第22話 真剣勝負はプライドの味

「もう、カッパたちに気づかれちゃったじゃない!」


「あんたがエドワールさんの股間ばっか見てるから、転んじゃったんでしょう?」


「はあ? こっちは息を殺して頑張ってんのに、エドワールさんの上腕二頭筋を見てハアハア興奮し始めたのは、どこの誰よ」


 三人は、醜い顔をさらに醜くゆがませて驚くカッパ三人衆と、混乱するエドワールをよそに、激しい口論をおっぱじめてしまう。

 

 三人が着ている服は……ああ、猪を狩ってドロップした、レアアイテムではないか。

 エドワールは、アイテムのステータスを想起する。



【獣衣の隠蓑】


レアリティ:S

防御力 ×5


特殊効果

 装備中、敵から発見されなくなる。



 そうか。特殊効果が強すぎたゆえに、【獣衣の隠蓑】を装備した三人は、カッパはおろか、エドワールからも姿が見えなくなっていたのだ。


 それにしても……。


「どうしてこんな所にいるんだ?」


 もみ合う三人が、一斉にエドワールの方を向いた。


「アメリエル姉さんが、エドワールさんの様子が気になるっていうから、こっそり後をつけてきたのよ。寒いから、あたたかい洋服を羽織ってね」


「グワァ、グワァ、グワアアッ!」


 するとカッパたちが、腹を抱えながら、おっさんがえずくかのような、例の汚らしい鳴き声を発した。


「アカネッ! 貴様が今日、俺とグッチャネをするアカネなのかっ!」


 一番背の高いズン太が、さも嬉し気にくちばしをパクパクさせながら、聖女クレナを指さし、歩み出てきた。


「ペロ吉、ヨシ坊、一番最初にグッチャネをするのは、この俺だ。てめえらは自分のチンポでもしゃぶりながら、後ろで見学しておけ。わかったか」


「……はい、兄さん」


「……はい、兄さん」


 反抗のできない二体のカッパを差し置いて、ズン太は、ぐんぐんと聖女クレナの許へ近づいてゆく。

 

 ああ、ズン太が腰に巻いた藁のパンツが、みるみるうちに盛り上がってゆく。

 藁の隙間から、元気よく屹立したマラ棒の先端が姿を覗かせる!


「下品な下半身のブツを鎮めてから、私に物を言いな。できないのなら、とっととこの村を出ていけ! このキュウリインポ野郎!!」


 聖女クレナは、ズン太を睨みつけて、物凄い剣幕でどなり込んだ。


「……生意気な女だ」


 すると、ズン太の目の色が明らかに変わった。

 目の奥にあるのは、怒りでメラメラと燃える暗い炎。

 トロンと緩み切った目尻は、今やキリっと鋭く逆立っている。

 

 短気、短期っ! 女に言い負ける、哀れな奴っ!

 

 しょんぼり体を縮こまセるペロ吉、ヨシ坊と、聖女クレナの罵倒にうろたえ腹を立てるズン太の様子は、なんだか反抗期の幼児みたいで、見ていて非常に愉快なのだが……この際、仕方がない。

 これ以上、カッパを泳がせて馬鹿にするのは、三人に危険がともなってしまう。

 

 エドワールは、特殊スキルを発動させて、さっさと終わりにしようと体に力を入れた。


「……貴様、俺と相撲で勝負しろ」


「ええ、望むところよ。私はダンジョン攻略の経験があるの。全身緑のキモいヒョロガキに、力比べで負ける気がしないわ」


「俺が勝ったら、貴様とグッチャネをさせろ。ただのグッチャネじゃねえぞ。果てしないグッチャネだっ! 遠慮なくソクソクする、気が遠くなるほど果てしないグッチャネだっ!!」


「じゃあ、あたしが勝ったら?」


「この村を出て行ってやる。あいつらも連れてな」


「ふん、決まりね」


 聖女クレナとズン太が、同時にエドワールの方を見た。


「おい、そこの男。貴様が行司をしろ」


「エドワール、このカッパがずるをしないか、横で見張っていてちょうだい。これは、私とキュウリインポ野郎の真剣勝負なの」


「その呼び名はやめろっ! 俺はズン太だっ! ズン太様と呼べっ!」


 ああ、なんだか知らないが、いつの間にか聖女クレナとズン太の間で、互いのプライドをかけた勝負の契約が成されたらしかった。

 

 面倒なことになった。

 第三者であるエドワールが、ここで二人の間に手を入れようものなら……せっかく得た聖女クレナの好意は、無残に散り去ってしまうことだろう。

 

 どうやら、真に危険な状況におちいった時まで手を引っ込めておくのが、得策らしかった。


「あの、行司ってなんだ?」


「こっちへ来い。中に土俵がある」


 ズン太は、エドワールを無視すると、ぼうっと突っ立つペロ吉、ヨシ坊を手で押しのけ、フンと鼻を鳴らしながら、ズカズカと馬小屋の中へ入っていった。


 理解が追い付かず呆然とするエルネットとアメリエルを置いて、聖女クレナもズン太に続く。


「ちょっと、エドワールも早く来て」


「はあ……」


 こうして、訳のわからない相撲勝負が、草木も眠る真夜中に行われることになったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る