第2話 見える兆し

彼女の松浦まつうら汐良せらの浮気が判明した次の日。

俺はいつもよりも早く起床した。

いつもの時間に家を出ると汐良せらに遭遇してしまうため早めに学校に行くためである。

眼鏡を掛け、制服に着替え、顔を洗い、寝癖を直す。

玄関のドアを開くとお隣さんのドアも同時に開いた。

そう言えばお隣さんに会ったことなかったなと思いながら、挨拶をする。


「おはようご、z……。」


俺はお隣さんの姿を見て、固まってしまった。


「おはようございます。角田かくたさん。」


会ったことないのにどうして相手が俺の名前を知っているのか。

それは、お隣さんが同じ学校、同じクラスでもある学校3大美女の一人。

坂原さかはら 陽菜乃ひなのだったからである。

腰のあたりまで伸びる長く艶やかな黒い髪と整った顔立ちは見るものを引き付けるものがあった。


「今日はお早いんですね。松浦まつうらさんとは一緒に行かれないのですか?」


固まっている俺に対して陽菜乃は普通に話しかけてくる。

俺と汐良せらが付き合っていることはさすがに知っているようだ。


「あ、うん。色々あって、汐良せらとは今日、別れようと思って。」


俺は汐良せらのことを聞かれ、俯きながら何故か正直にそう答えてしまった。


「ホントですか!?」


すると、そう言って陽菜乃が勢いよく近づいてきて、俯いている俺の顔を覗き込んできた。


「は?」


俺はその瞬間、そんな声が漏れてしまった。

俺の顔を覗き込んできた陽菜乃の額の上に書かれている数字が信じられなかったからだ。陽菜乃に書かれている数字は



100



だった。

今まで、0とか大きくて60付近までしか見たことなかったのでとても驚いた。

それに好感度が100ということは俺のことが好きなのか?

でも、彼女とは高校に入ってからほとんど関わっていないはずだ。

好きになる理由がない。


「角田さん、大丈夫ですか?」

「ああ、うん。昨日色々あってね。」

「そうなんですか。」

「それより、早く学校へ行こう。」

「そうですね。」


そう言って、俺たちは二人並んで学校へ歩いて行った。

少し距離が近いと思ったのは気のせいだろうか。

陽菜乃とは明日からも一緒に学校に行きましょうと誘われたので二つ返事でOKした。


学校に到着すると俺たちはそれぞれ自分の席に座った。

俺は最近ハマっているミステリー小説を開いた。

しばらく読み、これからというところで背後から声を掛けられる。


「ねぇ、どうして置いて行くのよ。」


その声はもう聞きたくもない汐良せらの声だった。

俺はふつふつと湧き上がってくる怒りを抑えながら


「ちょっとお前に話がある。」

「な、何よ。改まって。それにお前って。」

「ここじゃ、場所が悪い。屋上に来い。」


そう言って俺は読んでいた本を閉じると、屋上へ向かった。


屋上へ到着し、汐良せらと向き合う。


「お前、昨日の放課後何してた?」

「な、何って普通に友達と遊んでただけなんだけど」


まさか昨日のことを聞かれると思っていなかったのか、少し汐良せらは動揺する。

額の数字は相変わらず0だ。

正直に言えば、少しは考えてやろうかと思ったがその必要はないようだ。

俺は昨日撮った写真を彼女に見せる。


「じゃあ、これは何だ?」


写真を見て、また一瞬動揺したがすぐさま弁解してくる。


「ごめん。魔が差したの。もう、この人とは関わらないから、会わないから翔真のこと大好きだから、今回だけは許して欲しい。

もうしない。約束する。」


彼女は涙目になりながら、上目遣いでそう言ってくる。その汐良せらの姿に一瞬気持ちが揺らぎそうになるが額の数字を見て、我に返る。

こいつは嘘を平気でつく女だ。


「どれだけ言われても許せない。別れよう。」


俺がそう告げると彼女は舌打ちをした。

そこから態度が急変した。


「あーあ、時間の無駄だった。そうだよ。浮気してたよ。あんたと居ても退屈で退屈で仕方ないんだよ。浮気されて当然。それに、浮気される方も悪いだろ。あたしみたいないい女はあんたに構いもしないだろうね。別れて後悔するのはあんたの方だから。」


そう言って彼女は屋上から去っていった。


「何だ、あの言い方。一生後悔なんかするもんか。逆に後悔させてやる。」


そう意気込んだ角田であった。


教室に戻ると俺の席の前で俺が読んでいた本を持ち、眺めている女の子がいた。

その子は、学校三大美女の残り1人の増田ますだ彩香あやかだった。

ショートカットにスラっとした体格。頭につけているワイヤレスのヘッドホンがとても大きく見えるような小さな顔だが、その姿はなぜかとても様になっている。


「あの〜、増田ますださん。」


ヘッドホンをつけているせいかこちらに気づいてくれない。

俺は勇気を振り絞り、肩を叩くとようやくこちらに気づいた。


「これ、の本?」


ヘッドホンの片耳部分を上げて、聞いてくる。

なぜか名前呼び。


「えっ?そうだけど。」

「そう。」


それだけ聞くと、彩香は直ぐに自分の席に戻って行った。


なんだったんだろうと疑問に思いながらも先生が入って来たので授業に入った。


その後は何事もないまま放課後になった。

大樹に寄りたいところがあると誘われ俺も予定はなかったので行くことにした。





「んで、行きたいとこって何でファミレス?」


俺はポテトを食べながら大樹に尋ねる。


「翔真、何かあったのか?」

「え?」

「お前、今日一日いつもと様子が違ったから。」

「大樹はすごいな。」

「一年もお前の友達やってれば分かるっての。それで?何があった?」

「……汐良せらと別れた。」

「フーン。・・・・・は?何で?」


大樹は豆鉄砲を食らった鳩のような顔をして聞いてくる。


「実は、汐良せら。あいつ、浮気してたんだ。」

「誰と?」

「他の高校の男子と。」

「へ~。松浦まつうら汐良せらってそんな人だったんだな。俺も見る目変わっちまうな。

 まあ、気づけて良かったじゃないか。花の高校二年生もまだ始まったばかりだし、新しい恋を見つければいいことだ。」

「大樹。ありがと。」

「ほら、元気出せって。今日は俺が奢ってやるからたくさん食べろ。」


それからはいろんなことを話しながら、一時間ぐらい食べ続けた。

支払いを終えた大樹は空になった財布を眺めて涙ぐんでいた。

そんな大樹の額の数字はこの間になぜかまた一つ上がっていた。


































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