第16話 しりとりは恋の味
だが、架空の食料のためには従わざるを得ない。
三人は反対側を向いて、だらしなく萎んだマラ棒を露わにした。
美女三人が、マラ棒の、そのあまりに貧弱な様子に、プハアッと吹き出す。
「よろしい。こんどは、マラ棒を握りしめ、俺のレベルの分だけ上下にしごけっ!」
ああ、鬼畜極まりないエドワールの指示に、三人は石のように固まってしまう!
「どうした? 俺の言うことを聞けないのか。絶品の木の実が欲しくはないのか?」
三人は、まるで別の誰かに操られているかのような、不自然極まりない所作で、己の貧相なマラ棒を握りしめた。
「よろしい。俺のカウントに必ず合わせるように。言うまでもないことだが、もし仮に、『おもらし』をするようなら、木の実はなしだ。わかったか? それでは……はじめっ!」
エドワールは、「いーーち。にーーいい。さーーん」と、あえて間延びのしたカウントをしてやる。
三人は、エドワールのカウントに合わせて、機械人形みたく、腕を上下に動かす。
ああ、これほどゆっくりとしたペースでは、性感などもっての他、生殺しに違いない!
これは、美女の眼前で、虚無な自慰を強制させることで、男の尊厳とプライドをズタボロに打ち砕く、残酷極まりない責め苦なのだ!
「にじゅうーー。にじゅうーーいち。にじゅうーーに……」
すると、カウントが奴らのレベル帯の数字まで進んだところで、三人の様子がおかしくなってきた。
先まで萎み切っていたマラ棒は、今やピンと反り立ち、青黒い血管の筋を浮き上がらせている。
加えて、下半身をモゾモゾさせながら、しきりに太股をピクピクと痙攣させているのだ。
「にじゅうーーなな。ちゃっ。にじゅうーーはち。ちゃっ」
カウントの合間に、『ちゃっ、ちゃっ』と不快な音が聞こえてくる。
ああ、まさか……早漏で候!!
三人は、快感と屈辱の谷を激しく行ったり来たりしながら、架空の木の実のために、必死に歯を食いしばって耐える。
「ななじゅうーーいち。ななじゅうーーにい。ななじゅうーーさん」
ここで、三人の我慢が限界を迎えた。ンンーーッと足を突っ張って、三人同時に空砲を発射!!
「おもらしっ! おもらしっ!」
哀れな男たちの様子に、美女三人は手を叩いて大爆笑。
「俺のレベルには、まだ達していない。カウントは終わっていないぞ」
三人は、残り僅かな体力を空虚な射精に使い果たし、もはや力尽きたと見え、ぐったりと頭を下げて、静かに地面を見下ろしていた。
「仕方ない。約束を破った罰だ。お前らに木の実はやらん」
「そんな……どうか、どうか私たちをお助けください」
干からびたマラ棒をブラブラ揺らし、真っ赤に腫れあがった尻を露出させながら、剣士ハンスを筆頭に、今度は半ベソの態でエドワールにしがみつく。
「食料なら、床に落っこちてんだろう? あんたら自家製の、よくこねくり回したミルクがよおッ!!」
三人の顔面にペッと痰を吐きかけると、エドワールは背を向けた。
「村へ行こう、エルネット、アメリエル、聖女クレナ」
エドワールは、ぴったり身を寄せる美女三人を腕で抱擁しながら、ボス部屋を後にした。
床の残飯をすする『ジュルル』という汚らしい音が、背後から聞こえてきた。
「あとどのくらいで、村に着くんだ?」
三人の美女は、我先に、我先にと、エドワールの質問に答えようとする。
「そうねえ、あと十分くらいかしら」
「違う、まだ森も見えていないんだから、ニ十分はかかるわ」
「あら、だったら私の〈後方支援〉で脚力を高めて、歩行スピードを上げてさしあげましょうか? ……って、あなたたち、さっきからエドワールさんにくっ付きすぎなんじゃない?」
「あなたこそ、ずっと腕にしがみついて、それじゃあエドワールさんが歩きずらくて仕方ないでしょう」
「いやだ、エドワールさんの股間ばっか見ながら歩いている人に言われたくはありません」
三人の美女たちは、エドワールへ好意を寄せるあまりに、事あるごとに互いに敵意を剝き出しにして、エドワールの争奪戦をおっぱじめてしまうのである。
「まあ、まあ、三人とも、そう喧嘩なさらないで。僕はみなさんと平等に仲良くしたいのです。そうだ、村に着くまでの間、しりとりでもしませんか。仲良くゲームでもすれば、気も紛れるでしょう」
「いいですわ。じゃ、私から。『エドワールさん、カッコいい』」
エルネットは、食い気味にそう言い放った。
他の二人も乗り気のようで、眼圧を高めながらエドワールをじっと見つめて、エドワールの回答を今か今かと待っている。
「俺の番か。い、い、い……板垣退助っ!」
「次は私ね。『結婚したい、エドワールさんと』」
アメリエルは、エドワールの薬指をスリスリと擦りながら、そう言った。
「また俺だな。と、と、と……とりもちっ!」
「最後は私ね。『チューする?』」
聖女クレナは、唇を尖らせながら、そう言った。
「ええと、る、る、る……ルンペンっ! ……あ、んだ!」
「エドワールさん、変なのお」
「すまない。俺の負けだ。もう一回最初からやり直させてくれ。じゃあ……味の素っ!」
そうこうしているうちに、鬱蒼と木々の生い茂る森が、目の前に見えてきた。
「あの森を抜ければ、私たちの村が見えるはずです。『男前、すてき』」
「そうか。時折、森には危険なモンスターが現れると聞く。くれぐれも俺の許を離れないようにな。ええと、き、き、き……キリマンジャロっ!」
森の中は、怪しげな暗闇に包まれていた。
一歩足を進めるたびに、やけに冷えた空気が、エドワールの頬をかすめる。
「私、怖い。行きは、もっと明るかったのに」
エルネットは、しりとりの順番も忘れて、エドワールの体にぴったりと寄り付く。
「森は生きているからな。刻一刻と、その姿を変えるんだ」
他の二人も、森に漂う薄闇に怯えていると見え、磁石のようにエドワールから離れようとしない。
すると、次の瞬間。
あたりの木々が、一斉にガサガサと揺れ始める。目の前の茂みから、なにか巨大な影が、ヌッと立ち現れる。
「俺様の森に、勝手に立ち入るとは、いい度胸をしているな」
地響きのような低い声とともに現れたのは……巨大な猪! エドワールの身長の、優に三倍は超えるだろうか。
口元から覗いた鋭い二本の牙は、ヌラヌラとした光を放っている。
猪は、よく発達した鼻から、蒸気のような息を噴き出して、こちらを威嚇している。
体中に刻まれた傷跡が、猪の年齢の高さを物語っていた。
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