不思議な眼鏡 編

第1話 見える秘密

俺、角田かくた翔真しょうまには誰にも言えない秘密がある。




が、見えるようになったのは高校二年の始業式の日だった。




いつもは鳴るはずのスマホのアラームがなぜかこの日だけは鳴らなかった。

スマホで時間を確認した瞬間、眠気は吹き飛び俺はベットから飛び起き慌てて身支度を整える。

眼鏡を掛け、寝間着から制服に着替え、顔を洗い、寝癖を直す。

去年一年間マンションでの一人暮らしをして、しみついたルーティンを何倍もの速さで行い、急いで家を出発する。


初日から遅刻しまいと全力で走り、学校へ向かう最後の曲がり角に差し掛かる。

俺はスピードを緩めることなく曲がった。

がそれがいけなかった。

曲がった先にいた人とぶつかってしまい、その衝撃で眼鏡が外れてしまった。

俺は急いで眼鏡を手探りで探しながら、ぶつかってしまった相手に謝る。


「すいません」

「いや、大丈夫だよ。はい、これ君の眼鏡」


そう言って、スーツ姿の男の人が俺の眼鏡であろうものを渡してくる。

眼鏡がなく目がよく見えない俺は感謝を言いってそれを確認することなく受け取り、付け、再び学校に向かって走り始めた。

違和感は全く感じられなかった。




誰もが聞き馴染んだ恒例のチャイムが鳴り始めたと同時に俺は教室のドアを勢い良く開いた。


「角田、遅いぞ~。初日だから今回は大目に見てやるが、次からは遅刻だからな~」

「はい、すいません」

「それじゃあ、ホームルーム始めるぞ~」


担任の深田先生に注意されながら自分の席に着く。

鞄の中からタオルを取り出し、眼鏡を外す。

久しぶりの全力走りで汗をかいてしまった俺が拭いていると、前の席の戸田とだ大樹だいきが話しかけてくる。

身長も体つきもしっかりしていて、いい奴なんだが少し調子に乗ってしまう所が気になる点ではあるが、去年も同じクラスだった俺の数少ない友達でもある。


「翔真が遅刻ギリギリとは珍しいな」

「なんでかスマホのアラームが今日は鳴らなくて」

「それはそれは大変だったな」


”68”


俺は汗を拭き終わり、再び眼鏡を掛けなおすと大樹の額の所に68と数字が書いてあるのに気が付いた。俺がその不思議な数字を何者かと睨みつけていると、それに気づいた大樹が声を掛けてくる。


「どうした?俺の顔に何かついてるか?」

「ああ、うん。大樹ちょっといいか?」


そう言って俺は大樹の額の数字に触ろうとしてみるが、俺の手はその数字に触れることなく通り過ぎてしまい、大樹のおでこに触れた。


「なんだ?」

「ああ、すまん。俺の見間違いだったわ」

「そうか。そんなことより、翔真、眼鏡変えたのか?新学期で心機一転、イメチェンか?」

「へ?」


そんな指摘を大樹にされ俺は不思議に思う。なぜなら俺は高校に入って眼鏡を変えた覚えはないからである。

俺は眼鏡を外し目に近づけよく見てみると、いつもしている眼鏡とは少し形状が異なっていることに気が付いた。


「……ホントだ」

「……は?」

「…あっ、いや、そうなんだよ。春休みに買い換えたんだ。前のやつは度が合わなくなってな」


俺はこの時なぜか咄嗟にデタラメを言ってしまった。


「なるほどな。その眼鏡も似合ってると思うぞ」

「ああ、ありがと。そうやってすぐ気づいて、褒めてくれるお前のそういうとこ俺は好きだよ」


俺が笑顔でそう返すと、大樹は「なんだよ~。」と照れた顔をした。


”69”


この瞬間、額の所の数字が68から69へと変わったのだ。

どうして数が増えたのか?

それに周りを見渡しても誰の額の上にも数字は見えない。

大樹だけなのか?

