい、お待たせして。どーぞー。」
家に入ると奥には脛のあたりを痛そうにさする大樹の姿があった。
それからは何事もなくただ勉強をし続けた。
国語、英語、数学、英語、物理――――。
勉強ゼロ宣言は本当だったようで始めはとても大変だった。
逃げ出しそうな大樹を幾度となく引き留め、無理やりやらせる。
お昼には麻衣がご飯をごちそうしてくれた。
その後も勉強し続け、大樹の勉強がひと段落付き時間もちょうどいいので俺が帰ることにした。
俺が帰ることで喜ぶ兄と対照的にがっかりする妹だったが、
「また明日も来るね。」
という俺の言葉でその様子は反転した。
俺もこんなに長時間勉強したのは久しぶりだったので家に到着して、やることを済ませてそのままベッドに入った。
★★★★★
それから俺は毎日大樹の家に通い、勉強漬けのゴールデンウイークを終え、いよいよ考査を迎えた。
俺はまず問題すべてに目を通していく。
俺がこのゴールデンウイークで大樹に教え込んだ範囲で赤点を回避できるのか。
――――よし。
俺は小さく拳を握る。
ヤマもあたりほとんど重要だと教えたところばかりだ。
カンニングと思われない程度に大樹の方を見てみても、困っている様子は伺えない。
俺も問題を解き始め、答えを埋めていく。
国語、数学、理科とテストが続きついに、考査の終わりを告げる鐘が鳴った。
「終わった~!」
大樹のそんな声が響く。
「お疲れ。赤点回避できそうか?」
「ああ、翔真のおかげで楽勝だ。ありがとな。」
「いや、大樹が頑張ったからだよ。もう一度こんな思いしたくなかったら、事前に勉強しておくんだな。」
「へいへい。じゃあ、俺、勉強し過ぎて疲れたから帰るわ。」
「あいよ。じゃあね。」
大樹を見送り俺も家に帰った。
久しぶりに俺も勉強をたくさんしたからか、明日は土曜日ということもあり、家に到着するとそのままベッドで眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます