第15話 復讐はざまあの味

 三人は、微動だにしない。


「聞こえてんのか? そこをどけ」


 ああ、この期に及んでまで三人は、必死にちっぽけなプライドを守ろうと、エドワールの言葉を無視して、進路からどこうとしないのだ。

 

 まったく、理解力のない奴らめ。エドワールは分らせるために、「ステータスオープン」と唱え、三人の肩を触った。



エドワール・ルフレン


レベル:90

体力:780

攻撃力:300

防御力:300

素早さ:300


【固有スキル】

大食い


【特殊スキル】

鋭爪連斬+100

煉獄の超咆哮

転送魔法・上級

豪雨風ノ手裏剣



 ああ、もはやカンスト寸前!! レベル30にも満たない攻略パーティーの面々は、エドワールの敵ですらもないのだ。


「分かったか、カスども。てめえらの固有スキルなんぞ、大食いに比べれば、ゴミに等しいんだよ」


 エルネット、アメリエル、聖女クレナ、三人の美女たちは腕を組んで、情けない男たちをじっと睨みつける。


「……ひどいな、クレナ。ついさっきまで、一緒にダンジョンを攻略していたじゃないか」

 

 剣士ハンスが、弱々しい声で、そう言った。


「弱者に人権などない! てめえらが教えてくれた人生の教訓だわ、ボケ!」


 三人は、言い返す言葉もなく、さも悔しそうにギリギリと歯ぎしりをしながら、両の拳を握りしめ、少し横にずれる。


「それじゃあ通れないだろう。もっと横にずれろ」

 

 カニみたく、ちょこまかと横にずれる三人。往生際が悪い。なんだか腹が立ってきた。

 

 そこでエドワールは、三人をからかってやることにした。


「おい、どうして俺が、こんなにピンピンしてるか、わかるか? 実はな、ダンジョンの途中で、絶品の木の実をみのらせる、不思議な大樹を見つけたんだよ。おかげで、食糧に困ることがなくなった。もし貴様らが、俺の言うことを素直に聞けば、木の実を別けてやってもいいんだが、どうする?」


 当然、そんな木がこの世にあるはずはない。真っ赤な嘘である。


 するとたちまち、死人のように光を失った三人の瞳が、キラッと輝きを取り戻した。目は口ほどにものを言うのである。


「欲しいっ、食料が欲しいっ!」


  窪んだ頬をパクパクさせながら、三人はエドワールの足元へ、決死のスライディング土下座をかました。


「エドワール様、どんなことでも、なんなりとお申し付けください」


  ああ、自分の欲にだけは正直な、浅ましい奴らである。

 へこみ切った腹をピクピクと痙攣させながら、まるで神の威光でも目の当たりにしたかのように両手を掲げ、ヒラヒラと揺らして見せる。


「よし、物わかりのいい奴らだ。じゃあまずは、立ってケツを出せ。ケツを出して、こっちに向けてみろ」


  三人は、まるで時が止まったかのように一瞬静止すると、思い出したかのように立ち上がり、すぐさまズボンをずり降ろしはじめた。

 極度の飢えが、屈辱を上回った瞬間だった。

 

 美女三人から、プププと含み笑いが漏れる。

 

 またたく間に、エドワールの前には、三つの汚らしいケツが並んだ。


「よろしい。こんどは自分のレベルの数だけ、手のひらでケツを叩け。叩く際には、大きな声で数字をカウントするように。合図の後に開始だ。ではいくぞ、カウント、始めっ!!」


  ボス部屋に、エドワールの快活な声が、朗々と響き渡った。


「いちっ! パチン! にいっ! パチン! さんっ! パチン!」


 三人は、大声で数字をかぞえながら、自らの手のひらで思い切りケツを叩き始めた。

 岩のように硬いケツが、ブルン、ブルンと波打つ。

 

 ああ、なんて馬鹿らしい光景なんだ。

 だが今や三人は、エドワールが放つどんな指示にも従わざるを得ない状況に立たされているのだ。

 

 一年間自分を虚仮に扱ってきた奴らを自由に操作できる、優越感といったら!! それが、素晴らしい快感だのなんの!!!


「ハイ声を揃えて。少しでも力を緩めたら、最初からだぞ」


「……にじゅうっ! パチン! にじゅういちっ! パチン! にじゅうにっ! パチン!」


 するとそこで、魔術師カエサルのカウントが、ぴたりと止まった。


「あれえ、カエサルさん、たったそれだけのレベルなんでちゅかあ?」


 真っ赤に腫れあがったカエサルのケツが、悔しそうに小刻みに震える。

 次いで、暗殺者セバスターが24、剣士ハンスが28で、愉快なケツ叩きを止めた。

 

 三人のケツは、まるで炭で炙ったかのように、赤く変色していた。


「貴様らのレベルは、そんなものか。ふん、よろしい。こんどは、俺のレベルを教えてやる。さらにズボンを降ろして、反対側を向け」


 ああ、三人は、小鹿みたく震え上がらずにはいられなかった。

 既に知っているのだ。エドワールのレベルが90という途方もない数字であることを。

 

 そして、反対側を向けば、『なに』が露出するのかということも。

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