それにこの眼鏡、絶対ぶつかったときに間違えたんだ。

でも、これはぶつかった相手の人が渡してきたんだ。

間違えるだろうか。


「…角田。‥‥角田~!」


俺がそんな風に考え事をしていると、先生の大きな声が耳元に響いてきた。

俺はふっと我に返りると、隣に深田先生が立っていた。


「今先生が言ったこと、聞いてたか?」

「……すいません。聞いてませんでした」


その先生の額の上には45という数字が書いてあった。

そう答えると、先生は俺の頭を軽く叩いてきた。


「ちゃんと話聞いておけ」


そう言う先生の額の数字は45から44へ下がった。

そして、先生が教壇に戻って行くとしばらくして見えなくなった。

俺はもう一度、大樹に目を向けるとクスクスと笑っている彼の上はもう数字は見えなかった。




俺が通う学校には三大美女と呼ばれる人が存在する。

それも三人とも俺と同じクラスである。

自慢では無い。

なぜ今こんなことを言ったかというと、三大美女の一人である松浦まつうら汐良せらは俺の彼女だからだ。

これは自慢だ。


高校入学して早々彼女に一目ぼれをした俺は地道に距離を縮めていき、やっとのことで彼女と付き合えたのだ。

始めは、何であんな奴が俺なんかと、などと冷ややかな眼差しで見てくる目もあったがそんな嫌なことも彼女の笑顔を前にすると一瞬で吹き飛んでいった。

付き合って約半年間あまり恋人らしいことは出来ていないが俺は彼女の笑顔が見られるだけで幸せだった。


今日一日学校生活をしていてこの眼鏡について分かったことがいくつかある。

まず、この数字が見える条件だが、これは俺と会話している相手に見え、会話を終えてしばらくすると見えなくなるということ。

そして、この数字。

今日俺と話した中で一番高かったのは大樹の69。

そのほかはどんな人も30~40前後の人ばかりだった。

この数字の表すことは分からないがおそらく俺に関係する何かだろう。



時間は放課後。


「翔真、一緒に帰ろ~。」


授業が終わり、帰りの支度をしていると汐良せらが呼びかけてきた。

俺は軽く返事を返し、急いで準備を終らせ彼女の方を見ると、彼女の額の上に数字が見えた。

その数字を見て、俺は驚いた。


今、目の前にいる俺の彼女である汐良せらの頭の上に書かれている数字は







俺は再び考えた。仲がいい人は決まって数字が大きかった。数字の意味、0の理由、それがなぜ彼女である汐良せらに現れているのか。俺が今日一日集めた情報はこのことでまたぐちゃぐちゃになった。


俺は帰り道の間も考え続けて、会話の内容が全く入ってこなかった。





家に帰っても数字の謎は解決することなく、俺は考え疲れ気分転換がてらベッドに横になり、スマホをいじり始めた。

すると、一つ目に留まるニュースが目に入って来た。


『人気番組「好感度を下げておこう」 視聴率は上がり、好感度も上がる一方』


それは、最近始まった人気テレビ番組のニュースだった。


「好感度……。下げる……。上がる……。」


そのニュースを見て、今日の出来事の全てが繋がった。

数字が上がったり、下がったり。

友人の大樹の数字が大きく、あまり関りのない人は少し小さめな数字。


「やっぱり、好感度‥なのか…?」


彼女である汐良せらの数字を見るまで俺の中でもそうなのではないかと思っていた。

しかし、あの数字が好感度を表しているとなると彼女の汐良せらの数字が”0”だったことの理由が分からない。彼女なら好感度は高いはずだからだ。


「明日、確かめてみるか。」


今日は普段使わない頭をふんだんに使って疲れたので、残りは明日の自分に任せることにして、眠りについた。





日は跨ぎ、翌日の放課後。


俺は彼女である汐良せらを尾行していた。

汐良せらとは放課後、基本的には一緒に帰ることになっているが時々彼女の都合で帰らない日がある。

それが今日だった。

つい昨日までは毎日一緒に帰るのは大変だし、一人の時間や友達との時間も必要だと思って納得していたが、最近はその頻度も多くなっている気がしていた。

もしかして、何か隠しているのではないか、そう思い尾行するに至ったのだ。


残念なことに俺の予想は当たってしまった。


汐良せらは学校近くの公園で他の高校の男子と合流すると仲良さそうに腕を組み歩き始めたのだ。彼女には他の男がいたのだ。


この瞬間、俺が見えるようになった数字の正体が好感度であることの可能性がグンと上がった。

しかし、まだ信じられない俺は心が痛むのを堪えながら汐良せらの尾行を続けた。


俺が付いてきているとは知らない彼女たちは、ショッピングモールでおそろいの服を買いペアルックをしたり、ご飯を食べたり、一緒にゲームしたりして汐良せらは今まで約半年間付き合って来て俺とはしたことのないような恋人らしいデートをしていたのだ。




夜も遅くなりショッピングモールを出てそろそろ解散かと思いきや、家の方とは反対側に歩き始めた。


俺は最悪の事態を目にした。


彼女らが向かっていたのはホテルだった。

それは普通のホテルではなく、大人の男女がそう言うことをするために入るホテルだった。

さらに入って行くときにかすかに彼女たちの声が聞こえた。


汐良せらって彼氏いるんだろ?こんなことしていいのかよ。」

「いいのよ。あいつの事なんてこれっぽっちも好きじゃないんだから。

 私にとって、良いカモよ。」

「お前、ホントに悪女だよな。そんなお前がいいんだけどな。」

「もう、やめてよ。」


そう言って彼女たちは入って行った。



その瞬間俺の中の何かが切れる音がした。


この約半年間、汐良せらと過ごした時間、彼女に費やしたお金、すべてが無駄になった瞬間だった。

どうして俺はこんな人を好きになってしまったのか。

こんな人を好きになってしまった俺が憎い。

全部、無駄だった。俺は最初から弄ばれていたのだ。


俺は思考を巡らせて一つの結論にたどり着く。


俺は彼女らがホテルから出るところをスマホのカメラに収めその日はそのまま家に帰った。



★★★★★




この度は数ある作品の中から


「LOVE GLASSES ~俺への好感度が0の彼女と別れたら、学校のマドンナ達が言い寄って来た。~」


を読んでいただきありがとうございます!!!!


思い切って書き始めた作品のため、どうなるか分かりませんが頑張って書きたいと思いますので、続きが読みたい!など思った方はぜひ、★やコメント、♥などを付けてくれると嬉しいです。


今後こうなって欲しい、どの子がかわいいなどコメントを残してくれると嬉しいです。


みっちゃんでした( ´艸`)




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