第4話 罠は意表の味
ダンジョンの出口を目指して、しばらく洞窟の中を歩き進めていると、道が二本に分岐した場所にたどり着いた。
はてな、どちらが出口へ通じる正解の道だったか。
エドワールは、わずかな記憶を頼りに、エイ、と右側の道を選んだ。
すると今度は、道が三方向に分岐した場所に出る。……嫌な予感がする。
まさか、迷宮にまよい込んでしまったわけではないだろうな。
ダンジョンの中にランダムに出現すると言われている『迷宮』。
一度足を踏み入れてしまったら最後、複雑に入り組んだ狭い通路に閉じ込められ、行く先々で待ち構えるトラップに命を狙われ続ける、まさに蟻地獄のような状況に陥るという噂だ。
ああ、もと来た道を戻ると、先と道の形が変化している。道の分岐が三つから四つに増えている。
『迷宮』の性質。常に刻々と、その姿形を変える……。
ドラゴンに遭遇したと思ったら、今度は迷宮に閉じ込められてしまったとでもいうのか。
……なんて運がないんだ。
だがしかし、そんな悠長なことは言っていられない。目下の目標は、迷宮を無事に脱出すること。パーティーから追放されたうえに、こんな場所で飢え死にするなんて、絶対に御免だ。
適当な道に足を踏み入れると、天井の高い広い空間に出た。
「何もない、まるで部屋みたいな場所だ。ちょっとここで一旦、休憩するとしよう。あたりを調べてみれば、なにか使えそうなアイテムがドロップしているかもしれない」
そう言うとエドワールは、かたい床にドカンと腰を据えて、グルっと周囲を見渡してみた。すると、
「おおっ! なんだ、あの光るモノは!」
つい声を上げずにはいられなかった。広い空間の中央、金と銀の装飾が施された巨大な宝箱が、まるで何者かに開けられるのを待っているかのようにキラキラと輝きを放ちながら、鎮座しているではないか。
宝箱の中には、レアアイテムが入っているに違いない!
特殊効果の強力な首飾りだろうか、あるいは、飲めばたちまち基礎ステータスを爆上げすることのできる、チート級の霊薬かもしれない。
一目散に宝箱の許へ駆け寄る。
エドワールは宝箱の蓋に手をかけて、勢いよく開けた。
中には……なにも入っていない。自分が一人すっぽり入れてしまうほど大きな空っぽの底が、虚しく見えるだけ。
誰か先客が、宝箱の中身を回収してしまったのだろうか。……いや、それならば、宝箱自体が消滅していないと、おかしい。宝箱が落ちているということは、レアアイテムを入手できるということで、間違いはないはずなのだ。
ふいに、背中に冷たい風を感じた。入口の岩壁に、なにか白くて細長いものが寄りかかっている。
「あれは……なんだ?」
大きな穴が二つ開いた、白い球体。それに、怪しげに伸びた、四本の白い棒。
ああ、まさか、信じられないが……人骨ではないか!
どうしてこんな場所に、人骨があるのだ? その不気味な佇まいに、思わず身震いせずにはいられなかった。
……まてよ。中身の空っぽな宝箱。まるで、何かから逃げ遅れたかのように入口で息絶えた、白骨死体。この二つが意味するモノとは。
呼吸が乱れてくる。心臓が激しく脈打ち、全身の細胞に目まぐるしく酸素を送り込む。
エドワールの本能が、無意識的に警報音を鳴らしているのだ。
エドワールは、上を見上げてみた。天井に無数に開いた穴。穴の周囲が黒く焦げている。
まるで、穴から炎でも噴き出したかのように。
「マズい! これは罠だ!」
叫ぶと同時に、エドワールは一目散に駆けだした。縺れそうになる足を必死に動かして、懸命に出口を目指して走る。
白骨死体の横を通り過ぎる。頭蓋骨の眼窩が、うつろにこちらを睨んでいる気がした。
背中に熱を感じる。灼熱の突風が、エドワールの体を外へ押し出して。
ブオォォォ!!!!
天井に空いた穴から、巨大な炎が噴き出される。何百、何千もの炎の柱が渦を巻いて、岩肌を真っ赤に焼き尽くす。
危なかった。あと終秒、罠の存在に気づくのが遅ければ、自分は今頃、あの白骨死体みたく体の芯まで炎に焼かれていただろう。
こんな恐ろしいダンジョン、さっさと抜け出してしまおう。
エドワールは、迷宮の道をふたたび歩き始めた。
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