第2話 転生は不幸の味

「ここは……どこだ?」


 目を覚ますと、そこは雲の上のような、一面が白に包まれた世界だった。


「おはようございます。目を覚ましましたか」


 天から、鳥のさえずりのように美しい女性の声が降ってきた。


 すると突然、目の前に、靄のような塊が現れた。塊は、徐々に人間の輪郭を成してくると、やがて白い布を全身に纏った、巨大な女神に変化した。


「混乱するのも、無理はないでしょう。どうしてここに居るのか、その理由が判りますか?」


 そういえば、家でたらふく飯を食べていたら、急に胸が苦しくなって……気が付いたら、ここにいたのだ。


「あなたは、地球で死んだあと、運よくここ、つまりは死後の世界へ送られてきたのです」 


 パチンと頬を叩いてみる。痛い。夢ではないらしい。女神の言っていることは、本当なのだろうか。


「我が名は、女神ユリエ。この世に点在する全ての世界を司る、いわば絶対神のような存在であると考えてくだされば結構です」


 ふうん、絶対神の女神様、ねえ。俄かには信じがたい話に、腕を組んで斜に構えて女神を眺める。


「証拠は? そんな荒唐無稽な話、ただでは信じられないぞ」


「わかりました。では、あなたに使命を与えましょう」


「使命?」


「ダンジョンが乱立する世界へ降り立ち、規定の攻略パーティーに参加するのです。そこで大いに活躍し、誰の役にも立てなかった前世の罪を払拭しなさい」


 なにを言っているんだ、この女神は。ダンジョン? 攻略パーティー? 聞きなれない言葉に、頭が混乱してくる。


「百聞は一見にしかず。ステータスオープン、と大きな声で唱えてみなさい」


 仕方なく女神の言う通りに、「ステータスオープン」と唱えてみた。


エドワール・ルフレン


レベル:1

体力:10

攻撃力:1

防御力:1

素早さ:1


【固有スキル】

大食い


 すると目の前に、不思議な文字列が浮かび上がった。


「なんだ、これ」


「それが転生先の異世界における、あなたのステータス。基礎的な戦闘力と言って差し支えないでしょう」


「はあ……。この、固有スキルっていうのは?」


「転生時、それぞれにランダムに付与される能力です。ダンジョン攻略に役立つ、強いスキルだといいですね」


 大食い、とは、一体どんなスキルなのだろう。まさか、沢山ご飯を食べることができるだけ、だなんてこと、ないだろうな。


「転生した先で、あなたの所属する攻略パーティーが待っているはずです。では、異世界へ行ってらっしゃい!」


 次の瞬間、視界が光に包まれて、体全体が物凄いスピードで、どこか遠くへ吸い込まれてゆく……。


 こうして、女神様のとんだ気まぐれにより、大食いという最低最悪のスキルを携えて、ダンジョン攻略へ向かわされる羽目になったのだ。


 時を戻して……ダンジョン中層、うす暗い洞窟の中。


「これから一体、どうすればいいんだ」


 悲痛な独り言が虚しく反響する。


 レベル3の弱者が仲間も持たず、たった一人でこの先のダンジョンを攻略できるとは、とても思えない。

 恐ろしいダンジョン・モンスターたちの餌食になって、心身ともにボロボロに朽ち果てるのがオチだろう。

 

 では、このまま、ここに留まるか。いや、ここはダンジョンの中途。洞窟の岩壁に周囲をかこまれているとはいえ、決して安全な場所であるとはいえない。

 ダンジョン・モンスターに集団で襲われれば、戦闘スキルを持たない自分など、あっという間にやられてしまうに違いない。

 

 ダンジョンの入口へ戻る。たった一人で。それ以外に生き残る道は、残されていないのだ。

 

 グズグズしている暇はない。こうしている間にも、生命の炎を宿したロウソクは、ジリジリとその長さを縮めているのだ。

 

 さあ、出発するか。エドワールは、パーティーメンバーが向かった細道とは別の方へ、足を進めた。

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