第14話 勝利はハーレムの味

「特殊スキル、豪雨風ノ手裏剣、発動!」

 

 すると地面から、モクモクと風が巻き上がり、やがて風は竜巻のような渦を形成し、ボス部屋にビュウビュウ吹き荒れ始めた。

 

 そのあまりの風力に、多頭竜の体がフワッと持ち上がり、クルクル回転しながら、ボス部屋の天井付近まで浮遊する。

 

 そこへすかさず、数千数万の、先が針のように尖った鱗の手裏剣が、多頭竜へ襲い掛かる! 

 

 強烈な風力によって、手裏剣の速度はみるみる上昇し、多頭竜の体に到達する頃には、音速を超えていた。


「ヘイ、多頭竜さん。自分の技で串刺しにされる気分はどうだい? 過激な指圧マッサージってか? エエア?」

 グサッ、グサッ、グッサア!!


 手裏剣は容赦なく多頭竜の肉を引き裂き、骨を打ち砕いた。


 ボトリッ。風が止み、音を立てて多頭竜は落下する。

 あれほどまでに強者のオーラを放っていた多頭竜の体は、今や至るところに手裏剣が突き刺さった、ハリネズミのような痛々しい容姿に変わり果ててしまった。

 

 ああ、試食程度の味見で、これほどまでに強力な特殊スキルを会得できてしまうなんて。

 

 ぐう。エドワールの腹が鳴る。ここで、固有スキル〈大食い〉が発動したのだ。

 

 エドワールは、突き刺さった鱗を一本一本丁寧に引き抜きながら、多頭竜の肉にかぶりつく。

 

 やはり、旨い! 煉獄の超咆哮の熱がほどよく入っていて、さらにコクが増している! まさに、叙○苑のカルビッ! 肉の王様ッ!! キングキングッ!!!!

 

 討伐した多頭竜を綺麗に平らげると、ふと足元に、変わった形の剣が落ちていることに気が付いた。

 竜の尻尾を模した柄に、竜の頭を模したガード。ウネウネとうねった刃には、赤色の宝石が埋め込まれている。

 

 これは、退魔の剣じゃないか。

 強くなり過ぎたエドワールにとって、こんなもの、もはや不要なのだが、まあ一応、貰っておくことにしよう。

 

 エドワールは、抱き合うエルネットとお姉さんの許へ駆け寄る。


「もう安心ですよ。ご覧の通り、ボスはペロッと平らげてしまいましたからね。あ、これ、手土産です。家の玄関にでも飾っておいてください」


 お姉さんは、退魔の剣を受け取ると、すかさずエドワールに抱きついた。


「ありがとうございます。感謝しても、しきれません」


「いえ、とんでもありません。よければ、お名前をお聞かせ下さい」


「私はアメリエルと申します」


「アメリエル。素敵な名前ですね」


 それにしても、至近距離で眺めるアメリエルの美しさといったら。

 港区のモデルたちが霞んで見えてしまうほどである。

 

 エルネットも、エドワールの胸に飛び込む。


「姉を救っていただき、本当にありがとうございます。私からも感謝申し上げます」


「お安い御用です。さ、今度は村へ向かいましょうかね。カッパの口にきゅうりでも放り込んで、カ○パ寿司のレーンに乗せてクルクルさせてやりましょうかね。ガハハハッ!」


 エルネット、アメリエル。二人の美女は、エドワールの豪勢な強さに、ああ、ぞっこん、ぞっこん! 

 両腕に巻き付いて離れようとしないのである。

 

 三人一緒にボス部屋の出口へ向かうと、そこには、攻略パーティーの面々が、敗北者のオーラを漂わせて、突っ立っていた。


「エドワール、あなたって……」


 聖女クレナが、ふいに口を開く。また罵倒を浴びせかけるつもりなのだろうか。


「すっごく強いのね! あたし、見直しちゃったわ!」


 噓みたいに晴れやかな表情で、スキップしながらこちらにやって来るクレナ。

 エドワールの胸にダイブする。攻略パーティーの雑魚どもは、もはや眼中にないといった様子である。


「だろう? やっと分かってくれたんだね、クレナ」


 エドワールは、いつの間にか発達していた上腕二頭筋をピク、ピク、させてやる。


 三人の美女に囲まれながら、エドワールは攻略パーティーの奴らの前へにじり寄る。

 まるで魂が抜けたように、顔面を蒼白にしながら、ぼうっとエドワールを眺める剣士ハンス、魔術師カエサル、暗殺者セバスター。


「おい、そこをどけ、カスども」

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